天水晴那に初のオファー?
「変態からお前にお願いだってよ!」
一応、真摯なお願いだが、ビャコは軽率に茶化すように勇作へ振りながら煽る。
「研究や実験一筋のお前まで、なぜその会社からの依頼に拘る。紹介の報酬に何か交換条件でも持ちかけられたのか?」
『半分は正解だ。ただ、それは君達にとっても、我々にとっても重要かつ必要な情報だ』
その言葉を聞いた途端、勇作Pは一瞬だけ硬直すると、直ぐに姿勢を改めて、無言の引き受ける意思を見せた。それを察したのか、燎子から咳払い代わりに嘲笑が一声だけ聞こえた。
『依頼主は確かに〈バイチャヤンチャ〉と言ったが、正確にはその部署のウチ一つ――いや、プロジェクトメンバーとも言うべきかな?』
「アイドルグッズ製作スタッフじゃないのか?」
『それとは対を成す部署だよ。
――聞いて驚くがいい。
依頼を持ってきたのは、五代目〈超電磁怪盗〉マグナ・ソルヴァを演じた元俳優――今は七代目のインディ・オーラのマネージャーをしている曽場マキノだ』
〈超電磁怪盗〉。
その名前を聞いた途端、今度は私が固まった。
女児向け特撮の代名詞で、女の子ならみんな、テレビに向かって一度は見て育ったと言っても過言ではない有名特撮番組。
もちろん私も、楽しんで見ては憧れて、育てられた。
依頼を持ってきた曽場マキノ演じるマグナ・ソルヴァはまだ見ていた年齢だったが、今の印東虎胡演じるインディ・オーラは今年からの作品で、とっくに特撮を卒業した私は追いかけてもいない。
おまけに〈超電磁怪盗〉シリーズも、Q-key.333と番組放映時間をかけたバラエティゲーム番組で、まだ【黄黙天】だった頃の雨羅刹那にボロ負けして放映権を取られてしまい実質終了。
そんな終わった番組のスタッフ――しかも元俳優が持ちかけてきたことになお驚かされた。
「番組潰されて落ちぶれたイケメン女優のお世話係が、法王杯を制したアイドルキラーの天水晴那に一体なんのようだ?」
ちょっと関心に揺らいだ私とは対照的に、ビャコがそんな冷たい評価と共に噛み付く。
こいつ、日曜朝の特撮は欠かさず見ている癖に、金曜ゴールデンに放送されていた女児向け特撮は趣味ではないらしい。
「とある遊園地で開催される〈超電磁怪盗〉のショーに、ゲスト役として対戦して欲しいって依頼よ」
画面を独り占めする燎子の顔をぐっと横にのけて、エマが強引に入り込みながら詳細を出す。
「仕事内容自体はシンプルだな」
草薙さんが言った。
「問題は……その依頼を引き受けたところで、俺達に何の利点がある?」
本題はそこだ。
勇作Pは腕を組んだまま、要である報酬の詳細を求めた。
すると、燎子は改まって真剣な顔になって口を開いた。
『――Q-key.333専用のスキャナーの秘密だ』
「スキャナーの……秘密だと?」
『そう、しかも私達どころか元メンバーの朔真達ですら知り得なかった機能についてのね』
〈アクアクラウン〉内の空気が凍る。
時間や音も全て止まるほどに。
今更、多人数のアイドル管理用に量産するべく独自開発されたスキャナーに何の秘密がと思う反面、今まで気にもとめなかった機械に隠された謎に関心がよっていく。
「確かに気になる話ではあるが、なんでそんな重要な情報を、俺達の件とは全く無関係な連中が知ってるんだ?」
草薙さんが沈黙を裂くべく切り出す。
それにはエマが率先して応えた。
『ちょっと向こうの事情も混み合ってて複雑になっているんだけど、今度〈超電磁怪盗〉側から久しぶりに新商品情報――つまり、新しい玩具がでることが決まったみたいで、彼女達はその企画書をアイドルグッズ専門部からもらったみたいなの。
本来はQ-key.333で出るなりきりグッズの新しいのが出る予定だったけど、おじゃんになったから、低迷している〈超電磁怪盗〉へお情けで再利用される予定だったみたいよ』
