新チートスキル~曇天を切り裂く虹の一閃~
「――これは……まずい!」
インディが突然きびすを返して、ステージから飛び降り、目の前で観戦している客達に声を張り上げた。
「みんな! 逃げるんだ!」
マイクに声が入らず、地声で大きく叫ぶ。
両手を広く挙げて、ここから離れてと示すように身振り手振りで観客達に避難を促す。
バキバキバキッ! と留め具の固定が外される音と鉄板が巻かれる様に折れる音が繰り返され、とうとう天井が鉄骨から剥がされる。
その剥がれた天井は、いびつな形に変形した鉄板となってステージから落ち、そのまま帆の如く風を孕ませて直進し、佇むインディめがけて押し寄せる。
「虎胡、危ない!」
アイラが叫ぶ。
ステージとほぼ同じ面積を持つ鉄板は、まるで迫り来る大壁のよう。
あんなのに巻き込まれたら、ただでは済まない。
「――ビャコ!」
「おう!」
私はとっさにカードを読み込ませた。
同時にビャコ――スキャナーが一層強く輝き、虹色の気流を含ませた風がより一層強く吹き込んでくる。
迫り来る鉄塊を前に、思わず身をかばうように体を丸めるインディと衝突する寸前――真横からそれ以上の威力を持った虹色の風が吹き込んで、直進する鉄板の機動をそらした。
はじかれた巨大な鉄板は再び宙を舞い、やがて私達の立っているステージを跨いで、人気がないだろう裏方面へ落下していった。
「――天水、晴那?」
事故に巻き込まれる寸前に鉄塊がよけたことに唖然としているインディの目には、ステージの上でスキャナーを輝かせている天水晴那が屹立している。
何が起きたのかまだ分かってないが、誰が助けてくれたのか理解した顔でこっちを見ていた。
「わぁ! インディ・オーラが助けてくれた!」
「すごーい! 超電磁バリアだ!」
「インディちゃん、格好いい!」
さっきまで悲鳴を上げていた子供達が、今度は感激の声を上げて拍手を送る。
端から見れば――危険をいち早く察してステージから降りて避難を促すべくみんなの前に立ったインディ・オーラが、迫り来る鉄板を目の前で弾き飛ばした。
嘘みたいな本当の出来事。
まさしくテレビから出てきた本物のスーパーヒーローとして映ったのだろう。
「なんて無茶をしたんだ、虎胡!
たまたま風がそれから良いものを!」
スキャナーがありったけの叱責を浴びせるが、インディは答えぬまま私を見続ける。
偶然だが、架空の力が本物になって思わぬ賞賛を集めたインディが、呆然となりながら振り返ると、すぐに演者として振る舞う。
「みんな! 危険な目に遭わせてごめんね! もう少しだけ、付き合ってくれるかな?」
「いーよー!」
吹き荒れる風にかまわず、キレキレのポージングで観客に話しかけるインディ。
格好いいけど、ちょっと可愛い動作は観客に伝わったのか、危険で張り詰めていた場の空気が一気に元のショーの雰囲気に立て直していた。
「そいつごと助けてやったのは俺達なのに!」
「かえってその方が良いわ。ここは元から彼女のショーで、私達はヒールよ」
なによりも、事故から身を挺してみんなを守ろうとした事実は代わらない。
その勇姿を皆の目に焼き付けさせたことで、全員から名前付きの応援を受けながら、インディ・オーラがステージに戻ってくる。
「助かったよ、ありがとう……」
まだ事故にあいかけた恐怖が抜けてないのか、礼を言う声のトーンが心なしか抜けているようだった。
いや、これが本当の彼女の声なのかも。
「でも、ショーとこれは別の話……」
インディが念を押す。
「ええ、その通り。私も腐ってもタレントよ、こんな形でショーを終らせるわけにはいかない」
私も頷き返し、改めて私達は対戦者として対峙しあう。
そうしている間に、より一層虹色が濃くなった風が、私とインディの間を隔てる壁の様に渦を巻き、天に繋がるほどの竜巻になる。
「「うおおおおおおおおおおおお!」」
風に囲まれて渦の目の中に立った私とビャコが雄叫びを上げ、天をめがけて手を広げる。
見上げる先――広げた掌と重なるように、太陽の様なまぶしい光りが目を刺す。
「スキル発動!」
「マハプリズムドロー!」
私のスキル発動が始まった途端、竜巻として聳えていたプリズムストリームの奔流が瞬く間に消えた。
それと同時に散々吹き荒れていた雨風もピタリと止んだ。
一瞬だけ時間が止まったかと思ったら、それまで薄暗かったはずの曇天からスポットライトのように光りが差し込み、徐々にこの遊園地を中心に陽光の明かりが広がってゆく。
屋根を失ったステージの真上では、灰色一面だった曇天がパックリと割れ、綺麗な青空を覗かせていた。
暖かい太陽も顔を出し、まるで遊園地だけが快晴の天気に変わっていた。
「あ、虹だ!」
雲をかち割って開けた空を見上げた子供の一人が声を上げ、それにつられて観客達が感嘆の声を上げる。
私の目にも虹が見える。
汚い曇天と綺麗な青空という混沌の空にかかる大きな虹の橋。
そして、その景色に混じって、一枚のカードが微かな光りの尾を成して降りてくる。
天からの恵みのように、それを受け取る。
フィナーレは、ここからだ。
「〈ヴァルナガーガシューズ〉の効果! 煌方陣展開!」
皆の関心を対戦に引き戻させるように、私は靴を慣らして再び方陣を展開させた。
眩しい陽光に照らされて濡れたステージが反射し、青白い梵字の方陣が光の中に溶け込む。
「私は〈ヴァルナーガコーラルワンピ〉と〈ヴァルナーガカチューシャ〉を素材にする!
