ここから入れる保険
「食らえ! コーラルガーデン!」
「アクシデント発生!」
コーラルワンピの効果が相手にも及ぼうとした寸前、突然詩弓が伏せていた一枚を起こした。
「――なに!」
「このタイミングでか!」
立ち上げたカードの名前は〈ノーサンキュー〉。
相手から渡された贈り物に対して、腕を交差して拒否するわかりやすいイラストのアクシデント。
「相手の効果によってこっちらのAPが変動する時にのみ発動する〈ノーサンキュー〉。相手の次のメインフェイズまで、その上昇する数値をゼロにして、私はカードを二枚ドローする!」
バーストを防ぐ効果。
おまけに防御成功のボーナスとして相手に二枚のドローを許してしまった。
「あらぁ! あんな古代のカードで止められちまったよ!」
「……そういうことなら、そのドローに対してアクシデント発生! 〈均衡の謝肉祭〉!」
空になった詩弓の手にカードが加わったタイミングで、こちらもすかさずアクシデントを割り込ませる。
「相手がドローする効果を発動させたとき、同じ枚数だけ自分もドローできる!」
「ほぉう、どこかで見た戦術だな……」
抜け目のなさを褒めているのか、それとも負かせた鼎先輩と重ねたのか、同じく二枚ドローする私を見て詩弓がほくそ笑む。
何を感じているのか分からないが、おかげでドローフェイズも出来ず手札がなかった私にも補充が叶った。
「あいつ、〈ノーサンキュー!〉なんて汎用カードをいれてやがるのか。〈トランクイル・ディバイド〉なんてお高いカードを持っているから、都合のいい専用カードばっかりでデッキを組んでいると思ったのに、案外合理的な奴だな」
「あんたがパワー型と一見していたのを見越して入れていたのかもしれないわね。ただ……その周到さのせいで、こちらのすべが一つ崩れたわ」
「どうするんだ? このままだと、四本に増えた腕から煌天百烈拳食らって、ヒヒディアベシヒデブーしちまうぞ」
シンデレラの童話で出た魔法使いの呪文みたいに、あらゆる断末魔を並べているが、ビャコが言いたいことはこうだ。
〈ノーサンキュー〉の効果が切れるのは次の私のメインフェイズまで。
つまり、詩弓のターンを一回挟むことになる。
そうなると詩弓は再びワンピの効果でこちらのAPを半減。
加えて確率との勝負になるが、効果を無効化される場合もある。
万が一、コーラルワンピが無効化を免れても、詩弓は保険してアクセサリーをパージして調整するだろう。どのみち、バースト戦略は潰されたのも同然だ。
そしてせっかく便乗して引いた手札も、アクシデントカードのみで、ここから勝ちを狙える札がない。
「まだ策はある!」
「ええ! ここから入れる保険があるの?」
「あるじゃないの、いっぱい!」
驚くビャコに盤面を見せるように、半球モニターをあえて詩弓に見せつけるように掲げた。
策の起点は、シューズが死んでいないこと。
「なるほど、確かに積み上がってるな、保険が」
「一気に行くわよ! 〈ヴァルナーガシューズ〉の効果!」
〈RDティアーズ〉の衣装は、相手にも付けさせた分も併せて、10着もある。
何よりもコーラルワンピだけじゃなく、シューズにも相手の場にある〈RDティアーズ〉を巻き込んでリンケージコーデができる。
「素材は豊漁だ! ガンガン使っちまえ!」
「リンケージコーデ!」
煌方陣を二度連続で展開させた私は〈ヴァルナーガコーラルワンピ〉と自分の持つ〈チャーム〉を三つ使って、〈ヴァルナーガジャケット〉と〈ヴァルナーガスカート〉を呼び出した。
「策を潰されたとはいえ、同じターン中にこうも巻き返して立て直すとはな……さすがは過去にスッポンと呼ばれただけはある……」
【ディーヴァス神姫】を一天落としてから神殺しに昇格してから呼ばれなくなった別称を改めて呟きながら、詩弓がほくそ笑む。
「三度目のリンケージコーデ! 次は〈ヴァルナーガブルーメッシュ〉と、あんたのワンピに付けた〈チャーム〉を使う!」
「勝手にするが良い」
許可が下されたのを気に、詩弓の胸に下がっていたチャームが自ら飛んでいき、私の髪を飾っていたメッシュとぶつかって、新しい〈RDティアーズ〉のコスチュームを生み出す。
「現れろ、レアリティUR〈RDティアーズ サブマリンイエローヘアアクセ〉!」
次に現れたのは、結構でかいデフォルトされた黄色い潜水艦の飾りがついたヘアピンだ。
トップスからシューズまでゴシックパンクでまとまっていたのに、頭だけ黄色い潜水艦の髪飾りなのは、ちょっとアンバランスにみえるが、性能はちゃんとロックだ。
「〈ヴァルナーガジャケット〉のフルコーデ効果! 一ターンに一度、コスチュームの下に〈シェルベッコチャーム〉を付ける! さらにフルコーデ効果によって、この効果で生成されたチャームには、アンダーとして重ねられた衣装の効果を無効にする効果が付与される!」
「新しいものと付け替えさせていただきますわね、お客様~!」
付ける場所は決まっている。
もう一回〈パレティナ・ホワイトワンピ〉を対象に、封殺効果付きの鼈甲飾りを付け直させる。
これによって、あれほど眩しいほど白かったワンピースが一気に灰色に脱色し、煽るように舞っていた腕も活気を失ったかのようにだらんと下がった。
死んだ鳥みたいに翼腕が背後で垂れ始めた様をみて、流石の詩弓も首を回して背後をのぞき込んでいた。
「おっかないワンピは封じた! でもAPはまだ高いままだぞ!」
「分かってる! 〈サブマリンイエローヘアアクセ〉のフルコーデ効果!」
たたみかける様に私がこめかみに飾られたヘアアクセに効果を命じた途端、目の前で立っていた蓁原詩弓がいきなりガクンと膝が崩れた。
「な、なんだと……これは……」
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