チートを超えたチートスキルのトリガー
天水晴那 AP0 VS インディ・オーラ AP1800
「スキルの出来が悪いと思ったら、ここでエース衣装を出してくるとは……奴さん、ここで決めてくるみたいだな」
ますます剛風まで吹き荒れる大雨。
降水の勢いがさらに増したのか、吹き込む風に合わせてステージにまで雨が浸食してくる。サンルーフの端やステージの際に振る雨が弾け、脚や顔に細かくなった雨として水がかかる。
「この腕前……たしかに【一桁級】を引っ張り出さないと勝てそうにないわね。
下手なランクのアイドルよりもはるかに強いわ」
「ふふ、お褒めにあずかり光栄です」
賞賛の言葉を贈るとインディは、胸に手を当てて紳士の如く上体を折って返した。
冷や汗みたいに頬をぬらしている私とは反対に、インディ・オーラの方は、演出として出ているはずの電磁波が本当に膜になっているのか、私ほど風に髪がなびかず、降り注ぐ水滴すら浴びていないように見えた。
「でもAP1800でスタンバイなんて、いささかこっちを侮りすぎじゃあないか?」
「それを補うのが、あの三枚の伏せカードなんじゃないの?」
確かにビャコの言うとおり、1800ポイント程度でスタンバイはかなり危ういラインだ。
いくらこっちが全部リセットされたとはいえ、同様にリカバリーし直せば、あっという間に逆転できる。
おまけに、より不安を与えているのが、開始からずっと気になっている伏せカードの群れ。
最後の場面だというのに、まだ三枚もこっちに公開されていない。
「それに……わざわざスキルまで使用して呼び寄せたワンピも、追加コーデの条件が特殊すぎる割りには、効果が極の選択だけだとは思えない。まだ何か隠されているはず……」
「そういうことなら、〈ヴァルナーガジャケット〉と〈ヴァルナーガスカート〉の出番だな。
あの二着があれば、相手の衣装を封じることができる上に、こっちの衣装も防御できる!
ラッキーなことに、〈ヴァルナーガシューズ〉は手札にある!」
「いや、その戦略は使えない……」
「え? 何でよ!?」
その理想通り制圧しきることができれば、こっちとしては御の字だ。
だが、その鉄板戦略を簡単にさせてもらえない理由がまだある。
「忘れたの? インディの手札には、相手の衣装に対して効果を発動した瞬間に止めに入る〈ファントムシルクハット〉が残ってるのよ」
インディが唯一開けている場所、それはアクセサリーのゾーン。
シルクハットが飛び出す条件はもう一つ。
それは、着ている衣装がSとNの両極揃っていること。
インディは今、N極にしたワンピとS極にしたシューズをそれぞれ着ている。
条件を満たした状態でそこを開けている以上、完全防御兼妨害札の〈ファントムシルクハット〉は必ず使ってくる。
「それより、この状況から逆転する手段を考えないと。――プリズムドローにかけるわ!」
プリズムドロー。
ドローフェイズでのドローを放棄する代わりに、絶対に割り込みされないトゥルーワードミュージックカードをデッキ外から手札に加えるスキル。
現時点で私の手札は四枚。
しかし、半分がバウンスで戻ってきたから、実際は二枚。
次のドローでもう一枚加わって五枚になるとはいえ、この状況から逆転を期待するにはかなり頼りづらい。
なによりも、相手がバンバンと妨害を伏せている以上、割り込まれない制約付きのカードは、この状況では心強い。
過去に生み出したカードはそれも強力だったが、ビャコがかき集めたプリズムストリームの中で私の意思によって何が形勢されるのか、こればっかりは完全に運となる。
スキルを発動させる合図を示すように、私は掌を掲げて発動を促す。
「ちょっと待て! そういうリスクを今負うくらいなら、別のタイミングで新しいスキルを試すチャンスだ!」
「新しいスキル?」
まさに土壇場という状況の最中に、突然の秘密兵器を隠し持っていたことをカミングアウトしたビャコの言葉に、私は思わずスキャナーをのぞき込んだ。
「といっても、プリズムドローのタイミングを遅らせるだけだけどな……だが、いくら自分の意思が素材になるとはいえ、運に任せて下手なカードを引くよりかはマシだろう!」
一理ある。
ビャコにしてはまともな助言だ。
「あいつに【黄黙天】を破って【神姫殺し】になったお前の恐ろしさを叩き込んでやろうぜ!」
【黄黙天】を破った……。
熱の入ったビャコのその一言に、私ははっと思いついた。
「はぁ~~、こんなところで彼女の名前を聞くことになるなんて……あんまり良い思い出がないんだけどなぁ」
それまで余裕をかましていたインディだが、刹那の二つ名を耳にすると、どこか気まずそうに頭を搔いてぼやく。
「精神攻撃なんてサイテー!」
「うるへい! こちとら、その【黄黙天】をぶちのめしてメジャーデビューしてんだよ!」
またビャコが他人のマスコットと余計な口喧嘩をしている。
アイドルやパートナーをそっちのけでレスバトルしあうマスコットの合戦が漫才に見えたのか、どっちかが返す度に観客から笑い声が立ち始める。
ネット掲示板のスレッド合戦みたいに白熱するビャコは置いとくとして、活路が見えた。
五月蠅いスキャナーを構えて、改めてインディ・オーラと対峙する。
「私のターン、ドロー!」
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