-阿国side- 悩めるランク2
*
神息吹阿国は、嘘をついた。
先日の晩に起きたことの報告について。
ずっと引きこもって泣いていたはずの古奈アーシャが、突然部屋どころか無断で夜中に外出。
碧の報告で慌ててヘリまで用意して、みんなで迎えに行ったと思ったら、かつての仲間が天敵どころか敵対業者まで呼んでアーシャを浚おうとしていた。
阻止しようと挑むも、奴らに散々振り回されたあげく、まさか囮となって自分達からアーシャを見失わせて、どこかへ誘致されることを成功させてしまった。
この顛末を、粟久プロデューサーをはじめとした運営陣に、正直に報告せねばならないと思うと億劫だった。
ただでさえ、こちらの扱いはとても多人数アイドルグループの最上位メンバーとして支えている立役者とは思えないほどの扱いだ。
待遇に関しても、それ相応の仕事を与えられているわけでもないほど冷められていた。
挙げ句の果てに、最後に与えられた仕事は単なる討伐指令。
しかも、標的である天敵である天水晴那が未だに討たれずメンバー脱退が継続しているどころか、福山美祿という別勢力も台頭を表したことで、ディーヴァス神姫の評価はなおも下落中。
もはや看板娘ではなく、まるで排除命令に失敗して叱られた悪役組織の幹部みたいな扱いだ。
だからこそ、ここで正直に言うと、また運営陣から何を言われるか判ったもんじゃない。
それを察して、阿国は肝心な部分をぼかして『天水晴那の協力者が現れた』とだけ伝えた。
黙っていても良かったんだが、阿国がわざわざ運営共に顛末を話した目的は報告そのものじゃない。
粛正せねばならない協力者の存在は本当のことだし、ついでにアーシャを連れて帰るためにも、アイドルを数人借りたかったから、その申請のためだった。
幸いな事に、運営側はアルカナカップ予選の突破をアートマンストラじゃない事務所に先を越された上に、更に人員が削減されて、てんやわんやになっているから深く言及されなかった。
電話片手に話を着ていた粟久から、人員は多人数用のレッスンホールにいるアイドルから好きな面子を引き抜けと雑に言われて、阿国はそこへ向かっていた。
裏切り者への制裁は果たせたはずなのに、してやられた事に阿国のモヤモヤは深まるばかり。
いや、それ以前に……朔真の言葉が今でも引っかかっていた。
『私はむしろ、君がこの抗争に対して、何も思わないほうが疑問だがね。首になった我々が、即寝返ろうと思う動機ぐらい、君が一番痛感しているはずだろうに。何が、君をそこまでQ-key.333に固着させるというのかね?』
朔真のあの台詞。
まるで自分達があえて敵対した理由がこっちにもあるような言い草。
いや、こちらも同類だというような物言い。
(わたくしが痛感だなんて。……もしかして、朔真が去り際に言ったモデルアイドル失踪の件のことかしら……。確かにあの件も気になりますが、それに関してわたくしと直接関わりがあるなんて……なによりもあの後の臨時会見ではデマゴギーであると説明されたわけですし)
阿国自身は、ちゃんとオーディションを経て自力でアートマンストラに所属した身だが、入所したあとで実家の神息吹グループがスポンサーとして協力を申し出たことで、阿国自身も所属アイドルでありながら、出資している父と共に事業の説明を聞く側に参加することもある。
それ故に、あの暴露は衝撃だった。
それについてはアートマンストラが即座に緊急会見をもうけたが、一貫して根拠のないデマであると強引に説明されて言いくるめられた。
ただ、その疑惑によって派手なスポンサー離れはおきなかったが……今となってはその場しのぎにしかなっていなかった。
ただ、寝返ろうとする動機という部分については、自分の中で少し納得している部分があったことを思い出した。
なぜ自分が、アイドルらしいことをさせてもらえず、組織にとって不都合なライバル潰しの命令を受けているのか。
こうして報告まで億劫になってたのかも。
本来ならば、アルカナカップの予選のための調整をしているはずなのに。
それどころか出たかったドラマのオーディションとか、新曲のレコーディングとか、番組のリハーサルとか、少し前まではスケジュールが埋め尽くされていたのに、最近はめっぽう無くなってヒマを持て余している。
(固着ですって? わたくしは誉れあるランク2。そしてディーヴァス神姫が一天【赤滅天】なのですわ。私の素質を見出し、そして輝かせてくれたグループやアートマンストラを大事に思うのは当然の話でなくて?)
コツコツとヒールをならしながら廊下を歩く阿国。
だけど、それは反論とうよりも強引に自答して無理に納得させているようで、自ずと足音が嫌に荒く響き渡っていた。
「入りますわ!」
最近では使うこともなくなったレッスンホールの扉を蹴飛ばすように豪快に開ける阿国。
武道館と言った広大なステージを想定し、全メンバー333人が一丸となって振り付けを覚えるための広大なレッスンホールが広がっているはずだったが――
扉を開けた先は、見知った空間ではなくなっていた。
「――な!?」
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