おじゃんになった理由は察しが付いた。
Q-key.333側が、玩具にさせるほど所属アイドル達に役立つ新しいツールを配布しようと動いていたことが気になるが、そうなる前に、主に私がアイドル達を悉く潰しまくったことで、それどころじゃ無くなったのだろう。
「その企画書の中に、Q-key.333製のスキャナーについての詳細があったってのか?」
『うーん、ほぼほぼそうだって言ってたわ。詳しくは企業秘密だから全部は明かせないっていってたけど……』
「その報酬が、秘密というわけか……」
エマの返答を聞きながら、勇作はブラウザを立ち上げて、そのQ-key.333製スキャナーのなりきり玩具のウェブページを開いた。
DXQ-key.333スキャナーとレタリングされたロゴの傍には、かつて自分も持ったことがあるマイク型のスキャナーが貼られていた。
好みの色が選べる単色カラーリングのもあれば、『ディーヴァス神姫』が持っていた特注品もモデルにしたものなどレパートリーは多数。
流石に本物と遜色ないとは言いがたい作りだが、大きさは同等な上に、普通のスキャナーとしてエンプリスでの対戦が可能――つまりカードを読み取らせてそれを着ることができる。
本物と比べて搭載されてないのは、スキル搭載のモジュールと盤上確認のモニター、それから敗北を察知して機能を自ら停止させる自決プログラムぐらい。
『〈バイチャヤンチャ〉が製造販売しているQ-key.333製スキャナーのなりきり玩具は、実物を参考にして精巧に作られてるの。しかも外見だけじゃなくて一部の機能や衣装の実体化処理とか内部のプリズムストリーム関連の技術とかもね。もはや、一部の機能がオミットされたレプリカと言っても過言では無いわ』
「スキャナーの謎……。勇作、それは俺も気になる」
珍しく真剣な声を発して、ビャコが依頼の受注に賛同した。手の中で真面目になったビャコを、私はそっとデスクの上に立たせた。
「そういえばお前、スキャナー内のプログラム解析ができたんだったな」
草薙さんが言いながら、ビャコに視線を落とす。勇作Pもチラリと横目で見る。
ビャコは白虎型の生きたマスコットでありながら、マイク型のハンディスキャナーに変形できる特殊な機構を内蔵している。
生き物なのか機械なのか、未だによくわからない謎の生物だが、その謎の部分のおかげで、自決プログラムの発見や、Q-key.333専用の量産型スキャナーに独自搭載されたスキルの解析と独自模倣など、天水晴那の優勝だけではなく、アクアクラウンをはじめとして、この事件の発展に大いに役立っていた。
「あのスキャナーに何か隠されているっていうなら、俺としてはじっくり解析したいところだ」
真剣な面持ちで賛成を示すビャコ。
だが、当の勇作Pは渋っている。
「わからないのは、そのショーでの対決が及ぼす影響だ。こちらはともかく、相手側が勝った場合のメリットが薄いと思うが……」
その意見には草薙さんも同じなのか、コクコクと小さく頷く。
『メリットなら十分にあるじゃない』
エマが紅の塗った唇をすぼめて反論する。
『あなた達に協力している澄香ちゃんは、今や話題の「神姫殺し」で、おまけに法王杯まで優勝した実力派アイドルの天水晴那よ。
Q-key.333の地位が安くなっている今、全メディアが血眼になって探している神出鬼没のタレントと共演できるだけでもレアなのに、そんな相手に勝ってしまえば、注目の的を独り占めできる。
澄香ちゃんの首にはそれくらいの価値があるのよ』
「自分たちの成したことの価値を知れ」というエマの力説に、私含めて全員が「あー」と気の抜けた声で思い至る。
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