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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第1章 メロス・ベクトルスタン戦争篇
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0008 効率化

 ヴァーモント戦隊。それは正に効率化・デジタル化・省エネ主義を軍隊に持ち込んだ代物であり、合衆国6軍の今後の基礎となるべくして考えられた、次世代の戦争の形である。

 その思想の根幹を成すのは、先述した通りの「効率化」である。その為に「デジタル化」を動員し、必要な場所に必要な兵力を可及的速やかに派遣して制圧する。実現すれば、何よりも大事な人的資源を浪費しないですむ。

 しかし、実戦にて用いるのはこれが初めである。その有効性を実証するのは、これからの実戦にて証明される。

 ヴァベル・タチウス大統領は、一頻りの説明を聞いた上で、慎重派のヴァールトン・カシミリア作戦中佐と、報復派のギガント・クルス作戦大佐の双方に告げる。

「70万の人的資源を危険に晒さないままに1万でメロス軍を撃破出来る。安上がりで確実な方法がここに在る。何か意見は無いかね」

 カシミリア作戦大佐は結局、何も言えなかった。ギガント作戦大佐は、意外と複雑な表情を浮かべている。

 70万も使わずに1万あれば勝てる。なる程、メロス国軍にはそれで勝てるだろう。しかし、メロス国を占領下に置いて統治していくのには明らかに少ない人数だ。戦争には勝てるが、占領下に置くのには不足すぎる。今のベクトルスタンの混乱を拡大再生産する羽目になるかも知れない。矢張りガツンと数の暴力で叩かなければ、戦力の逐次投入と言う最悪の結果になるかも知れない、いや、そうなる。

 ギガント作戦大佐は、内心その不安を払拭出来ずにいた。出来るのであれば、ハッキリと「反対です」と言いたいところであるが、これまで「報復派」の筆頭として紛争省のタカ派から絶大な支持を得ている以上、今更これに反対すると言うのは、あまりにも朝令暮改であるとして、反発を買うのは目に見えている。

 それに、個人的な動機ではあるが、「511」テロにより夫を失った弟の妻が、自ら命を断っていた。実質孤児となった甥っ子の面倒を看なければならないが、仕事の都合で家を留守にすることが多く、毎日自分の部屋にて独りで遊んでいる光景を見る度に、ギガント・クルスの心は痛んでいた。個人的な動機としては、あまりにも重すぎる現実である。これを受容して、正道を行くというのは、あまりにも難しい。地獄の底まで付き合ってやるから、生きるか死ぬかの関係を続けようじゃないか。

 ギガント・クルス作戦大佐の気持ちは、揺れに揺れていた。この間まで信じていた絶対の正義が、揺らいでいた。これから先、どうして「報復派」を名乗ろうか。どんなに他人から批判されようとも、自分で間違っていると思っていても、この間までの信念を簡単に曲げられる程、ギガント・クルスという人間は強くは無かった。

 これから先、10年、20年はあの砂漠で戦わなければならない。そこで失われる金と命を考えると、紛争大臣ベークトラス・ファンダビの提案した「ヴァーモント戦隊」による省エネ戦争は、見通しが甘すぎると言うしか無かった。

 国家が崩壊し、軍閥が蔓延る地域になると、これを平定するのに、また更に多くの血と涙を流し続ける事になる。もし自分に本当の勇気があるとすれば、愛があるとすれば、この時、反対できた筈だ。でも、出来なかった。己の過ちを認める事が出来るのは、勇気ある者のみだ。こんな老人の説法の様な三文文句が、胸に突き刺さる。この世に英雄はいない、人間が居るだけだ。果たして、自分は英雄にはなれないだろう。人間として生き続けるしかない。


「エミリー・プラス戦姫曹長、現在の任を解き、第1ヴァーモント戦隊への転属を命じる」

「マロニスティラ・ズィークト戦姫上等兵、現在の任を解き、第1ヴァーモント戦隊への転属を命じる」

 2人の元に届いた辞令を見て、エミリー・プラスとマロニスティラ・ズィークトは、お互いに顔を見合わせる。純粋に能力だけを根拠に判断したのか。であれば、マロニスティラ・ズィークト戦姫上等兵は外される筈だ。彼女は元々、ベクトルスタンから亡命同然の形でソメリト合衆国に降ってきたのだ。そう言う意味では、政治的な配慮と思われても仕方が無い。

 他の同僚達にも、ぼちぼち同様の辞令が渡っていた。誰も彼もが、ベクトルスタンでのテロ組織「ヘルベルダー」との戦いにて何かしらの手柄を上げた面子である。しかし、「ヴァーモント戦隊」なる代物が一体如何なるものなのかは、誰も知らなかった。ドラマか映画、コミックにて出てきたのかどうか、その道のオタクに聞いてみても、誰もが「知らない」と答えていた。


 ヴァベル・タチウス大統領は、通常兵力の約1個師団程度の人数が集められた第1ヴァーモント戦隊、11200人を前にして、ソメリト合衆国6軍の幹部達がズラリと並ぶ部隊結成式典にて演説を始めていた。もう後には引けない。と言う一種の開き直りの力を借りつつも、役所が執筆した原稿を読み上げる。

「ソメリト合衆国の歴史は、勝利の歴史である。これに挑戦する者があれば、ここバスク政治特区にて凱旋が出来るその日まで戦い続ける覚悟が必要である。そして、そんな国はこれまで1国たりとも存在していないのである。そして、今後も未来永劫、そんな国は存在しないのである。グラウンドゼロにて命を落とした4200人の民間人の犠牲に対する報いは、必ず受けてもらう。マニューバー市の市民も、諸君が責務を全うして、これに打ち勝つ事を望んでいる。正義は我らと共にある。最期の瞬間まで戦い、4200人とその遺族の魂に安らかな日が来る事を願う」

 準備期間は半年、セントラル・イースト地方に向かうまで更に1週間、これだけの時間で戦争を戦うというのは、かなりの突貫作業であったが、仕事はなんでも「予算」と「スケジュール」が最大の敵である。ソメリト合衆国紛争省の肝いりで構想したヴァーモント戦隊が、その威力と限界が示されるまで、あと半年ほどである。


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