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Jardin miniature 神々の箱庭で、少年少女は軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第4章 学園の影で闇は嗤う
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始動前夜

学園の地下。


遥か古、神と悪魔が刃を交えた神話の時代に築かれ、その役目を終えたはずの遺構。

今では地図からも抹消され、学園関係者のほとんどが存在すら知らない空白の地。


その最奥——。

苔むした石壁に囲まれ、淀んだ空気が支配する空間で、三つの影が対峙していた。


一人は、長身の男。

学園では、温厚で知的な対魔学講師として信頼を集める人物——ディーター・ボニファーツ。


そして、その正面。

不釣り合いなほど幼い二つの影が、崩れかけた石段に腰掛けていた。


「……ほう」


静かな声が、地下の静寂を揺らす。


「学園も、ようやく重い腰を上げましたか」


闇の奥から、少年の声が冷たく返った。


「何やってるんだよ、ディーター。

君がちんたらしてるから、気づかれたじゃないか」


声には隠しきれない苛立ちが混じる。


「遊んでいたからじゃないの?」


今度は、少女の声。

どこか冷めた、呆れたような響き。


二人は双子だった。

夜を溶かしたような黒髪に、獲物を射抜くような紅い瞳。

だが、その肢体に魔族特有の歪みや禍々しさはない。それがかえって、この世ならざる異質さを際立たせていた。


「ちょっとした遊戯ですよ」


ディーターは、事もなげに肩をすくめる。


「一気に幕を下ろしては、興を削ぐというものです」


「この場所を突き止められて、計画が破綻したらどうするつもりだよ」


少年が、鋭く睨む。


「その前には、確実に終わらせますよ」


ディーターは、張り付いたような微笑を崩さない。


「それに——遊んでいたのは、私だけではありません」


「……知ってるよ」


吐き捨てるように少年が応じた。


「他の奴らも、だよ。皆好き勝手にやってる」


「どうして、あんなに“待て”ができないんだろうね」


少女が、退屈そうに首を振る。


「欲望に忠実。実に悪魔らしいではありませんか」


ディーターの口調に、薄暗い愉悦が混じる。


——その瞬間。

ふっと、彼の輪郭が陽炎のように揺らいだ。


柔らかく整えられていた茶の髪は、音もなく闇を溶かしたような黒へと沈み、

穏やかだった瞳は、滴る血を思わせる深紅へと染まる。


張り付いていたはずの人間の気配が消え、

そこに立つのは、もはや学園の講師などではなかった。


「——やはり、こちらの方が落ち着きますね」


相変わらずの柔和な声音。だが、そこから漏れ出した濃密な殺気が、石壁の苔さえも枯らさんばかりに空間を侵食していく。


「身の丈に合わない欲は、身を滅ぼすって言うぞ」


低く、警告するように少年が告げる。

だが、ディーターは意に介さない。


「強欲は、我ら悪魔の性ですよ。抗えるものではありません」


一拍の沈黙。


「それに、私は——ただ遊んでいたわけではありません。収穫もありました」


双子の視線が、同時に男へと注がれる。


「……そうそう。そのお陰で、実に素晴らしい情報を得ましたよ」


「素晴らしい情報?」


少女が、小首を傾げる。


「ここには——あのランデュートの民が、留学しているのです」


「だから?ダウサリーには敵わないじゃん」


少年が即座に言う。


「ええ、有象無象ならそうでしょう。ですが——」


ディーターの声が、わずかに弾む。

期待に満ちたその響きに、双子は揃って怪訝そうな顔をした。


「ここには、いるのですよ」


ゆっくりと、その事実を噛み締めるように。


「本物の、“王族”が」


一瞬の沈黙。

次の瞬間——。


「へぇ……」


二人の口元が、鏡合わせのように同時に歪んだ。

無邪気で、残酷な、捕食者の笑み。


「それは——面白そうだね」


「うん。すごく、壊しがいがありそう」


ディーターは満足げに頷くと、地下遺跡のさらに奥、闇が深まる方角を振り返った。

その先には、学園全体に張り巡らされた結界の“核”が、人知れず鎮座している。


「では、そろそろ始めましょうか。仕上げの時間を」


「今度は、一気にやるんだな?」


少年の問いに、ディーターは深く頷いた。


「ええ。精神操作の魔術を、広範囲に一斉展開します」


「たくさん、連れていくんだね」


少女が、弾んだ声で笑う。


「ええ。もう“行方不明”などという生ぬるい言葉では済みませんよ」


地下遺跡に、低い笑い声が重なり、反響する。

それは、地上で謳歌されている平穏を嘲笑うかのような、不吉な調べだった。


誰も気づかぬまま。

破滅の歯車は、すでに噛み合っていた。

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