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戦力激減からのプロトタイプ

「〈トニトルス〉はともかく、〈ハオマネクト〉は、まだ種類こそあるだろう。代用品で復帰はできないのか?」



 草薙さんが言うと、エマは横に首を振った。



「残念ながら、朔真のエースもワンオフ着よ。しかも、こんなに派手に壊されちゃあ、流石の私達でも一日や二日で戦線復帰は無理だし、再カード化だってすぐにだってできない。仮に申請が通って今スキャナーが届いたとしても、しばらく戦力になれないわ、ごめんなさい……」


「戦力にならないってんなら、こっちだって同じだぞ……」



 消沈してリタイアを宣言するエマや燦子に便乗して、ビャコが指を差して言った。


 そこには、ボロボロになった私の衣装を改めて見ている勇作と幸神の姿もあった。



「〈ヴァルナーガワンピ〉に〈ヴァルナーガポニフェワンピ〉、そして〈ヴァルナーガシューズ〉までもが全損か。まずいな」


「無事だったのは、手札に握ってた〈ヴァルナーガコーラルワンピ〉と、〈ブルーマグノリア〉でデッキに戻していたコスチュームだけだな。大葉璃玖に助けられたな」



 損傷具合に顔を顰める勇作と慰める幸神。


 そんな傷ついた子を見る産みの親の苦悩を見せられて、私は思わず気まずさに顔を逸らした。


 今までエースとして表に立った〈ヴァルナーガワンピ〉に、強力な牽制能力をもった〈ヴァルナーガポニフェワンピ〉。


 そして一番痛手でもあるのが、それらを支えるエンジンを担ったリンケージコーデの起点〈ヴァルナーガシューズ〉。


 特にシューズが全損してしまっては、RDティアーズのデッキは成り立たない。


 それくらいのレベルに落ちるまで被害が及んでいたのだ。



「こちらは衣装が直るまで戦線離脱という訳にはいかないぞ。あの艶井鼎が、広いホールで天水晴那を指定している以上は、大人しく話し合いで引き渡すとも思えない」



 草薙さんも腕を組んで頭を垂れながら苦悩を吐露する。



「いくら天水晴那でも、かなっぺ相手にエース抜きで勝つのは無理だと思うよぉ」


「それなら〈ハーシーパドマ〉の〈ウォルターリリー〉シリーズを持っていくのはどうだ? ――すまない、そんな睨まないでおくれよ」



 冤罪なのに不正の証拠としてアートマンストラに奪われた挙句、朔真が勝手にオーディションの副賞に再利用された遊生澄香本来のデッキを提案に出した当人の無神経な意見はともかく。


