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遊園地しばまたパークへ

 ひどい鉛色の曇天。


 依頼を受けてから数日後。


 ショーのリハーサルをやると聞かされて、私は仲介役を担ったエマの運転でシバマタパークへ向かった。


 アルカナカップの開催は梅雨明け頃。


 そのはずだったが、せっかくの遊園地日和とは言いがたい、気が滅入る空模様だ。


 これは隠密用のパーカーを着といて正解だったかも。


 膝にユニフォームを入れたリュックを抱えながら、私は車窓の空を疑った。



「いや~、まさかあのときテレビ番組を架けて戦った相手とこうして再会するなんて思わなかったよぉ~」



 護衛役として付いてきた雨羅刹那が、缶ジュースを片手に思い出に老けていた。


 同じく護衛で来た葉鳥朔真は、膝の上に置いたノートPCで何やらパタパタと作業に集中していて、親友の会話に乗らなかった。



「超電磁怪盗インディ・オーラ……印東虎胡」



 シバマタパークの宣伝用パンフを見る。


 A4サイズのポスターに映っているのは、二人の少女。


 いや、一人二役だ。


 手前にはショートヘアの中性的な顔立ちをした少女が、まるでどこかの劇場で王子様役をやっている俳優のような気取ったポーズを決めている。


 その後ろでは、灰色のストレートの上にシルクハット。


 変身前のあの薄そうな胸のどこにかくしていたのか、憎たらしいほどバインバインに盛られた双丘。


 背中には宵闇の様なマントという、中世時代の怪盗というテンプレ衣装を来たかわいらしいクラシックスタイルの女怪盗。


 これが、今展開されている七代目の超電磁怪盗だ。



「前から思ったんだけど、なんでオメェがインディ・オーラと戦ってたんだ? そこまでして冠番組が欲しかったのか?」



 ユニフォームの入ったリュックからひょっこり顔を出したビャコが刹那に尋ねた。



「いや、あれは運営がボクを選抜したんだよ」


「なんでだ?」



 それには朔真が拾って応えた。



「インディ・オーラが得意とする戦術に唯一刺さるすべを持っていたのが、【黄黙天】こと雨羅刹那だけだったからだよ」


「まぁ、いわゆるメタ戦略ってことだね」



 エマも言っていた、天敵である刹那を護衛によこした理由。


 それは、沈黙という場外に対する効果を与える【黄黙天】の名に恥じぬ戦略を得意とするから。


 強いて言うなら、【黄黙天】こと雨羅刹那は、どんな相手だろうと制圧できる猛者だ。


 いくら〈トニトルス〉の戦術がインディ・オーラのメタになったからといっても、『ディーヴァス神姫』のアイドル以外にはオーバーキルにも感じるくらいだ。


 ただ、「グループアイドル以外の相手に負けたら即脱退」という鉄の掟を課せられたQ-key.333からしてみれば、適当なアイドルをぶつけては負けて人手をやらすリスクを取るよりも、確実に潰せる相手をぶつける方が見栄えも危険性もない。それ故の選択だろうと思った。



「久々に曽場マキノを見たが、けっこうな剣幕でお出迎えされたねぇ。昔、テレビで見た元主役俳優に、あんな憎しみを込めた目で見られたのは、なかなかできる経験ではないな」


「随分と老けてみえたのは、年のせいじゃないと思いたいな」



 朔真の感想を、ビャコが拾って茶化す。


 自分も主役を演じていたタイトルシリーズを、あの一戦の敗北で終わらせられてしまうと、思いっきり怨恨を込めて睨まれるのも仕方が無い。



「なんでもいいけど。私達は、真面目にショーをしにきたわけじゃないのよ。この勝負に勝って、私達元Q-key.333のメンバーですら知らなかったスキャナーの謎を聞かないといけない」


「元メンバーでさえ知らない構造か……。朔真の知恵でも見つからなかった何かって事だよな」



 露骨にじとっとした目でビャコが朔真を睨む。



「私に向かってそういうのをやめてくれないか?」



 言いながら、ゴホンと咳払いをして座り直す朔真。



「実は君達に話を降る前に、エマ義姉さんから聞かされて、私なりにもいろいろ調べて見たんだぞ。


 だが、私や刹那のスキャナーは、君に敗北したことで自決プログラムが作動して完全破損。


 ただ、私も所属時代に何度かPCと接続してみたが、この事件の尻尾になりそうなものは見つからなかった。


 それは君も体感済みだろう、白猫くん」



 一刺し指を伸ばして、朔真がビャコに振る。



「ああ、対戦中に何度かQ-key.333のスキャナーを探らせてもらったが、お前と同じ感想だ。


 せいぜい、スキルのテンプレデータや、過去の対戦ログ、それと盤上解説用のサポートAIに、自決プログラムと紐付けされたIDぐらい」


「――おそらく、設計者や運営にしか分からない隠し仕様があるのかもしれん」



 機械とプログラムに強い二人が、あれこれ話し合っている横で、私は刹那に話しかける。



「とにかく、どんなことをしてでも、彼女に勝たないと。刹那、あんた戦ったことがあるんでしょ? あのときは、どうやって勝ったの?」


「あれ? 番組見て予習してなかったの?」


「テレビのは、完全に演劇に沿った展開で全然参考にならなかったわ。ほとんど現実でカード化されてないし……」



 刹那は腕を組んでうーんと声を出した。



「そうだねぇ……。開幕からカードを伏せる戦略だったから、伏せの除去を優先して沈黙レベルで封じる手段で行ったら、随分と調子悪そうにしてたなぁ」


「まぁ、〈トニトルス〉のロック効果を相手にしたなら、誰だって調子崩されるわよね」



 刹那の話では、沈黙を食らった様子とその後の動き方だと、きっと伏せた罠が主体の戦略なんだろう。すると、刹那は「ただ……」と声を低めながら続けた。



「それでもしぶとい相手だったよ。巧妙な罠を強いて獲物を狙い、決して捕まらない怪盗。見かけは伊達じゃない。はっきり言うと、ボクじゃなかったら、ディーヴァス神姫の誰が行っても、良くて苦戦になっていたかもしれない」



 つかみ所がなく脳天気そうな笑みを浮かべていた刹那が、珍しく神妙な面持ちでそう言った。



「相手がただの俳優でも、油断はするなってことね」


「強者はQ-key.333以外にも存在する。それは、君が一番よく知ってるんじゃあないかな?」



 Q-key.333以外に存在する強者。


 それを聞いて一番に福山美祿(ふくやまみろく)の顔が思い浮かび、私は納得した。



「みんな、そろそろ付くわよ」


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