貪食な帽子〈ファントムシルクハット〉
天水晴那 AP0 VS インディ・オーラ AP1000
「奴の場には、二着のコスチュームと二枚の伏せカード。おそらく、どちらもアクシデントカードだ。今までの悪戯を考えると、かなりトリッキーな妨害になると思うぜ!」
ターンが巡ると同時に、ビャコが盤の状況を解説する。
確かに、ファーストコンタクトから対戦までの間にいろいろと悪戯の範疇を超えた妨害に遭ってきたからこそ、そういう展開が得意だと思うのは当然かもしれない。
「私のターン! ドロー!」
受け渡される後攻の番。
デッキからひき加える一枚を見る。
「〈RDティアーズ ヴァルナーガシューズ〉をコーデ!」
元から履いているパンプスから、黒いゴシックとサイバー要素が混じったシューズに代わる。天水晴那の得意とする〈RDティアーズ〉ブランドのエンジンを担うキーパーツ。
それが出たことで、観客達から感嘆の声と少しの拍手が起こる。
せっかく先攻を得たインディ・オーラが二着も衣装を着たのに、こうも反応が違うとは。
注目の的が移っている観客の反応に、流石のインディも露骨に苦笑いを浮かべていた。
「そして、手札の〈ポリゴンタトルスカート〉をランドリーに送り、手札から〈リットルパズルワンピ〉を追加コーデ!」
手札を一枚コストにして追加で出されたのは、蒼い液体が詰まったボトルの装飾がされたワンピース。
リットルパズル。
つまり水槽の中に入った水をお題の通りのリットル数にする数的処理をモチーフにしたワンピース。
そして、過去に活躍させた〈リットルパズルトップス〉の改良型だ。
「うぇ! 二枚もカード伏せてるのに、もうその新作をお披露目しちゃうのか⁉」
ビャコがこちらのプレイングに仰天の声を上げる。
「そんなものを恐れるくらいなら、最初からこの挑戦を受けていない!」
現状は二枚の伏せカード。
つまり、明らかに迎撃されるかもしれない罠が二枚もある状態だ。
そんな渦中の中で、臆さず展開させるのはいささか無謀にもとられるだろう。
それはインディも感じているのか、その無鉄砲さをからかうようにニヨニヨとした笑みを浮かべている。
「まずは……ランドリーに送られた〈ポリゴンタトルスカート〉の効果! このカードがランドリーに送られた時、自分の着ているコスチュームの下に〈シェルベッコチャーム・トークン〉をアンダーとして追加コーデさせる!」
コストとして洗濯籠に送られた緑色のスカートがスキャナーの中で輝き、私の履いた靴に鼈甲の小さなチャームをつける。
「さらに〈リットルパズルワンピ〉のコスチューム効果! このワンピを自身の効果で追加コーデした時、コストとしてランドリーへ送ったコスチュームを、このコスチュームの下にアンダーとして追加コーデさせ……」
呼び出した新作〈リットルパズルワンピ〉の効果はまだ終わっていない。
効果を発動させるためにランドリーに棄てた〈ポリゴンタトルスカート〉のカードが、幽霊の如く透明になってワンピの上に重なり、力を与えるが如く溶けながら、緑色のオーラを纏わせる。
「その後、そのコスチュームのAP分、相手コスチューム一着のAPを下げる!」
効果の内容を告げながら、私の掌にボール大の水球がチャポンと音を立てて湧き出す。
〈ポリゴンタトルスカート〉の持つAPは400。
こちらは400アップし、同時に相手のAPも同じ分下げる効果のエフェクトだ。
「――テンパランスガロン!」
「――手札の〈ヴァジュラレガリア ファントムハット〉の効果発動!」
技名を叫んで水球を振りかぶりかけると、それよりも早くインディの手が動いた。
「自分がS極とN極のカードを着ている状態で相手がこちらに対して効果を発動したとき、このカードに任意の極をつけて追加コーデして、その効果を無効にする!」
まだこちらのターンなのに、手札の一枚を手裏剣のように投げつける。
そのカードは回転しながら、シルクハットになりながら私の元へ飛んできたかと思ったら、目の前で止まりながら帽子の怪物にさらに化ける。
牙をはやして口角をつり上げて、モノクルグラスが目玉の用にぎろりと向いて煽るシルクハットの怪物が、ゲゲゲと奇妙な笑い声を上げる。
「なにっ!」
突然現れたシルクハットの化け物に驚かされて動きが一瞬だけ止められる。
