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新アイテムの登場?

「――仕事増えたわよ! 虎胡ちゃん!」



 突然、バタンと楽屋の扉が開き、スーツ姿の女性が用紙を片手に意気揚々と入って来た。電灯で反射する眼鏡がきらりと光って見える。



 曽場(そば)マキノ。


 五代目の『超電磁怪盗』でマグナ・ソルヴァを四年演じた先輩で、今は『超電磁怪盗』シリーズプロジェクトを担う《バイチャヤンチャ》の社員。


 主な仕事は新しい『超電磁怪盗』の企画と、現演者である虎胡のマネージャー兼師事。



「「ついにテレビ放送復活?」」


「ショーの公演が3回に増えたわ」



 期待を込めて詰め寄る虎胡とアイラに、曽場は目を伏せたままトーンダウンして答えた。


 日に一回のショーが三回に増えた。


 確かに増えたが、それじゃない感に虎胡とアイラはガクッと肩を落とした。


 それも、恐らく脱退させられてライブが出来なくなったQ-key.333の埋め合わせだ。



「あとこのまま玩具の売れ行きが悪いと『超電磁怪盗』シリーズが完全に終了しそう……」



 まるでこっちが本題だと言わんばかりに、地声よりも更に下がったトーンになって曽場がとんでもないことを報告してきた。


 その勧告に虎胡は一気に血の気が引いてしまったが、自分以上に目の前の曽場が「ヤダヤダ」と駄々をこねる子供の様に楽屋の中で暴れた。


 せっかく持ってきた資料らしい紙束を、吹雪の様に散らして。


 クシャクシャと、じたばたずる曽場に巻き込まれてみるも無残に紙たちが皺をなしてゆく。


 これが五代目の『超電磁怪盗』を演じた元人気俳優の姿か。



「じゃあ、もうテレビなんかに見切りつけてネット配信に切り替えようぜ!」



 ジタバタするかつての相棒の有様を見ていられなくなり、アイラが呆れながら案を出す。



「電波とテレビに魂が捕らわれたオールドタイプの上層部が首を縦に振ってくんない……」



 アイラの案を耳にして、急にピタリと大人しくなったかと思うと、テーブルに顔を伏せたまま悲しげに答えた。そしてまた、車のワイパーみたいにグリグリと上半身だけ跳ね暴れる。



「魂が囚われる、か……」



 古い価値観の連中をそんな独特な言い回しで表現する曽場に虎胡はくすっと笑った。



「だったら、天水晴那や福山美祿の二人が、Q-key.333を更に弱体化させるまで待ってみようか。ちょうど【黄黙天】や【紫智天】も退所したことで別勢力になったことだし。プロジェクトが潰れるほど赤字になるよりも先に相手が滅ぶかもよ?」



 変に忖度をされるなら、いっそ価値がなくなるまで衰退を待ってみる。


 そうすればテレビ局側も見切りをつけて掌を返すように、放送時間を明け渡すかもしれない。


 虎胡の言葉にはったとしたのか、曽場はうつぶせたまま「たしかに」と納得の声を吐露する。


 それから、何かをじっと考えているのか曽場はぴたっと動かなくなった。



「もー、大事な資料を乱暴に扱っちゃダメじゃないか」



 どっちが年上なのか。虎胡はその間に、曽場が持ってきては散らかした資料を黙々とかき集めては、埃を手で払ったり皺を伸ばしてゆく。



「ところで曽場さん、この資料は何かな?」



 回収と整頓を済ませた後で、虎胡は曽場に持ってきた資料について尋ねた。


 社外秘と朱肉文字で押された判と《バイチャチャンチャ》のロゴマークがあるところをみると、新しく制作する玩具に関する設計図か企画書のようだ。



「あーそれ、別部署の開発から提案を受けてとりあえず受け取った新作玩具の企画書。インディ・オーラの新アイテムにどうかって……」


「新アイテムだって⁉」



 まるで本当に玩具を貰える子供のように、虎胡は目を輝かせて企画書を読み込む。


 ジャリ番、特撮ドラマの本質と役割。


『超電磁怪盗』は単なる変身ヒロインが主役の少女向けドラマではなく、作中に登場したヒロインたちのツールや、衣装が描かれた〈エンプリス〉のカードを再現玩具としてファンの子供たちに買ってもらう、いわば楽しめる広告塔だ。


