-澄香side- ランク1&2&4&7VS元ランク5&6&9+俳優
天水晴那 AP0 VS 蓁原詩弓
様々な風景に帰られ続けた夜の芝公園に、蓁原詩弓が佇む。
そのせいなのか、心なしか今までアイドル同士の対決の時に、漂っていた虹色の風が妙に澄み切って見えていた。
街で流れる濁った川ではなく、山奥でせせらぐ小川の清水を浴びている感覚に似ている。
この澄んだ風。
浴びる度に、自分が汚れた悪魔になった気分だ。
まぁ、あながち間違ってはないか、と口で笑えず内心で自嘲しながら、私達はデッキから最初の手札を四枚整える。
「天水晴那……。これまで随分と我々の同胞を潰してきてくれたな……」
詩弓が柳眉を逆なでた顔で睨み付ける。
その感情に合わせて、周りを漂う風の色が、その感情をわかりやすく表すほど赤みを帯び始めた。
「Q-key.333のランク一、蓁原詩弓。【煌閃天】を討てば、母体の運営であるアートマンストラは芸能界での権威を失い、この戦いの全てに決着をつけることができる!」
「フン、殊勝なことだ。これまでに、何度も我々に恨みを持ち、名声も天下も奪い返さんと挑む事務所やアイドルが現れたが、皆力及ばず結局ひれ伏した。私からすれば、我がグループが手を焼くほど強きアイドルが現れ、古き良き戦いの時代に回帰したことで、権威にあぐらをかき続けた全員に火をつけることがかなった」
だが――と言葉を続けると、詩弓の目が一段と鋭くなった。
「貴公は正面から栄光を得ただけでは飽き足らず、脱退した二人と手を組んで闇討ちまで企てた。その堕落した渇き、浄化してくれる!」
事情を知らぬ者からしたら、そう見えるのも無理はない。
だが、今更説得したところで変わる話ではない。
「制裁だけで安易に向かわない方がいいんじゃない? あんたと私は他事務所同士。いつもの模擬戦でもランク昇格戦でもない。――負ければ全てを失う真剣勝負。それが定め!」
「フン、甘く見られたものだな。そんな虚仮威し程度で、自分が栄光にしがみつく臆病者にみえるか? むしろ臆しているのは貴公だろう、膝が笑っているぞ」
私は思わず膝のさらに手を置く。確かにスマホのバイブみたいにガクガクしている。
否定はしない。
それほどの不安が全身に過っている。
だが、同時に勝てば一件落着。
敗者は全てを失う。
逆に言えば、勝者となれば全てを得る。
足こそ不安を表すが、その可能性を得られることに興奮したのか、巡る血液が心臓を焼くほど沸騰しているのを感じる。
「先攻は私から! ドロー!」
山札から新たに一枚引き加えて、全ての手札から戦略の手順を考える。
「晴那、良い啖呵を切ったはいいが、本来の目的を見失うなよ。本当の勝利は、あの小娘の保護を完了するまで耐えることだ!」
「分かっている! だけど……」
流れるまま足止めを引き受けたとはいえ、相手はあのランク1。
これまでに、まず対戦相手になることすら届かなかった、雲の上の相手だった女神。
詩弓と対戦して、私に起こりうる結果は三つ。
一つ、手も足も出ぬまま瞬殺。
二つ、アーシャ保護まで十分に耐えられる。
三つ、勝ってQ-key.333そのものをぶっ壊す。
私としては三が一番理想的。
否、いつか必ず達成せねばならない決着の一撃。
二はともかく、一だけは避けなければ、話にならない。
「ランク一の【煌閃天】。のべ三三三人の頂点に立つトップアイドル。刹那に朔真、そしてアーシャすらねじ伏せる強敵を相手に、お前はどう戦う?」
「あいつの戦術……いや、もはやライブっていうべきかな。【煌閃天】が立つ舞台は、必ずあいつの独壇場に変わり、独占されきった頃には光の速さで圧勝される。刹那、朔真、そしてアーシャ……あと、かつてトップの座を譲らされた艶井鼎先輩も、成す術無く散っていった」
手札を見つめるが、脳裏に浮かんだ現役時代のランク昇格戦の記憶が映像の如く重なった。
今度こそと意気込んだ刹那が、凶悪な沈黙状態にさせることなく沈み、朔真もまた呪文を揃えられず、アーシャも氷漬けにされるよりも早く散った。
それは【赤滅天】や【紅暁天】が相手でも同じ結末。
閃光が煌めいた時には、既に終わっている。
そして……私が入所した時に、既に鼎先輩はランク9だったが、蓁原詩弓達現【ディーヴァス神姫】が新入りで入るまでの間は、その鼎先輩がトップだった。
