0060 オリジナリティ
敵ながらアッパレ。コリンゴリン・マキシム作戦中佐は、斥候として大海洋を偵察していた戦姫が撮影した動画を見つめる。
「おうみ」を始めとするレイド・サム防軍の全戦力が勢揃いだ。これで恐らく、暫くは艦隊を出港させる事も難しくなるだろう。船は動かすだけでも勿論、港に繋げているだけでも金がかかる。動かせば尚の事だ。しかも、大海洋の海を渡って、パールハーバー洋上基地まで向かっているのだ。
動員できるだけの船という船を、この一戦にかけている。あの島国に、これだけの船と言う船を動かせるだけの力があるとは、それもそれで驚くポイントであった。
大海洋打撃部隊司令部は、このレイド・サム防軍の打撃部隊の全力出撃に対して、こちらも威風堂々と全力で迎え撃つべきだ。司令部は、その方向で固まっていたが、釈然としない顔を浮かべている人間が1人居た。いつも善意で徹夜会議の際にコーヒーの差し入れを持ってきている、クルセイド・ジャリンゴ戦姫少尉である。
「なんか、怪しいですね。嘘くさいですよ、これ」
怪しい? 嘘くさい? それはどんな理由なのか。
「まるで映画のワンシーンですよ。誰かが演出しているようにも見えます」
コリンゴリン作戦中佐は、本来不敬に値する発言に対して、これを正面から受け止める。
「つまり、これは囮、と言うことかな」
「はい、こんな観艦式の様に堂々と動くのであれば、その裏にはどうしても見られたくない物があります」
「しかし、何を隠すんだ」
司令部の幹部の1人は、口をへの字に曲げて言う。それに対する解答はこうだ。
「本命です。狙いは、このパールハーバー洋上基地です。駐留艦隊はなるべく早く逃げるべきです」
「逃げる、だと? こちらは圧倒的に優勢なのに、逃げるのか」
今度は、司令官が食って掛かる。それに対して、クルセイド戦姫中尉も負けじとやり返す。
「はい、一刻も早く艦隊だけでも逃がすべきです。守備隊や基地のスタッフも含めて、全員脱出させるべきです」
「パールハーバー基地を失えば、大海洋の制海権を失いかねない、いや、全部奪われることになるぞ」
「サピラ洋上基地を完成させればいいでしょう。恐らく、今回レイド・サム防軍が仕掛けようとしている奇襲作戦は、一回使えば二回目は無い様な奇術に近いやり方です。パールハーバー洋上基地だけならば、代用品はききます」
「それが、そうもいかんのだよ。パールハーバー洋上基地は、一度壊されたら多額の修理費がかかる。ダメージの程度によっては、完全に放棄しなければならなくなるかもしれん。それを許す財力が、我が国にはもうない」
「ですが、人的資源は守れます。何なら、艦船の犠牲も皆無に出来ます。これから先、戦い続けるつもりならば、犠牲は少なくさせるのには、撤退するのが一番です」
司令官は、完全に鶏冠にきているらしく、クルセイド戦姫中尉に食って掛かる。
「戦力比ではこちらが圧倒的だ。負ける要素が何処にある。逃げてばかりいたら、それこそ敵前逃亡としてメディアになんと報道されるかわからんぞ」
「なんとでも言わせればいいではないですか。我々はダイヤモンド湾を失いました。また大海洋を失うわけには行きません」
司令部の空気は、一挙に悪くなっていた。司令官の言う事は分かる。クルセイドの言う事も一理ある。コリンゴリンもそれに引っ張られている。
「駄目だ、駄目だ駄目だ。もう今さらだ。艦隊を分けて対処しようにも、それでは戦力分散になる。基地を防衛しようにも、敵の奇術とやらがどんなものなのかわからない現状、対策なんてたてようがない」
「では、40人の戦姫部隊を残して下さい」
「と言うと、君にはレイド・サム防軍の奇術が何なのか、分かるのかね?」
「我々の打撃部隊は、陸や海、それに空で戦う為に、この50年、研磨され続けましたが、水中は無防備です。潜水艦は、建造され始めた頃には、戦姫の威力の前に、その実用性を完全に否定されてしまい、これに対する防御策も議論されないままです」
司令部の空気は一変する。
「しかし、これまで情報部はレイド・サム国が大規模な潜水艦隊を編成して、運用していると言う情報は掴んでいない。水中からの攻撃に無防備なのは、敵も味方も同じだ」
コリンゴリンは眉をしかめて、天を仰ぐ。さて、どうしたものか。このまま全力出撃か、あるいは全力で防御するか。それとも、40人の戦姫でどうにかするのか。誰もが悩む中で、司令官はバッサリと言う。
「2時間以内に全力出撃だ。レイド・サムの防軍を相手に、ビビっていたら、軍人なんて務まらんぞ。但し、40人の戦姫部隊を残すのには賛同する。君が隊長になって防衛任務に付き給え」
レイド・サム国の波和之キリコ戦姫中尉の提案した作戦を、クルセイド・ジャリンゴ戦姫中尉は正確に見抜いていた。洋上を観艦式宜しく行進する打撃部隊に先行して、民間の水中スクーターを徴用出来るだけ徴用して、レイド・サム国にある水中スクーターを動員して、大海洋の海中を、100人の戦姫部隊が突き進んでいた。徴用した中で、まともに動いたのはそれだけであった。
理想を言えば、軍艦として建造された大型潜水艦を用意できたら良いのであるが、この際、100人分も用意できただけ良かったと考えるしか無い。後はもう出たとこ勝負でやるのみだ。
そんな彼女達の頭上の海上には、ソメリト合衆国総軍のパールハーバー打撃部隊が見事な隊列を組んで航海している。どうやら、自分達は成功したらしい。大型潜水艦、今から本気で作れば、強力な武器になる。登場当初は、戦姫の理不尽な強さの前に脆弱性のみが強調されてしまい、今の技術で全力傾けて作れば、それなりのものが出来るかもしれない。
先頭を進む波和之キリコ戦姫中尉は、欲を言えばもう50人は欲しいと、無い物ねだりを承知で思ってしまう。人間というのは面白い生き物で、自分が思っている事は、大体他人も同じ事を思っているのだ。もし敵にこちらと同じ事を考えている奴が、行動力を発揮していれば、何が起こるか分からない。もしかすれば、先手を打たれているかもしれない。
まぁいい、こちらの意図に気がついていいれば、こちらの打撃部隊に対して戦いを挑まないだろう。パールハーバー洋上基地を破壊すれば、戦争は半分は終わるだろう。残る半分をどうするかは、政治次第だ。