 最近はテレビというか特撮の魔法が使える舞台から下ろされたことで、新ツールのお披露目が難しくなり、新作という言葉とはしばらく無縁の状態だった。


 というか、テレビから下ろされたことで本社であるバイチャヤンチャが、こっちに回す予算を削りまくった。


 別部署から、というのが少し引っかかるが、それでも新しい道具の登場に虎胡は興奮した。


 だが、その期待は表紙一枚だけ捲った途端に冷めた。



「インカムマイク? 今更こんなものを?」



 ぺらっと捲った二ページ目に描かれたのは、ゲーミングヘッドセット並みに片耳を隠せるほどのイヤーパッドと、自在に曲げられない固定マイクが伸びたインカムだった。


 確かにデザインは女の子に向けられたものだろうキュートな造形だが、どう見てもスタイリッシュな怪盗向きではない。


 というか、『超電磁怪盗』には怪盗とあるとおり、もっと隠密に長けた高性能な通信装置が既に出ている。



「それはね、Q-key.333のアイドル達に配布予定のインカム型戦略用アシストツール——のレプリカ。


 本社がQ-key.333のタイアップ商品として、そのレプリカを売り出す予定だったんだけど、当のQ-key.333がそれどころじゃなくなった。


 さぁ、これから制作って時に公開すら頓挫したから、インディ・オーラ使って売ってみないかって……」


「別部署って、Q-key.333側の連中からかよ……」



 アイラが長い鼻を鳴らして軽蔑しながら呆れた。


 〈バイチャヤンチャ〉内のQ-key.333部門と言ったら、彼女たちの関連するアイドル用のツールをレプリカの制作と、所属アイドル達を模したぬいぐるみの販売といった、いわゆるおそろいのなりきりグッズの専門。


 本来のアイドルは、事務所との契約と並行してプリズム協会という職能組織への登録が必須であり、認可証としてスキャナーに変形するマスコットを提供される。


 一方、所属アイドルが多すぎるQ-key.333は、例外的に無機質な人工補助マスコットが搭載された量産型スキャナーの開発と提供が許可されている。


 それと、上位勢になれば、専用のデザインやカラーリングが施されたオーダーメイドスキャナーが携帯できる。


 アイラが言った部署は、そういった様々なデザインのスキャナーのレプリカを主に扱うところだ。


 潰れかけのプロジェクトにボツ企画のおこぼれをくれてやろうって算段か。


 苦虫をかみつぶした様に渋い顔を浮かべる虎胡は、そのままパラパラと企画書を読み進める。



「そう言えば……その企画書を受け取る際に別部署の連中から聞いたんだけど、例の神姫殺し――天水晴那が、ある人物を探してるって噂よ」



 思い出したかのように顔を上げた曽場の言葉に、今度は虎胡とアイラの動きが止まる。



「人探し? 天水晴那がQ-key.333相手に訪ねて回るほど探してる人がいるって?」


「そうみたい。たしか、ナガタ、マホ? とか言ってたような……。ぼこぼこに負かしたメンバーに逐一聞いて回ってるってさ」


「ナガタマホ? 聞いたことないなぁ」



 ちらりと目配せしてアイラに振る。


 人工知能であるアイラも脳内や接続したネットワークから黙々と検索を駆けているようだが、リアクションは首を横に振るだけ。



「しばらく炎上騒ぎになったモデルアイドル失踪事件の関係者か?」



 アイラが口にしたのは、晴那に公で敗北したことで脱退を余儀なくされた【紫智天】が、ヘリコプター直帰という大胆な去り方をした際に放った爆弾発言の件だ。


 数日前、【紫智天】こと葉鳥朔真が主催する大規模オーディション戦。


 朔真直々にオーディションへ招待されて決勝を難なく勝ち抜いた晴那が、明確な敵対と殲滅を宣言して【紫智天】の首を取りに来たのは有名なシーンだ。



『世界中のブランドに属していたモデルアイドルは、《アートマンストラ》によって消された』



 この一声はしばらく動画サイトで自称ジャーナリスト共に連日取り上げられるほどネットを中心に騒がれたが、他の話題が出た途端に、ぱたりとどんでんのように静まった。


 確かに、探している人物がそれなら納得かもしれない。


 事実、【紫智天】を堕とした天水晴那は、その話を聞くためにヘリコプターで帰ろうとする朔真の後を追っかけて、共に空の彼方へ消えてしまったわけだから。



「そしたら該当するブランド会社が黙ってないはずだよ」


「だよなぁ……」



 襲撃の動機は以前不明のままだが、晴那の目的はQ-key.333の崩壊のはず。


 それなのに、その傍らで、Q-key.333のメンバーですらない人探しなんて珍しい話しだ。


 ましてや華麗にかつ強引に負かせた後に、あの天水晴那が探偵ごっこよろしく聞き込みをしている姿がどうにも想像できなかった。


 ますます彼女への謎が深まるばかりだ。そう思いながら再び企画書に目を落とす虎胡。


 すると途中で手を止めるほど興味深い項目が目に入った。


 Q-key.333が独自で持つ専用スキャナーの説明についてだ。


 レプリカとして表現するために、部外者にもわかる様に詳しい内部構造についての記述が細かに書かれている。


 だが、それは玩具化する際の参考項目というよりも、もはや専用スキャナーの解剖書といえる内容だった。


 虎胡はいたずらげに口角を釣りあげる。この項目は、使えるかもしれない……。



「ねぇ、曽場さん。次のショーの台本、私が決めてもいいかな?」


「え? いいけど……何かいいストーリーでも思いついたの?」



 とりあえず許可は出したが訝しむように聞き返す曽場に、虎胡は資料の束を筒状になるまで手の中で丸めてから、ぽんと掌を叩く。



「今話題の彼女を、ぜひともゲストとして招待しよう!」


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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