希望の歌〈蓮雪詠-Ren Setuei-〉
「「――来たッ!」」
私とビャコの声が重なった。
「私は手札からミュージックカード〈蓮雪詠-Ren Setuei-〉を発動!」
喜ぶまもなく、私は即座にビャコに読み込ませた。
立ち上がる等身大のミュージックカード。
ジャケットデザインはシンプルに、題名と橙色の花が少し添えられた雪原のみ。
「れんせつえい……。え、その曲名って……」
目の前に立ち上がった曲のカード名をアーシャが口にする。
その言葉に代弁するように、ビャコのスピーカーから曲が流れ始めた。
ちゃんとした楽器じゃなくて、機械によるオルゴールっぽい打ち込み曲でしかないが、私やアーシャにとって聞き馴染みのあるフレーズが、このさざ波の音しかない空間に轟いた。
「このフレーズも、知ってる……蓮雪詠の……わたしと澄香だけの曲だ……なんで? わたしと澄香しかしらないのに……」
最初は混乱して、頭を抱えるほど慌てふためくが、曲を聞き続けているうちに、アーシャはすんと佇んで、改めて私を見た。
「す……み……か……? 澄、香?」
もう天水晴那として敵を見る目じゃない。
まだ疑っているが、遊生澄香かもしれないことに期待しながらも、ずっと会いたかった感情を堪えている泣き顔へと変わっていく。
やっと伝わった……。
分かってくれた。
私も同じくらい、すごく会いたかった。
安心させたい。
微笑んであげたい。
でも、どうやっても笑顔になれない。
首肯すらしなかった。
私はただ黙って腕を広げ、迎え入れるように胸をあけたまま佇んだ。
フラフラとした足取りになって、バシャバシャと水を蹴りながら、アーシャが歩いてくる。
白い砂浜に足跡を刻み、一歩また一歩と、躓きそうなほど不安定になりながら、アーシャが私を目指して歩み寄る。
「澄香……わぁ……」
両目に涙を一杯にため込み、一番見たかった笑顔を見せながら、アーシャも腕を広げて抱きしめようとした。
「――悪いが、勝負は中断させてもらおう」
一陣の突風と共に、夢から覚ますような、冷酷な一声が割り込んだ。
その鋭くも涼やかな一声が耳朶に触れた途端、白く輝いていたアーシャの顔を照らしていた白昼の陽光が消えて、元の暗闇に戻って影に染めた。
ミュージックカードの演出がかき消された。
私のトゥルーワードミュージックどころか、アーシャが発動させたBGMによる霜の世界も。
全てプリズムストリームによって出力された仮想世界だが、外部から吹き込んだ豪風が、ろうそくの灯火のように無慈悲にも消し飛ばしたのだ。
どこからか割り込む声と回帰された周囲の変化に、再会の手前に水を差された私達は、ふれあう寸前で硬直してしまった。
肌を斬りそうなほど吹き荒れる突風と共に、重たい振動音が断続的に鳴っていたことに、今気づかされた。
上を見上げる。確か声も頭上から聞こえた。
まさかと思ったが、気づかぬ間に私達が戦っていた上空でヘリコプターが滞空していたのだ。
明らかにこちらが標的だと言わんばかりに、機体に備わったスポットライトで、目がくらみそうなほど眩く照らしてくる。
「おいおい! またヘリかよ!」
仰天と辟易を込めて、ビャコが叫ぶ。
確かに人生で二度目のヘリ登場展開だ。
記念すべき一回目は、確か負けた葉鳥朔真の盛大な脱退劇の時。
思わず私は朔真の隠れている植え込みを見る。
突然のヘリの登場に朔真も驚いて顔を出すが、目を合わせた途端に違うと手と首を振った。
「じゃあ、だれが……?」
ビャコが改めて疑問を浮かべる。
すると、その独白に応えるようにヘリの扉がガコンと音を立てて開かれた。
重たいスライドドアをずらした後で、誰かが顔を出してこちらを見下ろしてきた。
月夜の光をバックに映ったのは……真珠の様に真っ白な長い髪をなびかせた本物の”乙女”。
確実に見覚えのある絶世の美貌と気品。
そして何度も浴びて圧倒された覇気。
あの顔を忘れるはずがない……。
声の主、そしてこちらを見ているのは……。
【ディーヴァス神姫】ひいては、Q-key.333の頂点にして世界最強のアイドル。
ランク1【煌閃天】――蓁原詩弓だ。
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