その隙に、帽子の化け物は再度笑い声を上げて、私の手に溜められた水球を一口で飲み込んだ。
「伏せたカードからじゃなくて、手札からのアクシデント……っぽい何かに止められちった⁉」
効果を呑飲して下品にわざとらしいゲップをして効果の処理を終えた帽子の化け物は、そのままインディのうす紫色の長い髪に回りながら飛んでいく。
改めてちょこんと頭上に乗ったことで、インディの衣装が少しずつ怪盗らしく揃っていく。
「このシルクハットにはS極をつけよう」
ブーメランの如く戻ってきたシルクハットに話しかけるように、インディが極を選択した。
それに応じて、シルクハットを飾る白色のフリルが、じわじわと青色に染まっていった。
「くっそー! しれっとコスチュームを増やしてAPアップしちゃって! おまけに、伏せたカードの正体もつかめぬまま!」
「それなら、こちらも守りに転じるまで!」
戦略の切り替えを告げるように、私は〈ヴァルナーガシューズ〉のつま先を立ててきゅっと音が鳴るほどねじると、その動作に合わせて青白く光る魔方陣を出現させた。
「煌方陣展開!」
悪天に遮られてほの暗い中、発光する煌方陣がはっきりと見えているのだろう。
生で見られた〈ヴァルナーガシューズ〉の発動させた効果演出を前に、観客達が待ってましたと言わんばかりに歓声を上げ始める。
「私は〈リットルパズルワンピ〉と〈ポリゴンタトルパンツ〉の二枚を素材にする!」
より一層まぶしく光る煌方陣の光りに当てられ、指定されたコスチュームが崩れて液状に代わりながら、私の身からはじけ飛ぶ。
弾けて床に飛び散る寸前に、巻き戻るように私の体に戻ると、衣装だった液体が結合して違う形の衣装へと形を変えてゆく。
「コスチューム・ディゾリューション!」
天水晴那のデッキのエンジンを担う〈ヴァルナーガシューズ〉の効果。
それは――〈RDティアーズ〉ブランドを二着ランドリーに送ることで、デッキから別の〈RDティアーズ〉ブランドのコスチュームを1着追加コーデできる。
「リンケージコーデ! 現れろ! 〈RDティアーズ ヴァルナーガワンピ〉!」
バシャンと水が弾けて、天水晴那を象徴する黒いワンピースが水滴を払ってお披露目された。
登場のタイミングに天気が合わせたのか、黒々とした曇天から、とうとう雨が降り始めた。
激しい雨音が割り込む最中、その衣装名がステージ中に轟いた途端、より一層黄色い歓声がどっと沸き上がった。
「着たね、天水晴那のエースコスチューム!」
本気の象徴と受け取ったのか、インディが期待の籠もった声と笑みを浮かべながら身構える。
今まで、ずっと畏怖と侮蔑の対象だったのに、アルカナカップで優勝してからは、久しぶりにまともな歓声を受けられた。
今でも顔には出せないが若干嬉しいと思う反面、Q-key.333の天下が揺らいだ途端に肯定的になる反応に複雑な思いがよぎった。
「〈ヴァルナーガワンピ〉のコスチューム効果! 一ターンに一度、〈シェルベッコチャーム・トークン〉をアンダーとして追加コーデさせる!」
着終えて早々に私がワンピースに命じると、もう片方のシューズに、鼈甲のチャームがつけられる。
地味な絵面だが、これで私場には〈RDティアーズ〉ブランドのコスチュームが四着揃った。
「さらに〈ヴァルナーガワンピ〉の永続効果! このカードのAPは、自分の場の〈RDティアーズ〉の数×100ポイントアップする! 私の場にある〈RDティアーズ〉は四枚! よって、合計400ポイントアップする!」
着ている衣装達がそれぞれの光を放ちながら、〈ヴァルナーガワンピ〉を包む紫色のオーラとなってパワーを与える。
ワンピの持つAPは1230。
それに400ポイント加わった事で1630となり、シューズの分も加えると合計APは2380。
この時点でインディを超えている上に、限界までもう一声欲しいラインまで高まった。
まだ相手が何を伏せているのか読めないままリードするのは危険に見えるが、そのための〈ヴァルナーガワンピ〉であり、災厄を迎え撃つ準備も整っている。
ターンを返すには、十分な布陣だ。
「私はこれでターンをチェンジする!」
天水晴那 AP2380 VS インディ・オーラ AP1150
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