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Jardin miniature 神々の箱庭で、少年少女は軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第4章 学園の影で闇は嗤う
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悪魔の民

授業は、何事もなかったかのように幕を閉じた。


夜。対魔学の講義室。

昼間の喧騒が嘘のように、整然と並ぶ机と椅子が沈黙の中に沈んでいる。


教壇に一人残ったディーター・ボニファーツは、窓の外に広がる夜景を眺めていた。

その横顔には、相変わらず穏やかで理知的な、非の打ち所がない“教師の仮面”が張り付いている。


だが、その思考の底に沈んでいたのは、一人の少女の残像だった。


(……ジャミーラ・シャマル)


昼間の光景が、鮮明に脳裏をよぎる。

揺れる視線。押し殺した動悸。

正義感と、それゆえに生じる微かな迷い。


(隠せているつもりだろうが……零れ落ちているよ、お嬢さん)


ディーターは、愛おしいものを愛でるように、静かに口角を上げた。


「悪魔の民、か……」


節くれだった指先が、滑らかな机の縁をなぞる。


(ランデュート)


その名は、この世界において永きにわたり忌避と蔑称の代名詞であった。


——悪魔の民。


世界が彼らをそう呼ぶ“理由”を、ディーターは誰よりも深く理解している。


遥か古。神王が悪魔を識別し、人の世から排除するために施したとされる“しるし”。

闇を溶かしたような黒髪。滴る血を思わせる紅い瞳。

それこそが、悪魔の現れであり、決して交わってはならぬ印だとされてきた。


(実を言えば、皮肉な話なのだがね)


その特徴は、あまりにも不運なことに、ランデュートの民の外見的特長と酷似していた。

彼らは悪魔ではない。ただ、悪魔に“似ていた”に過ぎないのだ。

だが、それだけの理由で、彼らは数多の年月を恐怖と迫害の中で過ごすこととなった。


(群れをなす生きものとは、実に単純で滑稽だ)


似ているというだけで、本質を見極める前に拒絶する。

違いを確かめる手間を惜しみ、思考を止めて排除する。


だが——と、ディーターの瞳が、獲物を狙う獣のように細まった。


(……ランデュートの民は、確かに“違う”のだよ)


彼らが単なる“似姿”ではないという真実に至っている者は、この広い世界にもほとんど存在しない。

光の側に身を置くジャルダンの民は、その事実を知らない。いや——知り得ないのだ。


ランデュートの民がその身に宿す、もう一つの徴。

歴史の塵に埋もれた、呪わしき真実。


(魔神の血——)


彼らは遥か昔、神々の時代に“魔神と交わった血を引く者たち”の末裔。

だからこそ、彼らの本質は、我らが渇望する存在へと限りなく肉薄している。


(性質が、あまりにも近い)


悪魔と。あるいは、魔へと堕ちた高次の存在と。

恐怖や絶望に触れた際の魂の鳴動。マナの変質。精神の可塑性。

そのすべてが、悪魔を受け入れるために誂えたかのように親和している。


(……素晴らしい素材だ)


ディーターは、うっとりとした溜息を吐き出した。


(完全憑依体の“完成形”——。そこに最も近づける、至高の器)


彼の視線が、闇に溶ける講義室の奥へと向けられる。

しかも、この実り豊かな学園には、その貴重な素材が一つだけではない。


(ジャミーラ・シャマル)


(そして——)


彼女の周囲に集う、同胞の影。


(ムスタファ・ランデュエル)


(ライル・イルハン)


立場も役割も、抱く信念も三者三様だ。だが、彼らには共通した致命的な弱点がある。


(守るべきものが、多すぎる)


抱えるものが多いほど、それを失う恐怖は肥大し、耐え難い重圧となる。

極限の選択を迫られた時、彼らはどのような絶叫を上げ、いかに美しく堕ちてくれるだろうか。

ディーターは、闇に向かって静かに微笑んだ。


(……急ぐ必要はない)


まずは、一人。


最初の契約という“楔”さえ打ち込んでしまえば、あとは勝手に連鎖していく。

教壇の上で、彼は再び非情なまでの静寂を纏い、教師の顔に戻った。


(悪魔の民——)


(いや、“悪魔に最も近い隣人”よ)


この学び舎は、彼にとってあまりにも豊穣な狩場であった。

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