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量産型スキャナーの秘密

「これが、Q-key.333専用の量産型スキャナーの仕様書か」



 雷雲が晴れた明くる日。


 そろそろエアコンがないと蒸し暑くなるまで締め切られた〈アクアクラウン〉のスタッフルーム。


 ノートPCが置かれたオーナー席で、草薙(くさなぎ)さんと勇作(ゆうさく)P(プロデューサー)がエマとの通話に臨んでいた。


 昨日、遊園地のショーステージで超電磁怪盗インディ・オーラもとい印東虎胡(いんどうここ)との対決に勝ったことで、私達はQ-key.333のスキャナーに関する情報が載った仕様書を手に入れた。


 報酬の受け取りと中身の調査は、一応まだスキャナーそのものを持っている刹那(せつな)や朔真(さくま)を抱えているエマ達〈ハオマネクト〉と〈トニトルス〉に任せた。


 そして、解析の結果を明かされたのは、その翌日のことだった。



「その……チップみたいなのはなんだ?」



 勇作Pが画面に指を差す。


 デスクに置かれたノートPCの画面には、データ媒体にして電子化された仕様書のコピーが表示されている。


 勇作Pは尋ねながらマウスに手を載せ、相手にも視認されるように紅い丸を何重にも描く。


 その囲まれた箇所を、私とビャコも凝視する。


 デッキを挿入する電源を兼ねたソケットの真反対にある付け根の部分。


 その一部を取り外すと、なにやらICチップのような物を載せるトレーが入っているらしい。



「なんだこれ、SIM(シム)カードか?」



 ビャコが言った。



「SIMカード?」と私が聞く。



「スマホを買った時に、購入者の電話番号や識別情報が入ったICカードだよ。


 これがないと、ネットどころか電話もできなくなるんだ。


 お前のスマホにも、入ってるはずだが……」



 確かめようにも私のスマホはとっくに川に棄ててしまった。


 だけど昔、マイクロSDカードを入れる際に、それっぽいものを見た記憶があった。



「正確には、SIMと似た構造を持ったチップだけどね……」



 PCのスピーカーから、エマの声が聞こえる。



「似ているってどういうことだ?」



 草薙さんが問う。



「なるほど、そのチップがスキャナー本来の核ってわけだ」



 興味深そうな顔になったビャコがのそっと立ち上がって画面に顔を近づけた。



「ええ、まさしくそのとおりよ」



 ウィンドウが重なって顔の半分しか見えなくなったエマが頷いた。



「このチップには、アートマンストラに所属しているアイドルの識別情報が入っているの。


 スキャナーそのものが契約したアイドル達のIDを担っているといっても過言じゃないわ」


「そうか、だから敗北すると自決プログラムが作動して契約解消になってしまうわけか。


 その場でIDを破棄させるために」



 Q-key.333に化せられた鉄の掟。


 公の場で自社以外のアイドルに敗北した場合、即契約解消となる。


 これは、常勝無敗の最強アイドルグループというブランドを維持するための誇示、そして厳格性を魅せる自戒。


 その正体は、契約書の裁断というアナログな方法ではなく、自決プログラムというデジタルによる冷酷な自動化によるものだった。



「それだけじゃなく、一部だけSIMの様な機能もあるから、スキャナーに搭載すればアートマンストラのサーバーとだけなら接続できるわ。


 主に戦績登録やスキルの設定、それからサポートAIによる戦況分析やカード検索や裁定判断ぐらいだけどね」


「ギガ数が寿命みたいな扱いになったこのネットワーク社会で、今時スキャナーにだってネット接続されてるなんて珍しい話じゃなくないか?」



 当たり前な情報を改めて聞かされて草薙さんは髪を搔きながら呆れる。


 勇作Pも黙って頷く。



「ネット接続機能自体はね……でも、その接続先がアートマンストラの社用サーバーだったら話は違ってくるわ」


「それのどこが珍しい話なんだ?」



 草薙さんが怪訝な顔で問う。



「珍しいわよ! 安物のタブレットでも無線LANでネットできるこのご時世に、なんでわざわざ大本のサーバーとだけしか繋がらないなんて一手間加わっているのか!」



 エマの指摘に、草薙さんが低く唸った。


 すると、画面の隙間から燦子(しょうこ)がひょっこり顔を出しながら、深刻そうに声を挟ませる。



「元々スキャナーはプリズムストリームによる機種同士の接続は出来ても、ネットワークの接続機能は搭載されていないのだよ。


 君達がつれているオリジナルマスコットもそうだろう?」



 言われて私を含めて一斉にビャコを見る。


 たしかに、こいつの知識量と分析知能では、ネット接続してるとは言いがたい。



「加えて、あの超大人数も集めたアイドル達を手放しで管理するには、どうしてもネットワークに頼らざるを得ない。だからこそ、首輪を量産型スキャナーに開発して配布させた」


「首輪……」



 その比喩を聞いた途端、私の首が思わずむずがゆくなった。



「だが、ネットワーク接続をさせることについては思うところがあったのか、電波を送受させる機能を組み込ませず、本家のサーバーとだけ無線接続するという、いわゆる見えないだけの無限有線式に押さえた。


 ――おそらく、コストの問題だろうな。


 肝心の戦術サポートAIを入れるだけでも、あれでは小さすぎる。


 しかも量産と使い捨てともなれば、コストがとんでもなく跳ね上がる」


「見えない有線か……」



 携帯電話やスマホの普及によって無線が当たり前になった今、私の中でかつて握っていたスキャナーのイメージが、昔ながらの有線マイクの様に感じられた。



「そもそもアイドル同士の競技用ツールに、一丁前な無線LAN機能なんて不要の機能だ。


 メリット以上に、漏洩や悪用といったデメリットの方が遙かに多く、そして被害が重い。


 電子化された野球のスコアボード程度にそこまで多機能に富ませる必要は無い、というのがSIM型チップ搭載の経緯だろうな」


「それでスキャナーの構造について、極秘扱いにしていたんだな」



 重ねながらも脱線しかける燦子の長話に、草薙さんが渋い顔をして戻させる。



「つまり、ビャコの言うとおりチップそのものがスキャナーの核ならば、奴らのスキャナーを経由すれば、アートマンストラのデータベースに真正面から侵入することが出来る!


 Q-key.333のスキャナーは、サーバーへのポータルだったんだ」


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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