永続アクシデントの脅威
天水晴那 AP2380 VS インディ・オーラ AP1150
「私のターン! ドロー!」
再び訪れるインディのターン。
デッキトップから、空を切るほど豪快にカードを引く。
その動作に天気が合わせたのか、雨に次いで強風が吹き荒れる。
降り注ぐ雨が施設を湿せて、濡れた資材の匂いが鼻に運ばれる。
「さぁ、ここからがインディ・オーラのショータイム!」
ドローフェイズで加えた一枚を見ると、インディの口がニヤリと笑った。
「まずは手札から、〈ヴァルドラミスブーツ〉を追加コーデ!」
空いていた最後の枠――靴が埋められた。
トップスとボトムスとは名前が違う――黒と薄紫色、それから白のフリルっぽい装飾がついた、ちょっとゴシックを混ぜたヴィランっぽいデザインをした、ベルト付きのロングブーツだ。
「このシューズは自分が〈ヴァジュラレガリア〉を着ている時、手札から追加コーデできる!」
その黒艶の靴が出たとき、私がワンピを出した時ほどの声量は抑えめだが、少しだけ期待の籠もった感嘆が出始める。
「〈ヴァルドラミシューズ〉の効果! このカードを着たとき、極をどっちか選択する! 私は〈ヴァルドラミシューズ〉にS極を与える!」
極を決定した途端、〈ヴァルドラミシューズ〉を飾る白いフリル部が青色に変わる。
「あれまぁ! 相手もフルコーデ揃えちまったよ……」
「シューズのAPは560ポイントで合計APは1210。アクセまで出して全部揃えても、まだこちらの方が上……。ただ……」
ここまで衣装を揃えておいてもこちらの合計APが優勢とはいえ、まだ伏せた二枚のカードがまだ見えてこない。
さっきから、それが一番気になってしょうが無い。
苦虫をかんでいる様に唇をゆがめている私の顔を見て、インディは悪戯っぽくクスっと笑みを浮かべた。
「――気になっているようだね。それなら、ご期待に応えて! 永続アクシデント〈超電磁チェンジ〉発動!」
ここでやっとインディが伏せたカードのうち、一枚を立ち上げる。予想通りアクシデントだが、これまでのアクシデントカードと違うタイプだ。
「永続アクシデント……」
書いて字の如く、永続的に効果が持続するアクシデントカード。
本来のアクシデントカードは、効果を発動させて役割を終えるとランドリーへ直行してしまう使い捨てのカード。
だが、永続アクシデントの場合は、発動して表向きで存在し続ける限り、ずっと効果を発動し続ける性能を持つ。
【紫智天】葉鳥朔真が得意する〈アルテミストラ〉のミュージックや福山美祿が使用したBGM――バックグラウンドミュージックのアクシデント版だ。
こいつを止めるには、こちらも効果で物理的に退場させるしかない。
今インディが見せた永続アクシデントは、ピンク色の電磁波の中でSとNの文字が入れ替わるようなイラストが描かれていた。
「このカードが発動し続ける限り、一ターンに一度だけ、私の着ているコスチュームの極を変更することができる」
「極を変更する?」
「今奴が着ているのは、S極のトップス、N極のトップス、S極のシューズ、そしてS極のシルクハット……」
現時点で、インディ・オーラの着ている衣装の中で仲間はずれの極は一つだけだ。
「その効果で、〈マルティススカート〉の極をS極に変更するよ!」
そびえたまま蒼いオーラを放つアクシデントの効果によって、インディの腰に纏われたスカートのフリルも青へと変色していく。
「さーて、理科の問題だ。磁石で同じ極同士を向き合わせると、どうなると思う?」
準備が整った余裕からか、えらいもったいぶった物言いでインディがシルクハットのつばをつまみながら問いかける。
「はいわかりまへん、超電磁郎先生!」
ビャコがふざけた口調で煽り返す。
「答えは……〈ヴァルドラミスシューズ〉のフルコーデ効果発動!」
正解発表をするような声に応じて、インディのシューズが輝く。
なぜか天候までノリに乗っているのか、雷まで豪快に鳴り響く。
「このシューズを履いている状態で、自分のコスチュームの極が揃ったとき、お互いのステージ上のコスチュームを全て手札に戻す!」
「反発作用ってことね」
磁石で同じ極同士を近づけると離れる現象――それをモチーフにした効果なのだろうが……そんな科学作用なのに、効果発動のトリガーを押されたシューズが、バチバチと電流を沸かし始める。
