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新たな序幕~とあるヒーローショーの舞台裏~

今日から連載再開です。

なんでこれ、こんなに人気出たんでしょうかねぇ

「――さて、次の話題です。その年一番のアイドルを決める祭典〈アルカナカップ〉。開催から一ケ月が経ちますが、既に予想外の展開です」



 画面右上の時計が一三時ちょうどを告げる頃。


 遊園地しばまたパーク。


 その施設内に備えられたヒーローショー用のステージの奥にあるアクター控え室。


 一杯のサラダパスタを昼食として平らげた印東虎胡(いんどうここ)は、カップカフェオレを片手に、楽屋に設置されたテレビに移る元芸人が司会を務めるワイドショーを眺めていた。



「六月からスタートした祭典〈アルカナカップ〉。同月には法王杯と戦車杯との二種の大会が連続で開催されましたが、どちらの大会とも大人気グループQ-key(クーカイ).333(トリプルスリー)のメンバーから優勝者は出ませんでした」



 〈アルカナカップ〉。


 年に一度の三月三日に開催される決勝の舞台〈女帝杯〉での優勝を以て認められる最強のアイドルを決める祭典。


 大きな虹の橋が架かる季節。


 六月の梅雨明けを機に始まり、決勝の舞台である女帝杯が開催される三月三日までの期間中、大アルカナの名前を冠する合計二十回の大会。


 一回でも優勝すれば、本戦に出場できる資格をえる大型の予選形式。


 中には売れっ子故に多忙で大会に出られないこともあるが、その場合はファン投票や活動評価が評価点となり累積ポイントによって出られるケースもあるがそれはある種例外。


 〈エンプリス〉が普及された現代では、カードゲームに強ければ無名からアルカナカップに出る方が手っ取り早く本線に出られる。


 特に、今の日本で唯一無二にして最強無敵のアイドルグループともてはやされていた〈Q-key.333〉にとっては、その大会にでて他事務所を蹂躙してこそ、その証でもあった。


 それが、今やどうだ。


 VTRに併せてナレーションする声のテンションもやや低めになり、テレビ局側もなんらかの忖度をしているのか、頑なに優勝した出場者を祝うどころか一瞬でも写すような報道をしなかった。


 本人達は善意か奨励のためなのか、ただ負けて涙を流しながら退散していく無念のアイドルに画面を寄せるだけ。



「他事務所のアイドルに負けた時点でもうアイドルじゃなくなってるのに。価値のなくなった一般人を何でそんな必死に写してんだか」



 無言でカフェラテをすする虎胡の一方で、テーブルの上で器用に胡坐をかいている小型犬サイズの像のぬいぐるみ――象型マスコットのアイラもテレビを見ながら「Q-key.333」に架せられた「鉄の掟」を持ち出して突っ込んだ。


 それからは、よいしょばかりで身の無い法事か確かしないニュースをBGMに、虎胡はスマホに視線を写して、現段階での優勝者もとい〈女帝杯(エンプレスカップ)〉出場者の名前を検索する。



 法王(ハイエロファント)杯(カップ) 優勝 天水晴那(あまみはるな)(無所属)


 戦車(チャリオット)杯(カップ) 優勝 福山美祿(ふくやまみろく)(サンドリヨン)



 この二つの名前を見て、虎胡はつい声を漏らして小さく笑った。


 福山美祿。


 元人気男性アイドルだった幸神総一郎(こうがみそういちろう)が、独立して立ち上げた芸能事務所《サンドリヨン》の所属アイドル第一号にしてエース。しかも本人も今年デビューのド新人。


 法王杯とほぼ同時期の開催であった戦車杯には上位ランカーの連中が調整を理由に出場しなかったのも大きいが、それを差し引いたとしても、そんな子が開催初日からQ-key.333を押しのけての優勝は、なかなかできる芸当では無い。



「幸神総一郎の目も、なかなかに侮れないなぁ」



 それから。


 と虎胡は天水晴那の名前にタップする。


 ちゃんとした宣材写真を載せられた美祿とは異なり、晴那のはどこかの有志かパパラッチが取ったのだろう、ゲリラ撮影で取った画質の悪い写真がとりあえず載せられていた。


 天水晴那。


 数ヶ月前から突如としてお茶の間に現れた「巷のアイドルキラー」。


 過去経歴、所属も一切不明。おまけに制作者不明の謎のブランド〈RD(アールディー)ティアーズ〉を武器に、Q-key.333現るところに出現し、鬼神の如くアイドル達を蹴散らして去って行く。


 幸神総一郎が過去に所属していた《エンブリオン》の専属作曲家である草薙亮(くさなぎりょう)の曲(ちなみに無断使用)をかけた大会に、乱入したことで正式にテレビデビュー。


