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Jardin miniature 神々の箱庭で、少年少女は軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第4章 学園の影で闇は嗤う
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空白の連鎖

夜。

等間隔に配置された灯が、規則正しく回廊を照らしていた。

昼の喧騒は嘘のように静まり返り、冷たい空気だけが石床に淀んでいる。


自習を終えた生徒たちは、三々五々、寮へと戻っていく。

遠くで響く談笑、小気味よい靴音。一日の終わりを告げる、ありふれた穏やかな時間。


「……あ」


その流れの中で、ふと足を止めたのは一年生の男子生徒だった。


「どうした?」


連れの生徒が不思議そうに振り返る。


「悪い。教室に忘れ物した」


少年は小さく肩をすくめて笑った。


「すぐ戻るから、先に行っててくれよ」


「分かった。あまり遅くなるなよ」


軽い調子だった。誰も、彼を引き止めはしなかった。


夜とはいえ、ここは学園の敷地内だ。巡回も機能しており、危険にさらされるなど、誰一人として想像すら及ばなかった。


彼は一人、灯りの続く回廊を静かに引き返していった。

——それが、彼の姿を見た最後となった。


⚜️⚜️⚜️


消灯時刻。

寮の名簿を確認していた寮監のペンが、ふと止まった。


「……戻っていないのか?」


同室の生徒が、怪訝そうに首を振る。


「忘れ物を取りに行くって言ったきりです」


「場所は?」


「教室です」


すぐさま確認が行われた。

教室。図書館。訓練場。あるいは中庭。


どこを探しても、彼の姿はなかった。


「……おかしいな」


だが、その時点ではまだ“事件”とは見なされなかった。


どこかで同級生と話し込んでいるだけかもしれない。あるいは、巡回に呼び止められて説教でも受けているのではないか。


——そう思いたかった。その“空白”に、まだ名前をつけたくはなかったのだ。


⚜️⚜️⚜️


翌朝。

教室の窓際、彼の席はぽっかりと空いたままだった。

朝の点呼にも現れず、寮にも帰還していない。


「……聞いてるか?」


同級生たちの囁き声が、湿り気を帯びて低くなる。


「昨日の夜、一人で教室に戻ったまま……」


誰も、その後の彼を見ていない。

回廊に争った形跡はなく、マナの乱れも検知されていない。


ただ——“途中で、消えた”。


⚜️⚜️⚜️


放課後。生徒会室。


机の上に置かれた簡素な報告書に、ムスタファは視線を落としていた。


「……二人目だな」


低く、温度のない声。


「今回は、夜。寮に戻る途中での単独行動です。

理由は、個人的な忘れ物」


アルテリスが静かに補足する。


「対魔学の講義とも、ボニファーツ先生とも、表向きの接点はございません」


ムスタファはゆっくりと息を吐き、椅子の背にもたれかかった。


「“奴と直接関わらない状況”での失踪、か」


指先が、机の端を軽く叩く。


「一見すると、前件のベルタン嬢の報告とは無関係に見える。だが——」


一拍。


「同時期に二名。他校での事例を鑑みれば、これを偶然と片付けるのは危険だ」


ムスタファは、感情を排した声で淡々と指示を下した。


「アル。学園には捜索継続を。聖騎士団には、“内部案件”として正式に共有しろ」


「承知いたしました」


アルテリスは、深く一礼する。


窓の外では、再び夜の帳が下りようとしていた。

灯は点き、巡回も回っている。昨日と何一つ変わらない光景。


それでも、“戻らなかった生徒”は、確実に二人になった。

誰にも見られず、誰にも気づかれないまま、その空白は静かに広がっていく。

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