アーシャ保護作戦ーブリーフィング編ー
時刻は二十時の夜中。
場所は御瀬路セントラルパーク。
六月とはいえ二〇時を回れば、外灯が無ければろくに前が見えない、暗闇の森と化す。
それ故に遊びに入園しようとする者は誰も居なかった。
木々に囲まれた芝生の上にぽつんと立つ一本の外灯。
昼白色の灯りにつられて、羽虫たちが群がっている。
それどころか、身を隠すために入り込んだ植え込みの中にも、何かに釣られたのか鬱陶しいほど虫がたかる。
私どころか、傍に居る刹那や朔真も、声を殺しながらもうめきながら、まさに五月蠅く鼻先で飛び回ったり、服にしがみ付いたりする虫達を払いのける。
生きたスキャナーを持つQ-key.333のアイドルの中で、唯一接触できるメンバー古奈アーシャとの邂逅場所に選んだのが、ここ――御瀬路セントラルパークのこの地点。
そして、指定場所には定刻通り人影が既にある。
グレーのパーカーを着て、フードに頭を隠した少女の姿が見えた。
フードからちょっと覗く毛先が淡い外灯の光に照らされて、独特な蒼い髪を光らせる。
間違いない。
ちゃんと来たものの、不安がってそわそわしながらも佇む仕草は、古奈アーシャそのもの。
今からでも、声をかけて安心させたい。
でも、安易な行動は自制しなければならない。
そんな逸りだす感情から冷静を取り戻す為に、私は出発前に固めた作戦内容を振り返る。
*
「――作戦の内容を確認する」
立案者は、葉鳥朔真だった。
「宣言通り、グループチャットを用いて古奈アーシャとの接触には成功した。
澄香くんの言うとおり、かなりぼかして彼女の存在をほのめかしたら、あっさりとこちらのコンタクトに応じてくれた」
そのとき朔真が、そのチャットのやりとりを載せたスマホの画面を見せてくれた。
朔真は確かに、『君が会いたい大事な人』と確かに名前を出さなかったが、この時点で察したアーシャは、文字だけなのに食い気味でレスポンスをしていた。
『澄香なの? 澄香に会えるんだね?』という純真な返信が、心を痛める。
「場所は御瀬路セントラルパークの芝生広場のうち、南西の外灯下。
時間は二〇時。
念のため、他のみんなには黙ってくるように、と伝えてあるから、同行者や追っ手は連れてこない。
完璧とは言えないが……」
次に見せたのが、御瀬路セントラルパークの上空地図。
丸い赤線で囲っている場所。
そこが待ち合わせ場所なのだろう。
夜の芝生広場ともなれば、園路から外れて、ジョギングや散歩する入園者に見られる心配もない。
「さて、ここからが問題だが……接触はまず澄香くん単身で行ってもらいたい。
分かっているとは思うが、今の君は天水晴那……つまりQ-key.333にとって天敵だ。
自分が遊生澄香だと訴えても信じてもらえないだろう」
「念のため、ボク達も補助としてその場所に同行するつもりだよ。
でも、いくらボク達がまだ連絡できる仲だとはいえ、裏切り者は裏切り者。
遊びで会うならまだしも、天水晴那と一緒になって会っちゃうと、アーシャはきっとパニックを起こして逃げ出しちゃうかもしれない。
だからまずは、差しで会ってもらおう」
刹那が補足を加える。
「今回の作戦目標は、古奈アーシャの生け捕りと顕在したスキャナーの確保だ」
生け捕りなんて嫌な言い方だ。
それを暗に伝えるように、私はわざとらしく咳払いをする。
「おっと失礼、正しくは古奈アーシャの保護というべきだな。
だが、どちらにしても天水晴那として出会う以上、彼女との戦闘は避けられない。
だが、ここでアーシャを負かせてしまうと、スキャナーの自決プログラムが作動して、せっかくの希望が台無しになる」
朔真が紙媒体に起こしたスキャナーの分解写真をばらまくように机に放った。
「対戦は避けられないにしても、白黒はっきりつける必要はない。
中断や最悪引き分けに持ち込めば、スキャナーを傷つけずに回収できる。
そのためにも、アーシャに私が澄香であることを気づかせる必要がある」
散乱する資料の群れに混ぜるように、私は持っていたCDケースを机に置いて続けた。
「そこで、この曲の出番。
このCDには、私とアーシャが一緒に作った曲のデータが入っている。
これはナインボールどころか、どのメンバーにも知られていない、完成まで内緒にしていた秘密の曲。
つまり、これを聞かせれば、私が遊生澄香である照明になる。
そうすればアーシャの警戒も解けるはず」
「想定通りに事が進めば、時間差で我々も合流して、しばらくは〈ハオマネクト〉で保護しよう。
ただ、相手はそれでもランク3の【蒼極天】。
普通に戦うだけでもやっとかもしれないが、澄香にはかなりシビアな対戦を強いる形になる。
心して欲しい」
全員に言い伝えるような口調だが、名指しでの忠告に私はただまだって頷いた。
「送迎は私。
ついでに燦子も連れて行くわ。
公園の駐車場でバンを待機してるから、成功しても失敗しても必ず帰ってくるのよ」
別の色のペンを持ったエマが、駐車場にあたる場所をぐるぐると円で書いて注目させる。
そこは、待ち合わせ場所からかなり近い場所でもあった。
「それから……私と刹那はまだ申請が通ってなくてな。
スキャナーがまだ与えられてないのだ。同行するとは言ったが、アーシャの方も、別のメンバーを同行させた場合は戦力にはならん。
念のための備えとして助っ人の要請はしているが、当てにはするなよ。
最悪の場合は、必ず大人しく撤退するんだ。いいね?」
神妙に、かつ申し訳なさそうに顔を顰める刹那と朔真。
追加の協力者の存在がちょっと気になったが、私はただその忠告に頷くしかなかった。
これで作戦のあらかたの流れがまとまった。
段取りの一区切りついた時、草薙さんが一枚のカードを持ってブリーフィングに合流した。
「澄香、頼まれていた曲の編集が終わったぞ。ただ、原曲もAパートしか無かったから、効果もかなり中途半端だ。通常運用に使うには少し厳しいかもしれない。使い所を見誤るなよ」
中途半端と草薙さんは念を押すが、夢にまで見たカードだ。
できたら、こんな形で叶って欲しくなかった。
それ故に、ただ一枚の紙なのにすごく重たく感じる。
だが、これで接触と説得、そして保護に至るまで、作戦に必要なパーツは全て揃った。
あとは作戦開始時刻――今この時までを待つだけだった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「いいから早く決闘しろよ」
と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。
また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、
思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。
あとブックマークもいただけるとうれしいです。
細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!




