【蒼極天】古奈アーシャ
「そういうことなら、アーシャに頼んでみてはどうかな?」
そんな時、画面に刹那がいきなり映り込み、一瞬静かになったところで提案を出してきた。
「アーシャに?」
私が食いついた。
「アーシャ……古奈アーシャか、確かランク3の……」
「こいつだったらいけるってのか?」
ビャコが怪訝そうに尋ねると、朔真はわかりきっている様に顔をにやつかせて、カメラ越しなのに私を見ているかのように指を差し向けた。
「出来なくは無いわ……。だって、アーシャは私と同じ艶井鼎の元でレッスンを受けた元ナインボールのメンバーだったし……出世した後も私を、慕ってくれた子だから……」
【ディーヴァス神姫】。
残るメンバーは四人。
ランク7の【堅翠天】愛染碧は、二つ名の通りその堅牢さから、あえて一番下のランクに止まって、ディーヴァス神姫ひいてはQ-key.333そのものにとって最後の砦としての役割を担う守護神。
時には慈母の様な優しさでみんなを癒やしてくれる存在で、性格的には一番説得に応じてくれそうだが、組織を守るというプライドが邪魔をして、説得にかなり時間がかかりそう。
次にランク4の【紅暁天】こと鞠地日祈。
Q-key.333の総教官役もになっている、この人が一番厄介だ。
たとえ事実上運営の勝手な思惑で干されていても、Q-key.333やアートマンストラを信じて疑わない軍人気質。
裏切り者の言葉に一切耳を貸すことはしないだろう。
それはナンバー2の【赤滅天】の神息吹阿国や、Q-key.333の心臓にしてトップアイドル、蓁原詩弓も同じだろう。
思うところはあったとしても、自分達に絶対の玉座と名誉を与えてくれた親元を、他人から聞いた情報だけで疑うとは思えない。
残るは……ランク3。
【蒼極天】のアーシャ。
元は派生ユニット『ナインボール』のメンバーにして、私と同じ艶井鼎先輩の元で鍛え上げられたチームの中で、一番出世したアイドル。
不正の冤罪を駆けられて追放されてから、一番気がかりだったのが、一番の仲良し……というか慕っていたのがアーシャだった。
「その……アーシャは私のこと、どう思ってたの?」
前にも刹那の口から、抜けてからずっと泣きっぱなしだったって言ってたのを思い出したが、私は改めてアーシャの様子を尋ねた。
「不正かどうかよりも、君が抜けたショックから引きこもったままだよ。
少なくとも、ボクが抜ける前までは、まだ閉じこもって泣いてたし」
聞くだけで安易に想像できる上に、胸が痛くなった。
ただ、不正に対して疑うとか怒るとかじゃなくて、単純にいなくなったことに泣いているのなら、まだちゃんと話せる余地はある。
「そういうことなら、まだ希望はあるな……連絡は取れそうか?」
「ごめん、スマホあのとき捨てちゃって……」
勇作Pの言うとおり、確かにこれが最後の希望。
だけど……まさかこういう理由で知り合いに、しかも追放された古巣のメンバーに接触するとは思えず、感情にまかせて重要なスマホを川に捨ててしまったことを後悔した。
それはみんなも察してくれていたのか、草薙さんがそっと肩を叩いて慰める。
「そういうことなら、連絡はこっちに任せてよ。
それに、できたとしても、君がするのも気が重いだろうしねぇ」
「たしかに、そうね……」
冤罪だったかどうかはともかく、今の私はアーシャ達の敵だし、なによりも長い間音信不通だ。
自分の前から居なくなって泣いてた彼女に、どうやって声をかけて、どの面で合えばいいのか分からない。
「君を餌にすれば、アーシャはすぐに乗ってくれるともうけど……問題は君にやる気があるかどうかだけどねぇ」
口調はいつも通り飄々としているが、画面越しから真意と覚悟を真摯に問う刹那。
それに釣られて、刹那も画面に現れて刹那と肩を並べた。その顔は同じく真剣だった。
「それと……君に会うという話になると、アーシャはきっとパニックになって、【煌閃天】や【紅暁天】に感づかれるだろう。
誘い出しはかなりぼかさないといけない。
それに、今の君はアーシャくんの大好きな遊生澄香ではなく、神姫殺しの天水晴那だ。
追放されてしばらく会わない間に、自分達の敵になっていたと知ったら、さらに話がややこしくなるだろう……いやぁ、その前に同一人物だって信じてもらえないだろうな」
朔真の意見は最もだった。
希望はあっても、理想に到達するまでの問題が多すぎる。
なによりも、お互いに会いたい気持ちがあっても、見た目とそれを取り巻く状況が悪化させてしまう。
草薙さんも勇作Pも、ビャコも、私に視線を集わせる。
私が決意してくれるのを待っている。
気は進まない……だけど、私がここでやらなければ、この辛く苦しい戦いは終わらない。
なによりも……スキャナーの生け捕りだけじゃなくて、アートマンストラという人を我が物顔で拐かして辱める連中が運営するQ-key.333から、アーシャを一刻も早く助け出したい。
「やるわ……連絡、頼めるかしら?」
眉間に拳を当てながら、苦々しく画面の向こうの元ディーヴァス神姫達に接触を頼んだ。
その絞り出した決断に、〈アクアクラウン〉内に漂う空気が少し明るくなった気がしたが、すぐに別の不安が沸いて重くなった。
「呼び出した後の接触についての良案はあるのか?」
勇作Pが顔を向けて尋ねる。今度は私の方が、顔を向けられないまま答えた。
「あるにはあるわ……。かなり賭に出るほどの、苦肉の策だけど……」
そう言って、私は一端会話を切り上げて、二階にあるレッスンスペースに向かった。
今は居場所がない私の仮私室になって、寮から追い出されたままの荷物をそこにおいている。
私は傷やへこみだらけになったキャリーケースのチャックを開けて、タオルにくるまれたCDケースの束の中から一枚をとりだして一階のスタッフルームに戻る。
そして、とってきたCDをケースごと草薙さんに差し出した。
「これは?」
「いつかアーシャと一緒にデュエットしようねって、二人で作詞と作曲を頑張った曲……なんだけど、結局私が追放されちゃって、未完成のままどころか、無駄になったけどね」
「なるほど、思い出の曲って訳か……」
察してくれた草薙さんは、そのまま受けとった。
「私が天水晴那である以上、アーシャとの戦闘は避けられない。
口で説得しても信じてもらえない。
でも、その曲を聴かせれば、きっと……」
じっと手書きのペン字だけがかかれた、ほぼ無地の表紙のケースに入れられたCDを見つめた草薙さんが、改めて私を見て頷いた。
「完全じゃなくても良いけど、カードになれるまで続きをお願いできる?」
これが全てと繋がる鍵になる。それを感じてくれた草薙さんの目にも、確かな決意が宿った。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「いいから早く決闘しろよ」
と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。
また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、
思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。
あとブックマークもいただけるとうれしいです。
細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!




