激戦の代償
「ごめん、衣装壊しちゃった……」
一人の乙女を駆けて、宵闇に開催された歌姫達の大聖戦という祭りの後。
古奈アーシャ奪還戦を終えて、文字通りボロボロになった私達は、シバマタパークにあるサンダードームの楽屋に身を寄せていた。
戦地になった御瀬路セントラルパークで戦った私達四人に加えて、芦屋エマに楽舎燦子、白波勇作に草薙さん、ついでにインディ・オーラのマネージャーにして、この作戦を立てるきっかけとなった超電磁怪盗の制作委員の一人である曽場マキノと、大勢の人たちが狭い楽屋に介していた。
作戦は終了。
朔真の口では成功という形で本来は勝利ムードなのだが、掛けられたコートフックにぶら下がっているボロボロの衣装達が、逆に盛り下げている原因になっていた。
その衣装達とは――雨羅刹那と葉鳥朔真、そして私が着ていた主力のコスチューム達。
〈ヴァルナーガワンピ〉や〈ヴァルナーガポニフェワンピ〉。
その下には同じくらい破損した〈ヴァルナーガシューズ〉。
そして鏡台の前には粉々になった〈サブマリンイエローヘアアクセ〉まで。
先日の激闘が明らかに原因なのだが、破れたというレベルを遙かに超えた具合で破損された状態でハンガーに掛けられていた。
「玩具で本家と戦わせたのが原因らしいけど、そんなのでスキャナーが煙を上げるほど壊れるものかしら?」
煙が出たのは本当らしいが、半球モニターが割れている玩具スキャナーを持ち上げながら、エマが口を開いた。
隣では燦子も同じく、壊れた玩具を手にして応える。
「いや、もっと他にもあるぞ。正規スキャナーである、そこの白虎型マスコットが機能停止という一番重傷に陥っているほどの余波が、あの公園全体に及んだのだろう」
そんな分析と同時に燦子が目を落とすと、それに釣られて全員の目がテーブルに寄せられた。
機能が停止した白い虎柄のスキャナー。半球型のモニターは灯らず暗転したまま。
いつもなら大鼾をかいて寝ているはずのビャコだけど、一晩経っても、勇作Pに見せても、未だに立ち上がる兆候を見せなかった。
あれだけ騒がしかったのが電池の切れたスマホみたいに黙り込んでいると、言い知れない不安が私によぎった。
「プロデューサー……ビャコは……」
衰弱して目を閉じたままの小動物を見ているような気分で、私は不安のあまり勇作Pの傍に寄った。
流石の勇作Pもいつも通りの無表情ではなかったが、思わず袖をつまんできた私を一瞥すると、落ち着かせるように静かに言った。
「大丈夫だ、応援を手配している」
「手配だって?」
と草薙さんが聞き返すと、言下のタイミングで楽屋の扉から籠もった声が聞こえてきた。
「ねぇ、プロデューサー。本当にここに入って良いの?」
「ああ、警備員の案内だとそこだな」
「ちゃんとノックして挨拶しながら入るんだぞ」
「分かってるって!」
コンコンとノックが鳴った後で、誰も許可を帰してないのに扉がガチャンと開かれた。
「失礼しま~――す!?」
聞こえた声は三人。
その中で先陣を切った一人が扉を開けると、思わぬ人物と目が合った。
いや、逆に大勢の有名人達に見つめ返されて、挨拶仕切る前に硬直させてしまった。
「美祿ちゃん?」
猫耳みたいなシニヨンに、最近は通えてない私の学校の制服の上に自前のパーカーを着た赤髪の女の子――福山美祿だった。
「おや、この子か……。Q-key.333を退けて戦車杯を勝ち抜いた新人アイドルというのは」
「デビューして間もないと聞いていたが、我々を見ただけでこの反応、本当に初々しいねぇ」
顎に指を乗せて興味津々というか嫌らしい目つきで、美祿ちゃんを眺める燦子と朔真。
「彼女が来た……とうことは?」
エマがじっと美祿を見たあとで、その後ろに視線を移して背を伸ばすと、ご名答と言わんばかりにもう一人の声の主である男が入ってきた。
「リユを連れてきたぞ、白波勇作……」
幸神総一郎。
かつて白波勇作のチームメイトでありライバル、そして今は芸能事務所〈サンドリヨン〉を立ち上げた福山美祿のプロデューサー。
その手には、手土産と言わんばかりに青龍型のマスコットが頭を掴まれてぶら下がっていた。
「すまない、助かった」
勇作Pが立ち上がって礼を言う。
幸神はそのままテーブルに青龍型のマスコット――リユをそっと下ろした。
「さて、ちょっと見てみようか……」
着地と同時にぐっと背伸びをしたリユは、そのままスキャナー状態のビャコの元に歩み寄る。
短くて爪もない柔らかい腕で、堅いスキャナーの表面を触りながら、いろいろブツブツ言いながら診察をするリユ。
すると、リユはボタンすらないスキャナーの一カ所をスイッチがあるかのようにぐっと押し込むと、マイク型スキャナーが白く光ながら収縮して、白いトラ猫――もとい白虎型のマスコットに変形した。
いつものビャコの姿に戻ったが、険しい顔のまま目を閉じて大の字になって仰向けている。
眉も腹も動いているということは、死んでいるとかではないらしい、ただ目を閉じて苦悶しているだけのようだ。
マスコット形態に戻ったあとで、よいしょというかけ声と共にリユがビャコを起き上がらせると、その後頭部をめがけて一発豪快にぶん殴る。
ゴチンと鈍い音がなったかと思ったら、その衝撃によってビャコが咳き込みながら、口から何かを吐き出した。
毛玉ではない、ほんのり虹色を帯びたあめ玉の様な物体。
それが外へ出されると、外気に触れたドライアイスの様に塵となって消えていった。
「ゲホッ、ゲホッ! ぷは~~助かった!」
数回咳き込んだ直後、ビャコが目を開けてしゃべった。
「「ビャコ!」」
「心配かけたな……」
目に涙をにじませて、口から垂れたよだれを拭っているほど本調子に戻ってくれたビャコを私は思わず抱きかかえた。
勇作Pも安心のあまり表情が緩くなって、らしくないほどビャコの頭を片手でなで回していた。
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