ポータル
ポータル。
玄関や入り口を意味する言葉で、ネット用語では検索機能や専用サイトを刺すこともある。
ただ、今回の場合でいうポータルは、いわゆるサーバーへアクセスするための侵入口だ。
「た、確かに……いや、むしろ大本のサーバーと繋がり続けているからこそ、あの人工スキャナーでもオリジナル並の情報収集と演算能力が出せると考えるのが普通なんだろうが……。
でも、そんな簡単にいく話なのか?」
解決の糸口どころか、そのものにたどり着く手前まで来てしまったことに狼狽える草薙さん。
あっけにとられるのも無理も無い。
それまでずっと欲しがっていたアートマンストラの明かされたくない闇でもある様々な情報に加えて、現在籍は置いているものの行方知らずの大葉璃玖の居所も判明する唯一の手がかりが、今まで対峙していたアイドル達の握っていたマイク一本で済むと言われたのであれば。
「むしろ、下手にハッキングするよりかはよっぽど合法的だと思うぞ? 文字通り玄関から入るわけだからな」
デスクに寝転がるビャコが、自分の尻尾を掴んではブンブンと振り回して間に入る。
確かに、今時では不正に企業のPCにアクセスしようものなら、あっという間に大事件として報道される時代。
アニメ会社でさえ、危険を察して毎週放送していたアニメを緊急停止させるくらいの、余計なハプニングすらも起こりうる。
なによりも、今は大葉璃玖といったモデルアイドル達がアートマンストラに拐かされている状況で、下手な動きがとれないのも事実。
「奴らの知られたくない闇を暴くだけじゃない。璃空の居場所だってつかめる。
そしてあいつを陵辱したクズ共の正体もッ!」
希望の兆しが見えて勇作の口角が少しつり上がったが、腸が煮えくり返る思いの方が強すぎて、音が鳴るほど拳を握りしめ、溢れ出そうな感情を押さえつけるように歯を食いしばっている。
そんな怒りに目を見開いている勇作Pを草薙さんが、そっと肩に手を添えてなだめる。
「ナガタマホの情報もあるだろうな。きっと」
ビャコがぐるんと仰向けになって、こっちに話を振ってくる。
私はただ「うん」と返事だけして、エマ達と通話する勇作Pを眺めていた。
「だが、それにはさらなる問題があってな……」
見つかった希望への感激に水を差すように、燦子がいつになく神妙そうな声で割り込んだ。
「問題だと?」
眉間に深い皺を刻んだ形相で勇作Pが顔を上げる。
「生きてるスキャナーじゃないと駄目なのよ」
エマが続けた。
「そうかぁ! 自決プログラムのせいか!」
ビャコがさらにだれるように、机の上でゴロゴロ転がり始め、勇作Pが大人しくさせるように手刀を振り下ろして止めた。
「チップ自体がSIMと同型なら、プログラムのアポトーシスとは無関係じゃないのか?」
勇作Pが難しい用語をもって尋ねる。
どういう事か聞く為に、勇作Pの手の下で痛々しくお腹が凹んだビャコを救出して尋ねる。
「ゲホッ……SIMはプログラムじゃなくてIDだから、本来は自決プログラムじゃあ消えないんだよ!」
「でも、あんたさっき、自決プログラムのせいだって……」
「ビャコくんの言うとおり、自決プログラムが原因なのはあってるわよ」
こっちの会話まで聞いたのか、エマがわざわざ拾って声を挟んだ。
「実をいうと……あのスキャナーには徹底した情報保護とコンプラ対策が施されていて……例の自決プログラムの起動と同時に、使い物にならなくなったアイドルの契約破棄のために、チップの破壊機構も搭載させていたらしいの」
説明しながら、エマがこちらの画面にもいくつかの写真を共有させた。
それは、おそらく雨羅刹那の物だっただろう、粉々に砕けたスキャナーの写真があった。
そのうち一枚には、かけらでも名残が残った柄のパーツと、溶けてプラスチックと癒着してしまった塊があった。
別の写真では、すごい気張ってスキャナーの柄をこじ開けようとする刹那と朔真の写真がある、ということは最終手段として分解もとい破壊に及んだのだろう。
前言撤回。
デジタルによる冷淡な契約解除ではなく、自決機能によるライセンスチップの物理的破壊という荒々しくて独裁的な手段だった。
「要するに、まだ負けてない現役メンバーのスキャナーでないと駄目ってことか……」
構造は思った以上に簡単だった。
だが、次の段階で一気に難易度が跳ね上がった。
生きたスキャナー、つまり現役のメンバーのスキャナーでなければアクセスすらできない。
この無理難題に〈アクアクラウン〉一同どころか、画面の向こうにいる〈ハオマネクト〉側からも、重たいため息と唸りが空気をよどませた。
「脱退させられた二人と、仲のよかったメンバーとかはいないのか?」
草薙さんが尋ねた。
「いたらしいけど……そこの澄香ちゃんがむやみに暴れたせいで全滅したわ。加えて、今回のアルカナカップで幸神くんのアイドルも活躍したことで、さらに人数が減ってるから……」
結構痛い状況になっていた。
責めるわけじゃないけど結果的に打開策すら潰してしまった原因として私がやり玉に挙がったことで、私は思わず口を歪めるほど居た堪れなくなった。
すると、勇作Pが引け目を感じて頭を抱える私を宥める様に、トントンと腕を叩いた。
顔はこっちを見てないけど、お前は間違っていないと言いたげな目で画面から目を離さない。
「その辺をほっつき歩いている子をさらって生け捕りにするって手もあるぞ、にゅふふ~」
「それじゃあ、奴らと変わらないぞ……」
手っ取り早いがあくどい方法を提案する燦子に草薙さんが呆れて却下する。
「前に刹那や朔真から、【ディーヴァス神姫】は殿堂入りしてから運営に不満を持っているって聞いたぞ。一番仲が良いメンバーだったわけだし、説得できないのか?」
「それも考えたんだけど、残ったメンバーは、二人と違って敬虔でかなり忠誠心が高い子達ばかりよ。ましてや敗北した上に、堂々と敵対を宣言した裏切り者の言葉に聞く耳を持ってくれると思う?」
次にビャコが提示するも、エマもまた苦虫をかみつぶしたような顔で反論した。
それからも、あれこれと案を出しては却下を繰り返すウェブ会議が続く。
「そういうことなら、アーシャに頼んでみてはどうかな?」
そんな時、画面に刹那がいきなり映り込み、一瞬静かになったところで提案を出してきた。