 それがきっかけでQ-key.333の運営である《アートマンストラ》に目をつけられたのか、Q-key.333の中で最上位ランカーである『ディーヴァス神姫(しんき)』の七名を迎撃に向かわせたが、なんとその中でランク五の【黄黙天(こうもくてん)】雨羅刹那(あまらせつな)と、ランク六の【紫智天(しちてん)】葉鳥朔真(はとりさくま)を撃破。


 その偉業とも言える戦績から、テレビ以外のメディアやSNSでは”神姫殺(かみごろ)し”として称号が進化していた。



「【紫智天】はともかく、あの【黄黙天】までうってくれるとはねぇ」



 Q-key.333の生末への不安と今後の応援を煽るテレビメディアと違って、虎胡の関心は謎に満ちた鬼神と可愛いド新人の方に向いていた。



「オレ達から金曜夜のゴールデンタイムどころか出番すら奪ったあの憎き【黄黙天】を、こうもあっさりと撃破してくれるなんてなぁ。敵討ちはスカッとしたが、当の下手人――天水晴那ってのは、一体何者なんだろうな……。どこであの強さを得たんだ?」



 憎き相手への敵討ち。


 おしゃべりできるサポートAIを積んだロボットにも拘わらず、アイラは一瞬だけすっきりしたように言った後で、次に沸いた謎への疑問を口にする。


 その生き物らしい仕草とセリフを聞いて、虎胡はくすっと苦笑いを浮かべた。


 確かに『ディーヴァス神姫』の一天、ランク5の【黄黙天】こと雨羅刹那には、番組を駆けた公開戦で大敗を喫した。


 おかげで、歴代の先輩達によってシリーズを重ねてきた特撮番組が、自分のせいで打ち切られ、Q-key.333に放送時間を取られてしまった。


 それに対して、恨んでいないといえば嘘ではないが、同時に自分の不甲斐なさ故の諦念もあった。


 ちらっと壁にかかったポスターに目を向ける。


 そこには、黒いシルクハットにマントといういかにもな怪盗スタイルに、茨のごとく巻きつく紫電を帯びたアイラと一緒に決めた印東虎胡の姿が映っていた。


 ポスターの下部にはレタリングされた文字でこう書かれていた。



『超電磁怪盗(ちょうでんじかいとう)インディ・オーラ』



 かつて金曜夜というゴールデンタイムで放送されていた『超電磁怪盗』シリーズという少女向け特撮ドラマで、代替わりを繰り返して一三年も続いている長寿番組。


 印東虎胡はその七代目の超電磁怪盗「インディ・オーラ」を演じ、様々なメディアやおもちゃ展開に加えて、虎胡自身の人気もあって歴代最高の売り上げをたたき出していた。


 だが、同時期に社会現象を巻き起こすほど勢力を増していたQ-key.333に目をつけられ、ゴールデンタイム争奪戦という大勝負の場で虎胡が【黄黙天】を相手に敗北。


 仕方なしに他の時間帯へ移ろうにも融通が利かず、結局確保できぬまま強制打ち切り。


 企画立案した玩具会社『バイチャヤンチャ』や出版社は、このままプロジェクトを消去させるわけにもいかず、今はこうして後楽園テーマパークでヒーローショーをやる形でなんとか継続させている。


 それでもなんとか生きながらえているだけで、実際はかなりギリギリだ。


 ショーに舞台を移した当初は、ファンの子供たちがそれでも見に来てくれたのだが、幼いながら『超電磁怪盗』は終わったと思われたのか、回を重ねるごとに観覧者が減っていく。


 その代わり前後で行われる、Q-key.333のライブの方に客を取られる始末。



「オメーをぼろくそに負かせて番組を奪った【黄黙天】が、なんか悪趣味な処刑番組を放送していたけど、あれもしれっと打ち切りになってたな。なんか、あんまり良い戦績を聞かない別のメンバーが主演する就業体験系の番組に移ってたけど」


「そのメンバーも、この前天水晴那に討たれて、打ち切りになったけどね」


「うぇえ! そうなの!?」



 アイラがとてもいいリアクションで驚く。


 たしかその後釜には、子供に見せるにはえぐすぎるほど品とモザイクと伏せ音も無い原作改変で全国のPTAが大激怒している実写ドラマが厚かましく枠を取っていると聞いた。


「あんな、さっきまで胎児だったものがあたり一面に広がる不倫ドラマを無修正で放送するくらいなら、『超電磁怪盗』シリーズに返してくれりゃあいいのに」


「スポンサー側も復活のために動いたらしいけど、どうもテレビ局が“うん”と言ってくれないみたいなんだ。当の連中は脱退しまくってあんだけ歯抜けになっているのに、意固地になってQ-key.333に忖度しているみたいなんだ」



 期待していなかったわけじゃないが、もう半分はわかり切っていた。


 どうにも頭の固さが異常なテレビ局側の断り方に、虎胡は呆れながらカフェオレを飲み干した。


 容器が空になって、ゴボゴボと空気を吸い込む音だけが楽屋に響く。


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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