無敵のパルスバリア「超電磁状態」
祝100話目でちゅ
「さすがは神姫殺しの天水晴那!
我が正装〈ヴァルドラミスワンピ〉の隠された効果の存在を察するとは、素晴らしい洞察力だよ!」
まるで探偵に変装を見抜かれたジュブナイル小説の怪盗みたいに、演技がかった振る舞いで種を明かし始める。
「その通り! 〈ヴァジュラレガリア〉ブランドが誇る固有能力。
それは極が異なる衣装同士が重なっている場合、その衣装は超電磁状態となる!」
超電磁状態。
相反する極を持つ衣装がアンダーとして重なっていることが条件のようだ。
「そして、〈ヴァルドラミスワンピ〉の真の効果。自身が超電磁状態の時、同じく超電磁状態の全ての衣装は、一度だけ相手が発動させた一切の効果を――受けない!」
オペラ歌劇の俳優みたいに両手を挙げて鷹揚とポーズをとった瞬間、今までうっすらと見えていた電流の膜がさらに膨張し、まさにバリアとも言うべき電磁パルスの膜を展開させた。
「盤石な体勢を敷いていたかと思えば……最初から何枚も上手の防御策をとっていたわけね」
「こっちが〈ファントムシルクハット〉を警戒して路線を切り替えたと思ったら……先回りして、脱出不可能な状況に追い込むなんてぇ!」
衣装効果を封殺する〈ヴァルナーガジャケット〉によるフルコーデ効果を控えることは向こうもまた読んでいた。
そして、こちらがさらなる路線を変えて〈ヴァルナーガコーラルワンピ〉を出すように誘導しつつ、APレースで急ピッチに追い上げてバースト寸前という隙を見せても、超電磁状態という鉄壁で、こちらのトークン付与すらガードするというシャットアウト。
まさに堅牢な事前準備の末に、心理戦ですら優位に立って包囲網を突破し、こちらの万策を尽きさせて逃げ切る――怪盗らしい戦略だ。
「さらに保険も追加しておかないとね。永続アクシデント〈超電磁クレイモア〉発動!」
最後の四枚目。
永続アクシデントとして起き上がったのは、電気の光球が爆弾のように弾けるシンプルなイラスト。
「相手の効果でAPが変動する効果が発動した時、このカード以外の永続アクシデントをランドリーに送ることで、その効果を無効にする。
さらに超電磁状態の衣装があるなら、手札の〈ヴァジュラレガリア〉コスチュームを追加コーデできる。
さらに、このカードが存在する限り、私の着ている衣装の超電磁状態が解除される度に、相手のAPを200ポイント下げるよ」
一方は不要になったアクシデントをコストに、相手ターン中でも追加コーデができる効果。
そして、もう片方はこちらが超電磁状態を掻い潜ってアンダーを除去する効果を発動した場合、ペナルティとして直接ダメージを負わせる効果だ。
「なんで今更そんな罠を起動させたんだ?」
「ピンチになった場合の最後の手段でしょう……。
今の彼女の手札には、こちらが問題視している〈ファントムシルクハット〉がある。
〈超電磁クレイモア〉を発動すれば、もう使えない他のアクシデントをコストにすることで、無理矢理強制的に追加コーデさせるために!」
「そんな事をして、なんの意味が?」
「一つは、こちらが2800を上回った場合のサブプラン。
万が一、相手に直接及ぶ効果を発動させたとき、〈超電磁クレイモア〉で無効にする。
さらにシルクハットを呼び出した後で、〈超電磁チェンジ〉で極を統一させる。
そうすることで、シューズのフルコーデ効果が発動し、お互いの衣装が全部手札に戻り、同時に超電磁状態が解除される。
それによって、〈超電磁クレイモア〉の第二の効果が発動し、最高で400ポイントのダメージがこちらに行く。
私がもう通常コーデすら使い切って万策も尽きたと踏んで、強引だけど0対-400で勝負を決める気よ」
「おいおい、嘘だろ! それじゃあ、手も足もでないじゃん!」
ビャコの悲痛な声に、私も思わず同意の意をこめて唸った。
ただの特撮俳優だと思っていたが、あのブランドは並大抵の腕前で動かせる衣装じゃない。
超電磁状態という特殊状態もさることながら、布陣に布陣を重ねて、ちら見せた隙すらも罠にかえる周到さ。
土俵が違えば、きっと福山美祿のような逸材になったかもしれない。
「でも、何でそんな奴が負けて番組とられたんだ」
ビャコがけろっと舌剣で刺す。
「こりゃあ手厳しい!」
コツンと額をたたいてあからさまな苦笑を表現するインディ・オーラ。
気持ちは分かるが、寒くて見ていられない。
「アクシデントの発動があっての戦略だからよ。
当時の相手は【黄黙天】。
刹那と対峙した場合、沈黙レベルが1でもあれば、まずは要を担うアクシデントが止められる。まさに最悪の相性だったわけ……」
おそらくアートマンストラは、インディ・オーラ……印東虎胡の腕前を知っていた上で、メタ戦術で完勝できる相手として【黄黙天】を選出したのだろう。
もうただの特撮俳優として見るべきではない。
同業者じゃないだけで、一桁台に匹敵するレベルの強敵だ。
状況は一転して、一手の差し間違えも許されない積み状態。
だが、今回も……策がないわけじゃない。
「ビャコ、確認させて。あんたがさっき入った新しいスキルの発動条件は、カードの効果でデッキからドローする時なのよね?」
スキャナーを構え直し、ビャコと面と向かって話しかける。
「あ、ああ、その通りだ。ただ、実はまだ試作段階で一部のプログラムコードを適当にしたから、いつものトゥルーワードじゃない別のミュージックが出来そうだけど……」
「かまわないわ、発動させて」
「だが、そのためには、デッキからドローできる効果を発動させないと……」
「大丈夫、これがあるわ!」
私は手札に残った二枚のうち、最後の一枚である〈ブルーマグノリア〉を見せた。
「おお! お前、ちゃんと準備してたのか!」
「私は最初から、この戦略を狙っていたのよ。発動できる?」
「任せろ! お前に起死回生の一手をひかせてやる!」
半球モニターを点滅させてスキャナー状態でもビャコが喜びを表すと、その感情に呼応したかのように、虹色を帯びた風がこちらを軸にして吸い込まれるように流れてきた。
そんな時、吹き込む虹の気流がかき乱されるほどの強風がまた吹く。
今度は威力が強く、隙間に吹き込む憩いが強すぎて音も激しい。
文字通り雨粒で勝負に水を差してくる雨風に、私とインディが思わず腕を上げて顔をかばっていると、真上からベコッとすごく嫌な音が聞こえた。
雨に混じって髪にかかる塵。
何事かと天井を見上げると、天板の素材になっている鉄板が、折り紙のように端が折れて、雨風を避けるように剃っているのが見えた。
天気が無邪気にもその様を面白がっているように風を強く吹き付かせ、折れた端をさらにガタガタと震わし、次の留め具を壊して折れ目を広げてゆく。
倒壊の兆候。
突然視線を上げて硬直する演者という非常事態を見せつけられ、次に何が起こるのか察したかのように観客席からもザワザワと驚愕と不安の声が上がり始めた。
「――これは……まずい!」
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