手札に戻す効果は、ドロップに反応する〈ヴァルナーガワンピ〉では防ぎようがない。
「ごきげんよう、〈ヴァルナーガワンピ〉!」
全戻しはお互い様。
だが、ウィンクをして煽るインディに対して、この状況に何もできないまま呆然と立っている間に、シューズから円形の電磁波が一気にステージに押し寄せた。
この電磁パルスは演出用の仮想映像のはずなのに、静電気に当てられたように肌にピリリとした刺激が走る。
後方へ毛先が運ばれる並に合わせて、スキャナーにおいていたカードまでもが剥がれとび、私の衣装が一斉に戻された。
「んげぇ! 自慢の毛が逆立っちまった!」
スキャナー型になってもフワフワとした毛をはやしたビャコも、怒れる猫みたいに毛先がツンツンと総立ちしている。
「まだ私のターンは終わってないよ!」
相手もせっかくフルで揃えた衣装が全て脱がされたが、その全ては手札に揃っている。
「もう一回、手札から〈マルティストップスS〉を通常コーデ!」
再びトップスに蒼いトップスが着せられる。
まるで前回のターンをもう一回繰り返すように。
「このカードがコーデに成功したとき、デッキから反対の極を持つ〈ヴァジュラレガリア〉コスチュームを手札に加える。私はもう一枚の〈マルティススカートN〉を手札に加える」
潤沢になった手札に、さらに手札が加わる。
しかし、なぜ手札にあるはずの同名カードをもう一回持ってくるのかは、まだ分からない。
「そしてS極の衣装を着ていることで、手札から〈マルティススカートN〉を追加コーデ! その効果によって、デッキから〈超電磁〉と名の付いたアクシデントを一枚選んでセット!」
残り片方がまだ正体を明かされていない中、インディのミュージック・アクシデントカードゾーンに、さらなる一枚のアクシデントが伏せられる。
「さらに〈ヴァルドミラスシューズ〉を、S極に指定して追加コーデ!」
怒濤の勢いで、手札に戻したはずの衣装を改めて出しまくり、猛攻の如く布陣を整え直していく。これでヘアアクセを除く、全てが元の状態に戻った。
「あららら! こっちごと全部脱がせたと思ったら、あっちだけあっという間に元通り手前まで仕切り直されちゃったよ! なんだ、この展開力は! 本当に【黄黙天】に負けたのかよ!」
驚異のリカバリースピードにビャコが悲痛の叫びを上げる。
確かに、この再生混みの展開速度は、並のアイドルが出せる技量じゃない。
「これで驚くのは早いよ――準備はいいかな、アイラ?」
「おうよ! いつかQ-key.333にリベンジする時のために構築したスキルプログラムの試運転を、ここでさせてもらうぜ!」
スキルという言葉を聞いた途端、私とビャコがピクリと反応した。
「スキルですって!?」
「その人工マスコットにも搭載できるのか?」
相手の持っているスキャナーは、オリジナルでもない別規格の人工マスコットのはず。
まさかビャコと同規格のマスコットを持っていた福山美祿や、スキルありきの対戦を発祥させたQ-key.333との対戦以外で、しかもアイドルでもない者がスキルを用いてくるなんて。
「スキル発動! Vトゥゲザー!」
インディがスキャナーを掲げると、それに応じて装置が青白い輝きを放つ。これもスキル演出なのか分からないが、また雷光が轟音と共に瞬く。
「自分がフルコーデ状態の時、手札を一枚棄てることで、デッキからワンピースカテゴリーのカードを一枚持ってくる!」
スキャナーを輝かせながら、インディは手札の一枚をスキャナーに飲み込ませ、代わりにスキャナーが一枚のカードをデッキから吐き出す。
派手な演出や豪快なフリの割りには、結構地味な処理だった。
「ぺぇッ! なんてお粗末なコードだ! あれでリベンジする気かよ!」
半球型のモニターにわざわざ顔を表示してまで、ビャコが吐き捨てる。
確かにインディ・オーラにしては、演出すらない地味すぎる一連の流れだ。
しれっとプログラムを分析していた様だが、ここまでプロに悪態をつかれるとなると、おそらくスキルとして組み込むことはできても、それ以外のところにまで手が回っていないらしい。
だが、問題はここでスキルを使ってまで、わざわざワンピースを指定して手札に呼び寄せたってことは……。
「あいつ、仕掛けてくる気みたい!」
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