再び登場⁉ 超電磁怪盗のあのお方
「「い、印東虎胡!?」」
私とビャコは思わず、本名の方を叫んだ。
「ふぅ~、来てくれないかと思ったよ……」
「こっちは大変だってのに、随分と余裕かまして出待ちゃってさぁ」
安堵のため息をつく朔真と不満げに口をすぼめる刹那を見る限り、どうもこの二人が伏兵として読んでいたらしい。
そういえば、ブリーフィング時に助っ人を呼ぶと言っていたが……。
「ほわぁ! インディ・オーラ? 本物のインディ・オーラだぁ!」
さっきまでの気分がどっかいったのか、お姫様みたいに抱きかかえられたアーシャが、インディに扮した虎胡の顔を見るなり、キラキラとした目になって興奮していた。
「おや? 随分と名前と年齢が大きなファンだね。こうして応援してくれてありがとう!」
腕の中で見つめるアーシャの唇に、虎胡はプニプニとつついてからかう。
恐らく、あの紫電は虎胡が得意とするプリズムストリームによる演出らしいが、そのリアルすぎる雷の発生は、気象に敏感なヘリコプターに危機感を覚えさせ、徐々に高度を上げさせた。
「ちょ! どこへ行きますの! ――一端待避? 気象の安定が確認できるまで別場所に着陸しますって? ――まったく! 幻術と現実の区別がつけられないなんて!」
連れ戻そうと阿国がインカムを握りしめながら操縦者を怒鳴りつけるも叶わず、ヘリはあっという間に公園の空から離れてしまった。
「ジャリ番俳優風情が、やってくれるな!」
恨めしそうに見上げる日祈に、虎胡はなお勝ち誇ったような笑みで見下ろし返す。
今この瞬間、虎胡は演技では無く、本当に怪盗らしいことをしている。
それどころか、番組を奪ったQ-key.333に一泡吹かせたことがより一層笑顔を引き立てていた。
「印東虎胡! なんで誘いに乗ったの? この件には関わるなって忠告したはずよ!」
場が好転するほど来てくれたことに感謝したいが、忠告を無視して加勢した事については流石に感心しなかった。
だが叱ったところで、虎胡は指を振ってチッチと舌を鳴らすだけだった。
「勘違いしては困るよ。私はあのときのカリを返しに来ただけださ」
いかにも演技ぶったテンプレ台詞を堂々と口にした途端、私は頭を抱えた。
「絶対にそれが言いたいが為にクビ突っ込んだんだろ」
ストレートに送ったビャコの嫌みが、まさに私の言いたかったそれだ。
「改めて――このキュートなお嬢さんは、いただいていくよ。さらばだ、とっつぁ~ん!」
「誰がとっつぁんだ!」
良い感じでQ-key.333そのものに上出来な仕返しが出来ていることにウキウキになった虎胡が、アーシャを抱えたまま外灯から華麗に飛び降りる。
「逃がさんぞ、俳優風情が!」
着地と同時に光る竹刀を構えて迫る日祈。
だが、その寸前に、虎胡は懐に手を入れる。
指の間にザラザラとした三つの丸い玉を取り出すと、そのまま地表に向けて叩き付けた。
ボフンという破裂音と同時に、鈍い灰色の煙が辺り一面を包む。
典型的な煙玉。
だが思った以上に強い煙の臭いが強く、私まで咽てしまうほど。
「おのれ! どこまでも!」
そんな中、咳き込みながらも怒号と共に、日祈が橙色に光る竹刀を振り回す。
あれで煙を払っているつもりなのか、囲う煙のせいで光だけがぼんやりと動いているだけだった。
「さーてと、彼女をどこへ運べばいいのかな?」
「案内する! こっちだ!」
「晴那! 誰でも良いから一人でも足止めしておいて!」
煙が目をくらませているウチに、虎胡と朔真と刹那が脱出を試みる。
全員が煙の濃度が強い爆心地から逃れるように靄から抜け出すと、私含めて【ディーヴァス神姫】側が目を丸くするほどの光景が映った。
刹那と朔真が、それぞれ別方向に向かって二手に分かれてかけ出しているのが見えたが、それぞれがアーシャの手を引いて駆けだしていたのだ。
「――!?」
「アーシャが二人だと!」
「……いや、あの俳優の姿がない。ということは、どっちかが化けてるな」
慌てふためく三人とは別に、詩弓だけは冷静に見抜いていた。
忘れていた。
こいつは俳優という職業だが、やることなすことは演じる怪盗そのものだった。
煙幕で巻いている隙にアーシャに変装して、どっちかに手を引かれて欺いている。
思わぬ助っ人はあれだが、おかげでアーシャとスキャナーは、なんとかこちらの手に渡った。
「逃がしませんわ!」
「どこまでも嘗め腐りおって!」
完全にしてやられたことで鶏冠が立った阿国と日祈が、柳眉を逆なでながら二手に分かれて追いかける。
それに併せて蓁原詩弓も追跡に加わりかけるが、寸前に私が遮った。
「あんただけは行かせないわ、蓁原詩弓」
「足止めと言われたが……別に勝つなとはいわれてないんだぜ、ランク一さんよぉ」
遅かれ早かれの事。
そして、ここでランク1という頂点を討てば、将と威厳を失ったQ-key.333は完全に崩壊し、アートマンストラは全てを失う。
今はアーシャのスキャナーを得るという遠回りをしている最中だが、当初想定していた目標が果たせるストレートなルートだ。
「彼女と戦うなら、まず私を――」
だが、それをさせまいと守護神である【堅翠天】がむっとした顔になって、代わりに前に出かけた。
自ら盾役として立とうとする彼女を、詩弓はすっと腕を出して止めた。
「これは私が受けた挑戦だ。碧は、阿国と一緒に朔真の方を追いかけろ」
「でも、あなたが負けたら――」
腕を掴んで食い下がる碧。
だが、そんな自己犠牲に走る碧を、詩弓は横目で睨みつけた。
輝きだけ鉱物に似た無機質な眼差しは、とても仲間に向ける物とは思えないほど鋭かった。
思わず【堅翠天】が気圧されるほどに。
自分がこんな奴に易々と負けるとでも思っているのか、とそんな逆鱗に触れていることを指摘するような目だった。
「わ、わかったわ……でも、気をつけてちょうだい……」
観念した碧はそのまま詩弓を通り過ぎて、虎胡達を追いかけに駆けた。
すれ違う最中、碧と一瞬だけ目が合った。
彼女に何かあったら許さない、と言わんばかりに怒りの籠もった目。
だが、こっちまで律儀に感情を込めてにらみ返すヒマはない。
改めて、詩弓と差しで向かい合う。
この芝の広場がより一層広く感じた。
相変わらず、目の上のたんこぶとか超えられない壁とか、そんな次元じゃない威圧感が拭えないが――今なら、平常心のまま戦える。
足の震えもなくちゃんと立てる私を見て、詩弓は澄ましたように笑いながらスキャナーを取り出した。
「我々に仇成す神殺し天水晴那。貴公の実力、見せてもらおう!」
「やっとまともにこっちを見る気になったな!」
既にデッキを差し込んでプレートまで噴射させると、随分と重苦しい風圧を帯びた虹色の風が大波の如く押し寄せた。
まさに書いて時の如く向かい風を前進で受けているみたいだ。
「いいか、試合よりも勝負に勝つことを優先するんだ!」
「分かってる!」
試合ではなく勝負に勝つこと。
それはアーシャを無事に保護すること。
ビャコが忠告する勝利条件を改めて吟味してから私も構えた。
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