-虎胡side- 白い狼煙が上がる時
*
「なんてこと……この電磁バリアはッ!」
インディ・オーラとなった虎胡の目の前で、あの【堅翠天】が険しい顔になって毒づく。
愛染碧も自身のエース衣装を纏って本気でぶつかってくるが、かれこれ何度も効果を発動させても、その度に超電磁状態によるバリアではじかれ続けている。
「すごい! すごいよ、ビャコ! オメーが調整してくれたスキルのおかげで、俺は今虎胡と一緒にちゃんと戦えてるぞぉ!」
スキャナーに変形したアイラが、今にも泣き出しそうなほど感激のあまり叫んでいる。
いつかくるリベンジ用に、メーカー側が手探りでそれらしいものを入れてくれたスキルコードを、あのとき天水晴那のマスコットが善意で改良型をくれたおかげで、アイラの言うとおり、こうしてQ-key.333どころか【ディーヴァス神姫】とも互角にやり合えている。
だが、順調に堪え忍べているこっちとは違って反対側では……
「〈アルテミ・ストラ〈ヤラ〉〉の効果発動!」
同じくエースコスチュームを着て【赤滅天】と対決している元【紫智天】は、魔導書のような本からページを一枚ちぎっては術を唱える。
「遅いですわ!」
ゴージャスながら動きやすさを重視した真っ赤他ドレス型ワンピースを着て、花弁の装飾があしらわれた大弓を構えた【赤滅天】が、その隙を縫うように夜空をめがけて赤い矢を放った。
打ち上げられた赤い太矢は、宙で花火の如くはぜたか思いきや、無数の小さい火矢となって朔真の頭上に降り注いだ。
「ぬぉああああああ!」
小さい魔導書を盾にして身を縮める【紫智天】に矢の雨が無慈悲に襲う。
肉体へのダメージはないが、降ってくる火矢がかする度に衣装が破れ、そして黒々とした焦げ目が付けられる。
度重なる猛攻の末、朔真の持っていたスキャナーからボフンと不吉な爆音が立ち、継ぎ目からややピンク色の煙が登り始めた。
「や、やはり、スキルが使えなければ……」
火の矢が止んだ頃には、朔真の服装が元に戻されていた。
膝を突き、頬に付いた汗を拭いながら、機能が完全に逝ってしまったスキャナーと阿国を恨めしそうに睨み付ける。
「碧! そんな【黄黙天】に敗れた素人俳優風情に何を手こずってますの!」
芸歴は君達より長いんだけどなぁ。
まさかの素人呼ばわりに、流石の虎胡も苦く笑った。
「フン、まあいいですわ。今頃、そこの朔真みたいに玩具で日祈に挑んだ刹那の方も終わってるでしょう……」
阿国は朔真の元へ歩み寄り、まだ膝をついている朔真の胸ぐらを掴み上げた。
「さぁ、いいなさい! アーシャをどこに連れて行くつもりでしたの?」
「……〈ハオマネクト〉さ。今後のために、ちょっと人員を確保したくてね。正解はお察しの通り、刹那の方さ。あのまま彼女に誘導されたまま進めば駐車場がある。そこで、こっちが手配した車を待たせているのだが、まさか君達が参戦するとは思わなくてね」
徹底的に負けはしたものの、朔真は煽るようにニヤニヤとしながら応えた。
「なるほど、脱出経路に近い方にあずけたというわけですわね……」
察して朔真と視線をそらした阿国が、途端に掴んでいた胸ぐらを離す。
支えを失って倒れた刹那が足下で伏しているにもかまわず、阿国はスマホを手にして通話を始めた。
「日祈? そちらは完了したのかしら? 本物のアーシャは刹那がつれてったって聞きましたけど……ちがう? こっちも偽物どころか、あの俳優の変装でしたわよ?」
スマホと言葉を重ねるウチに、阿国の顔がみるみると青ざめていく。
そして耳からスマホを離したと思ったら、再び朔真に迫って胸ぐらを掴む。
今度は脚を浮かせるほど高く締め上げる。
「あなたたち! アーシャをどこに隠しましたの! 本当のことを応えなさい!」
容赦なく吊し上げられて、苦しさのあまり咳き込む朔真。
だが、苦し紛れでもなく、息をし辛そうにしていても、したり顔は崩さなかった。
「さぁ? 刹那も違ったのなら、我々にもいよいよわからないねぇ」
ケラケラと笑って文字通り見下す朔真の嘲笑に、阿国が顔を真っ赤にして唇をかみしめる。
「碧! 今すぐ勝負を中断なさって!」
碧に戦闘中止を促すついでに八つ当たりをするように、つるし上げていた朔真を虎胡に向かって投げつけた。
「おっと! ひどいことするなぁ」
「悪いねぇ、ふふふ……」
ぶっきらぼうに放られてぶつかるも、虎胡はとっさに朔真を受け止める。
この拍子に碧との勝負が中断され、虎胡を守っていた超電磁のバリアが溶けた。
「フム。刹那は上手いこと逃げたようだな」
虎胡に介抱されながら、朔真がスマホを取り出すと、画面の上に小さく表示されたプッシュ通知を一瞥してほくそ笑んだ。
「こちらも逃げちゃう?」
顔を覗き込んで虎胡が尋ねると、朔真は「頼めるかな……」と疲れ切ったような声で応える。
「お、お待ちなさい! まだ話は……」
目の前で交わされる逃走の相談を前に、阿国が止めんと乗り出しかける。
だが、阿国どころか真後ろの碧が一歩踏み出すよりも早く虎胡は懐から煙玉を取り出して、それを再び地表に叩き付けた。
もっている分全てを使い切るつもりで、三度も鳴る破裂音と共にむせかえりそうな煙の匂いと白煙が一体を包み込んだ。
夜空の下という時間と影すら浮かばないほど白煙が充満している間に、虎胡と朔真がこの一体から脱出する。
「朔真ったら! 怪盗役をこなせる俳優を味方につけるなんて。厄介者も甚だしいわッ……ゲェッホ、ヴェッホ!」
完全に見失ったのか、完全に追うことを諦めた二人の会話が遠くから聞こえる。
阿国は悪態をついている間に思いっきり煙を吸い込んだのか、あの顔からは想像も付かないほど汚い咳をする。
「ケホッ! どうしましょうか、阿国ちゃん」
「ブエッフンッ! 仕方ありませんわ。詩弓のところへ戻りますわよ! ヘブッ!」
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