そんな鼎先輩を落としてトップを奪った上に、ランク9まで引きずり落とした他のメンバーですら歯が立たないとなると、一筋縄どころじゃない苦戦を強いられるのは確実だ。
「勝算はあるのか?」
「プロデューサーがQ-key.333を潰すために作った〈RDティアーズ〉は、かつての私では倒せなかった【黄黙天】と【紫智天】を落とし、そして【蒼極天】を追い詰めた。私はプロデューサーを信じる!」
そう、故郷の想いだけを背負ってきた遊生澄香では無理だったが、白波勇作の怨念を形にして共鳴した天水晴那ならまだ分からない。
私は一人で戦っていない。
それを聞いたビャコは、満足そうに鼻を鳴らした。
「ふふん、良い台詞だ。だけど、俺がいることも忘れるなよ」
「毎回ベラベラと横で無駄口叩いてちゃあ、無視もできゃしないわよ」
そうだ。
光の速さで「潰して」くるなら……大雑把でも守りを固めれば首の皮一枚でも。
幸い、先攻はこちらが得ている上に、この手札ならやりようはある。
「私は手札から〈ヴァルナーガシューズ〉をコーデ!」
開幕から出したのは、このデッキのエンジンである黒いブーツ〈ヴァルナーガシューズ〉だ。
そこから続けざまに二枚の手札をつまむ。
「そして手札の〈ポリゴンタトルパンツ〉をランドリーに送り、手札の〈ファンタシーピンクワンピ〉を追加コーデ!」
今自分に着せたピンク色のフリルが多めのワンピースは、自分の手札のコスチュームをランドリーに送ってついかコーデすることができる。
さらに、コストとして捨てたカード。
ランドリーに送られた〈ポリゴンタトルパンツ〉も、それによって、自分のコスチュームに〈シェルベッコチャーム・トークン〉をアンダーとしてつける効果が発動する。
「シューズの他に、晴那の身に二枚のコスチュームカードが出た。ということは……」
一足先にフルコーデが揃ったこちらの詩弓が状況を見ながら、少し笑みを浮かべる。
「もう決めちまうのか?」
「チマチマと並べて相手を伺っていたら、あっという間に勝負をつけられる! 〈ヴァルナーガシューズ〉の効果! 煌方陣展開!」
青い梵字の魔方陣を展開して、トップスとチャームを別の衣装に変換させる。
デッキから呼び出す衣装は決まっている。
「リンケージコーデ! 現れろ、レアリティPR〈RDティアーズ ヴァルナーガワンピ〉!」
開幕から天水晴那を象徴とする黒きエース衣装〈ヴァルナーガワンピ〉が、再び夜空見下ろす草原に現れた。
「来たか、貴公のエース衣装!」
詩弓にも予想通りだったのか、どこか機体の籠もった笑みで応える。
「自分の場に〈ヴァルナーガ〉シリーズがあるとき、手札の〈ヴァルナーガブルーメッシュ〉は追加コーデされる!」
ワンピとシューズに次いで、アクセサリーの場にもカードを置き、私の髪に一房の青いメッシュが現れる。
「〈ヴァルナーガワンピ〉の効果! 一ターンに一度、〈シェルベッコチャーム・トークン〉をアンダーとして追加コーデする!」
黒いワンピースが揺れ、衣装の隙間からなのか鼈甲のチャームが滴の様に落ち、流れるようにシューズに引っかかった。
これで〈RDティアーズ〉の衣装は四着揃った。
「よーし! 〈ヴァルナーガワンピ〉の永続効果で、〈RDティアーズ〉の数だけワンピのAPが100ポイントアップする! これで晴那のAPは2530! いいぞ、晴那。ナイス初動だ!」
ビャコの言うとおり、開幕で身構えるにはベストな布陣となった。
本当は相手の場そのものを封殺できる〈ヴァルナーガポニフェワンピ〉という選択肢もあったが、相手の手札が潤沢な状態で下手に封じると除去されてまき直しが難しくなる。
相手が閃光と共に滅する戦術ならなおさらだ。
そして〈ヴァルナーガワンピ〉には、自分の場の〈RDティアーズ〉をコストにすることで、破を無効にして跳ね返す効果がある。
少なくとも、これで瞬殺は免れるはずだ。
「私はカードを一枚準備して、ターンチェンジ」
手札を全て使い切ったが、防御も備えも十分。
私はそのままターンを明け渡した。
天水晴那 AP2530 VS 蓁原詩弓 AP0
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