〈天地開闢プララースタティ〉
「待たせたな。では改めて私のターンだ」
メインフェイズ開始の宣言と共に、詩弓が腕を振るう。
カードを覆っていた光が弾けた。
「気をつけろ! そもそも発動を止められないトゥルーワードミュージックを前に、〈メリフヴァルナーガホン〉は使えないぞ!」
「わかってる!」
【煌閃天】が自力で生成した未知の力を秘めたカードを前に私達は身構える。
詩弓はそれをスキャナーに叩き付けて読み取らせた。
「煌めき達よ! 我が新しき力を以て、今こそ貴公らの期待に応えて見せよう! 手札より発動! トゥルーワードミュージック〈天地開闢プララースタティ〉!」
キィンという甲高い音を立ててセットされると、今度はスキャナーが確かに読み取っている稼働音が続けて鳴った。
周囲に吹いていた虹色の風が止んで、空気がぴたりと張り詰めた。
改まって包まれる静寂、詩弓が静かに息をはきながら、両手の指を静かに動かした。
あれは、印だ。
指の形を組み合わせて形をつくっている。
二度も印の形を変えると、最後には両手を胸の前に掲げ、上下に添える。
ぴたりと空気が止まった。
その手のひらの狭間。
何もないはずの空間が歪む。
――いや、違う。
”何かがそこに生まれている”
黒。
ただの闇ではない。
光を拒む、いや、光をそのものを食らっているような、底の見えない圧縮された”無”の塊。
球体は脈打つように肥大化していく。
空気が引き剥がされる。
それに呼応するように、視界の色が反転した。
白が黒に、黒が白に。
世界の色が何度も裏返る。
耳鳴りがする。
いや、音すら吸い込まれている。
重力が狂う。
身体が引かれる。
足下が存在しているかすら曖昧になる。
視界も、意識も、存在すらも。
全てが、あの黒へと落ちてゆく。
気づけば、球体は視界の全てを覆い尽くしていた。
――そして。
一瞬。
ほんの刹那。
本当に一瞬だけ、世界が巡った。
生まれ、朽ち、還り、また生まれる。
無数の時間が圧縮され、一本の線となって脳裏を貫く。
見た。
確かに見た。
終わりと始まりが、同時に存在ずる光景を。
世界が一度、輪廻して戻ってきたかのような。
――次の瞬間。
暗転とした視界に、亀裂が入る。
バキィーン!
と、それはガラスの様に砕け散り、粉々になった闇の向こうから、元の世界――
夜の外灯だけが灯った暗い御瀬路セントラルパークの芝広場に戻ってきていた。
息を呑むまもなく、現実が戻っていた。
「……何? 今のはッ!」
思わず声が漏れる。
視界を見渡す。
元の世界に戻って来れたが、元に戻りすぎている。
さっきまでネオンの様に光っていた宮殿ではなく、本当に自分達の世界にまで戻っていたのだ。
ほんの一瞬の映像だったのに、まるで長い旅をさせられたかのような疲労感。
あれが、同じトゥルーワードが成す演出の範疇だとでもいうのか。
「一体、何が起きて……」
頭を振って意識を覚まして詩弓の方へ向き直ると、いつの間にか彼女の服装も一部だけ替わっていた。
さっきはアクシデントの効果でワンピースを手札に戻したことで、靴だけになっていたはずだが、あの真っ白な〈ヴァイダリスシューズ〉ではなく、それとよく似た意匠だけど色だけは正反対の真っ黒なシューズを履いていた。
息が詰まる。
もしやと思い自分の服を見ると、黄色い〈ヴァルナーガポリフェワンピ〉から、ランドリーに眠っていたはずの黒い〈ヴァルナーガワンピ〉に変わっていた。
おまけにアクセサリーとして構えていた〈メリフヴァルナーガホン〉どころか、〈ヴァルナーガシューズ〉すらなくなっていた。
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