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Jardin miniature 神々の箱庭で、少年少女は軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第4章 学園の影で闇は嗤う
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水面下の歯車

夜。

学園の鐘が、冷たく静かに時刻を告げた。


寮へ戻る生徒たちの足取りは軽い。

あちこちで弾ける笑い声。何気ない明日の約束。


——不穏な噂は、まだ芽吹いてすらいない。


学園は、完璧な平静を装っていた。


⚜️⚜️⚜️


学園長室。


重厚な扉が閉じられた瞬間、部屋の温度が数度下がったかのような錯覚に陥る。


「……二名だ」


低く、苦い声を絞り出したのは学園長だった。

机の上には、二通の簡素な報告書。


「いずれも放課後の学園内。単独行動を確認された後、足取りが途絶えている」


「最初の生徒は、直前までボニファーツ先生と行動を共にしていたはずですが」


年配の教師が、探るように言葉を継いだ。


「先生は、何と?」


「自習を終え、寮へ向かう背中を見送った……それが最後だそうだ」


「もう一人の生徒も、教室に忘れ物を取りに戻る途中で……」


沈黙が部屋を支配する。

交錯する視線の奥に、共通の懸念が浮かび上がった。


「……やはり、何らかの術が使われた可能性を考えるべきでは?」


「いや」


学園長が、即座に否定する。


「学園内にマナの痕跡は確認されていない」


「では、物理的な誘拐だと……?」


「それも含めて捜査中だ」


言葉を重ねるほどに、空気は重く沈んでいく。


「やはり、聖騎士団に正式な調査を依頼すべきです。我々だけでは——」


「許可できない」


学園長の声は、氷のように静かだった。


「事件性を公に認めた瞬間、この学園の信頼は失墜し、取り返しのつかない混乱を招くことになる」


慎重な言葉。

だがその瞳にあるのは、平穏という名の薄氷が砕けることへの恐れだった。


「ですが、失踪から時間が経ちすぎています。

それこそ取り返しのつかない事態を招く恐れも……」


食い下がる教師を、鋭い視線が制する。


「生徒の動揺を避けるのが最優先だ。対外的には“所在確認中”として処理する」


「しかし!」


「——だが」


学園長は声を落とし、続けた。


「聖騎士団への情報共有は、内密に行う。

公式介入ではなく、あくまで非公式の“内密調査”としてだ」


それが、彼にできる唯一の——そして危うい妥協だった。


⚜️⚜️⚜️


同刻。

聖騎士団・臨時会議室。


選び抜かれた者だけが集う、窓のない一室。

中央に座す支部長の傍らには上官たちが並び、少し離れた位置にムスタファとライル、その背後にアルテリスが控えていた。


議題は、学園から持ち込まれた“生徒行方不明事案”。


「報告を」


短い促しに、ライルが一歩前へ出る。


「はい」


軽く一礼し、端的に告げる。


「現在、学園内で生徒二名の行方が確認できておりません。

いずれも放課後、単独行動中の失踪です」


ライルは感情を排し、事実のみを並べた。


「学園側の対応は?」


「表向きは“所在確認中”。事件性を否定し、内密な処理を求めています」


支部長が深く、重々しく頷く。


「保身と実利の天秤か」


一拍の沈黙。


支部長は資料に視線を落とした。


「同時期に学園内で二名の失踪。

結界石の破壊に続く行方不明事件。

他国の事例とも類似している——偶然とは考えにくい」


その場にいた全員の背筋に、冷たいものが走る。


「イルハン、例の教師について改めて共有を」


「はい」


ライルはディーター・ボニファーツの件を簡潔に報告した。


支部長は上官たちを見渡し、矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「今回の件は、ほんの始まりに過ぎん。

同様の被害は、今後さらに広がる可能性が高い。

一人でも多く救うためには、敵を早期に叩く必要がある。

——調査を継続しろ。裏付けを急げ」


「はっ」


最後に、支部長の視線がムスタファを向いた。


「学園内部については、引き続きご対応願います」


「承知しました」


ムスタファの低い声が響く。

それは、戦の前の静けさだった。


⚜️⚜️⚜️


地下。


古い石造りの空間。湿った冷気が肌を刺す闇の奥で、誰かがくすりと笑った。


「……学園も、聖騎士団も」


愉悦に満ちた、低い声。


「ようやく、盤上に上がってきましたか」


暗がりに響く足音。それは確信に満ち、迷いがない。


「ですが——」


足音が止まる。


「遅すぎましたね」


闇の中で男の口角が吊り上がる。


「準備は、既に整っています」


狂気を帯びた歓喜が、地下の静寂を塗り潰していった。

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