 前に使ったことがあるカード――それがヒントになって私は閃いた。



「――手はある!」



 私は勇作Pがいつも持っているブリーフケースを手に取ってテーブルに載せた。


 チャックを開けて中をまさぐる。


 この中には業務用のPCや資料の他にもデザイナーらしく裁縫セットから、そしてデッキを調整するためのカードストレージも入っているのだ。



「何をする気だ?」



 ビャコが鞄に顔を覗かせながら尋ねた。


 工具箱みたいなプラ箱を取り出して蓋を開ける。


 中には端から端までびっしりとカードが並んで詰められていた。



「〈ヴァルナーガ〉シリーズのプロトタイプがまだある。それをデッキに入れるわ」



 カードの束を掴んで箱から取り出し、一枚一枚めくりながら目的のカードを探す。


 プロトタイプ。


 いわば一つ前のモデルで改良される前の衣装。


 それを一番大事な戦いでの主戦力にしようとする私に、周りが一斉にざわついた。



「無茶だ。相手は一回勝ったとはいえ、お前の師匠だった元アイドルなんだぞ。デッキが違うとはいえ、型落ちで勝てる相手じゃないはずだ」



 状況を鑑みて草薙さんが止めようとする。


 それは勇作Pも思っていたのか、頷きながらも同じ眼差しで私を見る。



「大丈夫よ。だって――一つ、どんな状況であっても、艶井鼎に勝てなければ、蓁原詩弓にリベンジなんて出来ない。

 二つ、このデッキには私だけじゃない、勇作Pや草薙さん、ビャコの無念だって入ってる。デッキはそれに、今までだって応えてくれた。

 三つ、私はカナ先輩だけじゃなくて、白波勇作という名アイドルにも師事されて、法王杯を制して神殺しにもなれた。強くなった私を、先輩に改めて見せてあげるわ」



 構わず指を立てて立証する代わりに、かつてデッキに入れていた元主力となったカードを三枚引き抜いて応えた。


 皆はまだ納得出来ずに口を歪める中、勇作Pだけは根負けのため息をついて、ポケットに入れていたレザーケースを取り出した。



「そういうことなら、こいつを持っていけ」



 それは一枚のコスチュームカードだった。



「新しいアクセサリー?」


「幸神の独自ブランド〈ミトロニオス〉のあれを覚えているか? あのじゃじゃ馬のデータを元に作った試作着だ。形だけは出来たが、デザインが気に入らなくて渡すのをためらっていたんだが、この際仕方がない。使ってみろ」



 じゃじゃ馬。


 それをこの耳で再び聞いて、私は昨晩のことを思い出して戦慄した。


 意思を持って着主を選ぶ衣装のことを。


 片や攻略に手を焼くほどの暴れ馬で、もう片方は高飛車な性格ですらねじ伏せる気迫を持つアイドルのエース。


 デザインが気に入らない、と言っていたが……確かに勇作Pらしくない、ゴシックどころかロックでもない、単に禍々しくホラーテイストが多すぎるアクセサリーだった。


 まるで先住民の首に提げてそうな、何かのしゃれこうべを並べたネックレスだ。


 これまで勇作Pの作った衣装が手に余るとか扱い難いということは無かったが、一抹の不安を覚えながら私は礼と共に受け取った。



「あんだけ会う勇気が無いってごねてたけど、やれそうか?」



 あぐらを搔いてテーブルに散らばるカードを眺めながらビャコが怪訝な顔で聞く。



「……先輩がアーシャをちゃんと引き渡してくれれば、この戦いが終わるわ。一時の気まずさのために、全ての解決の鍵を失ってなるものですか」



 それに対して、私はデッキを整えながらビャコを見下ろした。


 すると、勇作Pが私の頭に手を乗せた。


 撫でなかったが、暖かい男の人のてが髪を伝って少し心地よかった。



「全部自分一人で気負おうとするな。今回は、俺も同行させてもらう」



 勇作Pの意外な宣言に、楽屋にいる全員がどよめいた。


 今まで勇作P達〈アクアクラウン〉が歯がゆい思いをしながらも表にでなかったのは、今もなお浚われた大葉璃玖のため――動機のある首謀者が堂々と表に出てしまうと、危機を感じたアートマンストラが璃玖を完全な人質にしてしまう、最悪の結果になることを防ぐためだった。


 それは私こと遊生澄香が、天水晴那として姿名前を変えていることも同じ理由だった。


 他事務所が大切にしていたアイドルを騙して引っこ抜いた後で、徹底的に汚したあとでその姿を悪趣味な脅しとして使う奴らだ。


 私の家族や知り合いに、何をしてくるか分かったもんじゃない。


 それを承知の上で、〈ハオマネクト〉や〈トニトルス〉が競合という名目で天水晴那に内密で代理や斡旋、補助をしていたのに、ここで改まって首謀者が表に出ると宣言されては、驚かれるのも無理はない。



「反対はしないが、お前との顔合わせをしてどうするんだ。三者面談か?」



 長年の相棒として今まで勇作Pの決断を疑わなかったビャコが、珍しく異を唱えるように尋ねた。



「……親のように澄香を可愛がっていた艶井鼎に、殴られに行くだけだ。信頼していた後輩を、そそのかした悪い男としてな」



 それは、同じくらい笑わないし笑いに疎い勇作Pの口から出た、初めての冗談だった。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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