0059 和菓子と名案
駄目だ。どう考えても、駄目だ。
ありとあらゆる可能性が検証されたが、全て否定された。「希望的観測」であり「ご都合主義」であるとして、一蹴されてしまっていた。
レイド・サム国の防軍の主戦力たる海軍の旗艦「おうみ」では、毎日食っては議論し寝ては議論しトイレに行っては議論しシャワーを浴びては議論し、1日の大半を議論に突っ込んでいたが、艦隊に所属する作戦士官は、誰一人としてこの難問を解決出来なかった。
これから始まる、「テラース大海戦」を戦い抜くのに、如何なる作戦をもって挑むのか。後方の軍令部は骨格となる部分は示されたが、それに対する肉付けの問題で、「現場の判断に任せる」と言われたが、あれは「信用」ではなくて、もっと違う意味ではなかったのかと勘ぐっていた。
ソメリト合衆国総軍のパールハーバー洋上基地に駐留するイージス戦艦1隻、イージス駆逐艦17隻、「双胴強襲艦」21隻、その他諸々の艦艇を含めると、こちらが全力で挑んでも、善戦虚しく敗北するのは目に見えている。
「各個撃破」「奇襲攻撃」「陽動作戦」「決戦」、いくらでも出てくるアイデアは、しかし具体的な検証を経て「机上の空論」という結論で締めくくられていた。つまり、打つ手無し、だ。大抵の戦争は戦う前に決着がついていると言うジンクスは、ここでも生きていた。
これ以上の議論は、無駄な時間だ。こちらの最終目標は、「ソメリト合衆国の経済破綻」であるが、経済破綻より先に、こちらの戦力が根こそぎ奪われてしまえば、意味はない。例え刺し違える形で一度勝ったとしても、敵はパールハーバー洋上基地を駐留艦隊ごと失ったとしても、本国から援軍が向けられたら、手も足も出ない。
何か、何か良い手段はないのか。作戦士官は全員、詰んでいる盤面を見て、頭を抱えていた。何か、良い手はないのか。
濁った空気が流れる会議室にて、1人の作戦士官が言う。
「この際だから、全部やってしまいましょう。「各個撃破」「奇襲攻撃」「陽動」「決戦」、全部纏めて1つのパッケージに出来ます」
そんな手があるのか。一体どうすれば、この絶望的な戦力比を覆せるのか。
「出来ます。洋上艦隊の戦力では、こちらが圧倒的に不利です。どうあがいても勝ち目はありません。ですが、こちらが相手の用意したリングにあがる必要はありません。腕力で勝てない相手に喧嘩をふっかけて勝つのには、ナイフや金具を使えばいいのです。それが「卑怯」だとか「男らしくない」とか言う間抜けは、この際、相手にする必要はありません。喧嘩にルールはありません」
ちょっと待て。そういうお前は誰だ。どうしてこの会議室に居る。
「「かつらぎ」所属の戦姫、波和之キリコ戦姫中尉です。ついさっき、艦隊司令官から差し入れをもってこいと言われて、取り寄せた和菓子を届けにまいったのですが、議論を盗み聞きしていく内に、私ならこうする、そうすれば勝てる、と言うアイデアが産まれて、もう引っ込みがつきません。言わせてもらいますが、合衆国総軍に対して真正面からまともにぶつかって勝とうなんて思ってはいけません」
確かに、小手先の作戦やペテン、それにギャンブルに出ても、勝てやしない。制海権は愚か、制空権も奪えないままに終わるのは目に見えている。
「であれば、もう止めましょう。勝ち目のないギャンブルで、有り金全部すってしまう様な頭の使い方は」
ほう、随分と自信のある言葉だな。それだけの自信のある作戦とは、如何なるものであるのか。
「時間的な猶予は、どのくらいあるのですか」
あと、10ヶ月程度。
「では、作る暇はないですね。あんまり頼りたくないですが、民間から徴用するしかないですね」
民間から。お前、何を企んでいるんだ?
……まさか。そんな手があったとは。別に新兵器という訳ではない、民間にも出回っている物で代用可能なのだが、恐らく合衆国総軍にだってある筈だ。それを、この様な形で使うとは。確かに、「各個撃破」「奇襲攻撃」「陽動作戦」「決戦」、全部この手さえ使えば、纏めて一度に全部出来る。
だが、目からウロコである。これで駄目だったら、素直に降伏宣言でも出した方が良い。問題は、パールハーバー洋上基地の駐留艦隊がどう動くかだが、敵が防御を固めて駐留艦隊の出撃を拒んだ場合は、どうするのか。
「方法はいくらでもありますが、一番良いのは宣戦布告した上で艦隊を進出させるのです。合衆国総軍は、パールハーバー洋上基地に駐留している艦隊は出撃せざるを得ません」
よろしい! それで行こう。
どうすれば良いのかは決まった。あとは行動あるのみ。すぐに準備にとりかかる。少なくとも、これでパールハーバー洋上基地は片付けられる。西海洋のアトランティス基地は、「テラース海洋自由圏」の同盟国に何とかしてもらうしかない。何なら同じ手を伝えるべきかと話にも上がったが、上がっただけで消えていた。何処からか情報が漏れてしまい、不必要な犠牲を齎すかもしれない。
宝田之カミキ作戦少佐は、その作戦内容を聞いて、1人ニヤニヤしていた。成る程、こいつは面白い。考えた奴は、現場で戦う戦姫であると聞いていたが、まさか戦姫からこんなアイデアが出てくるとは思わなかった。同じ分野の人間同士がつるんでも、千日手になる事がよくあるが、そういう時には、この様な外野からの発想が生かせることもある。
あとは、相手が、「敵」がどう出るかだ。そして、洋上基地を1つ失ったからと言って戦争をやめるつもりが無いのかどうかだ。いや、洋上基地を1つ失ったら、その時点で財政が破綻して、この戦争は終わりだ。
後は、政治家の狸たちがこの問題をどう処理するかだ。アッシュハウスの狸たちが、財政破綻を理由に戦争を止められるか。一度始めたら、面子を保ちつつ利益も得られるまで続けなければならないのが、政治家にとっての戦争である。面子も利益も得られなければ、選挙で大敗してしまう。
何にせよ、もうこれ以上、後方の作戦士官に出来る事は無い。あとは、現場の兵隊に任せるだけだ。