コスチューム・ディゾリューション!」
素材化を命じられた紅いワンピースと頭を飾ったカチューシャが同時に液状化して、私の体にまとわりついた。
「その衣装を、素材にするだって!?」
脱がされる第二のエースとAPを微力ながらアップさせていた衣装を自ら素材にするプレイングに、アイラが驚愕の声を上げる。
インディもまた声を出さないが、見開いた目になってこちらを見つめる。
「リンケージコーデ!」
グネグネと波打っていた水塊が形を成し、やがて端から胸元を目指すように、水の殻をはじいて中身をむき出させる。
「現れろ、レアリティPR〈RDティアーズ ヴァルナーガポリフェワンピ〉!」
新たなる力――白波勇作がデザインした三着目のヴァルナーガワンピ。
ゴシック調の黒きヴァルナーガワンピ、ガーリーテイストの紅のコーラルワンピに次ぐ、黄色のヴァルナーガは、ちょっとセクシーによった露出部とポンポン装飾が多めのオールドチャイナ風。
このデザインの意匠は【黄黙天】の愛用するブランド〈トニトルス〉のデザイナーから提供されたデータをベースに開発された新作だ。
「ここで新作発表か!」
「やるねぇ、彼女のデザイナーも!」
〈トニトルス〉らしさが入っている故に、お臍が見えるお腹、薄い谷間が覗く胸元など、他にもいろいろと素肌が見えるデザインが気になるが、今は触れる空気に違和感を覚えている時ではない。
APは1230。
シューズも混みで合計は1940だ。
「まずは共通効果だ!」
「〈ヴァルナーガポリフェワンピ〉の効果! 一ターンに一度、自身のコスチュームの下に〈シェルベッコチャーム・トークン〉をアンダーとして追加コーデさせる!」
もう何度目か、シューズにまた鼈甲のチャームが飾られる。
「そして〈ヴァルナーガポリフェワンピ〉の第二の効果発動!
私がこのカードを着ている限り、この衣装以外の自分の場の〈RDティアーズ〉ブランドのコスチュームはAPが250ポイント上がり、相手の効果でドロップされない!」
今、私がワンピ以外で身につけているのは、シューズとチャーム。
よって500ポイント上がり、合計APが2480ポイントとなる。
「あの新作もアッパー効果持ちか。
自己生産できる上に、防御性能付きのアッパーは驚異だな」
「そうだね……でも、それをもってしてもAPは届いてない!
それに、彼女がスキルを使って何かを生成したとしても、超電磁の壁が衣装を守り、アクシデントがAPも守ってくれる!」
インディがあえて告げる。
そう、現時点で彼女のAPである2800にはまだまだ届かない。
そして何よりも、ここで下手な効果を使ってしまうと、手札の〈ファントムシルクハット〉によって止められるし、そもそも超電磁状態というバリアが貼られて効果の対象にできない。
また、雑にインディ自身のAP数値に直接触ろうものなら、〈超電磁クレイモア〉が反応して連鎖爆発が起きてしまう。
だが――この衣装の元となるデータをくれたのは、そのインディ・オーラの天敵である〈トニトルス〉のデザイナーだ。
「〈ヴァルナーガポリフェワンピ〉のさらなる効果!」
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