プラウドオブシャウト
「その手は読んでいた!」
私は思わずメガホンに口を添えて、ノイズと混ぜて拡声された声でそう返した。
「なにっ!」
「〈メリフヴァルナーガホン〉の効果! 自分の場にミュージック・アクシデントカードがない時、相手が発動させた効果を無効にする! ――大波を従えた程度で私に勝てると思うな!」
最後に叫んだ渾身の一喝が、メガホンを通して強烈な音波へ変換し、押し寄せようとしていた濁流を迎え撃った。
真正面から食らった音の衝撃によって、水の大壁があっというまに沈静した。
「奴の道連れ効果を防いだ! これで、衣装を完全に着揃えたのはこっちの方だ!」
そうだ。
ビャコの言うとおり、一方的なリセットを防ぎきったことで、あの【煌閃天】の場に穴を開け続けていることが叶ったのだ。
「貴公らは喜びすぎだぞ。やっとの思いで脱がせた我が衣装は、ランドリーではなく手札にある。そして、〈パレティナ・ホワイトワンピ〉はステージミュージックがある限り、手札から追加コーデすることができる。次のターン、もう一度私が着れば、また元の木阿弥だぞ」
手札に戻された一枚をヒラヒラと見せつけながら、皮肉に満ちた笑みを浮かべて返す。
「いいや、それ以外のところは最初と違う。この状態を待っていたんだ!」
「――何だと!」
詩弓が改めてお互いの場を見る。
詩弓の場には、妨害や防御の役を持つアクシデントなるものも無ければ、こちらのターンで発動できるカードはない。
何よりも、手札はバウンスさせたワンピを除けば一枚だけ。
「まずは、追加コーデが成功した〈ヴァルナーガワンピ〉の効果で、〈シェルベッコチャーム・トークン〉をワンピに付ける」
永続効果でAPが上がるが、それは省略する。
揃えたいのはAPではなく、素材の確保。
この手で追い詰めるなら、手薄になった今しかない!
「いくぞ! 〈ヴァルナーガシューズ〉の効果! 〈ヴァルナーガワンピ〉と〈シェルベッコチャーム・トークン〉でコスチュームディゾリューション!」
胸にぶら下がっていた鼈甲のチャームが私の声に合わせて、鈴の音のような軽い音を鳴らしながら砕け散った。
その音は呼び鈴となり、真っ黒な〈ヴァルナーガワンピ〉の表面を徐々に黄色へと変色してゆく。
「リンケージコーデ! 現れろ、〈RDティアーズ ヴァルナーガポリフェワンピ〉!」
肌を覆い隠していたゴシック調のワンピースが、逆にところどころで晒しているアグレッシブな黄色い衣装へと生まれ変わる。
暗い宵闇が開けて朝日が差すが如く。
「この衣装が、夏の新作か!」
ご丁寧にビャコの煽りをそのまま拾って驚愕する詩弓。
できあがった時期を考えればあながち間違いではないが。
「〈ヴァルナーガポリフェワンピ〉の効果! デモンスポンジ・クリング!」
私は両手に黄色い光球を編み出し、それを詩弓めがけて投げつけた。
散々食らわされた光波の仕返しとして飛ばした光球は緩い速度で直進する。
クッションがあたったように胸と腹部にあたって消えた途端、直撃した箇所から斜線の入った赤丸が浮かび上がった。
「この印はッ!」
突如自分の肌に刻まれた、わかりやすい禁止の刻印に詩弓が嫌な顔をする。
「〈ヴァルナーガポリフェワンピ〉は〈RDティアーズ〉の効果で追加コーデされた場合、相手の場を二カ所まで使用不能にする!」
「これで次にお前のターンが着ても、もうあのゴージャスなワンピは着れまい! 〈デフラグデクンダ〉の使いどことを間違えたな!」
【黄黙天】の力を受け継いだ新しいヴァルナーガによって、衣装にもトークンにも頼らず、今度こそ息の根を止めるレベルで【煌閃天】の沈黙が叶った。
流石に場を直接使用不可能にしてしまえば、いくら【煌閃天】とて挽回は簡単ではないはず。
ビャコの言うとおり、〈デフラグデクンダ〉や〈激流の洗濯〉の使いどころを詩弓が見誤ってなければ、こんなに綺麗に決まらなかった。
勝負はついたように見えた。盤面の上では。
だけど、何だろう……。
この素直に勝った気分になれないモヤモヤは。
場を封じられたというのに、蓁原詩弓のあの佇まいはなんだろう。
詰みであることに戦意がまだ喪失していない、あの自信と余裕……そして楽しさに満ちた明るい雰囲気は。
「〈ヴァルナーガポリフェワンピ〉のさらなる効果!」
「ええ? どうしちゃったの急に!」
そうだ、もう良いはずだ。
だけど、私の中の嫌な予感が、もっと身を固めろと促す。
お守りで災厄を防いでもらうように、私は鼈甲のチャームを増やす。
幸いにも、〈ヴァルナーガポリフェワンピ〉には、他のヴァルナーガと同じくチャームを増やすついでに、〈RDティアーズ〉ブランドのコスチュームのAPを250ポイント上げて、相手の効果でドロップされない効果も付く。
「私はカードを一枚伏せて………………スタン、いやターンをチェンジ!」
「うぇ? 決まりそうなのにまだ引き延ばしちゃうの? もったいねぇ!」
「試合じゃなくて勝負に勝て。保護するまで時間を稼げっていったのは、あんたじゃない」
「そうだけどさぁ……」
チャンスを不意にして惜しむビャコの気持ちはよくわかる。
かなり苦しい言い訳で正当化させたが、私だって最後まで悩んだ。
だけど、どうしても念には念をいれろという本能がそうささやき、伏せカードと共に継続を選ばせた。
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