0058 最終目標
「おうみ」。
レイド・サム国の防海軍が保有する、最大のイージス艦である。排水量1万5千トン。垂直発射装置、VLSにて扱えるミサイルの数は150発、4連装SSM発射筒が2基、単装砲1基に、CIWS3基、短魚雷発射装置。そして、一番の強みはイージス・システムである。ICBMも捕捉可能・迎撃出来る高性能レーダーと情報処理システムが、この艦の最大の特徴である。2番艦に「するが」がある。
この大型イージス艦の最大の目的は、防海軍が保有する12隻の「双胴強襲艦」を守るイージスの盾となる事である。他にも1万トン級の「やまと」「むさし」「きい」「おわり」、合計6隻のイージス艦が配属されている。他にも軽空母が4隻あるが、かつては虎の子とされていた立場は、「双胴強襲艦」に奪われていた。その「双胴強襲艦」は「うんりゅう」級が4隻、「たいほう」級が8隻、他にミサイル駆逐艦が18隻、その他フリゲート、ミサイル艇、補給艦等の雑用艦を含めると、防海軍には100隻近い船が所属していた。
「おうみ」級は、防海軍が自分達の旗艦とするべく建造した、イージス艦の中でも巨大な規模になり、その分、機能も充実していた。その「おうみ」にも、勿論会議室がある。今日は、この防海軍にとって大事な人間がやってくる。防軍軍令部の作戦班からやってきたのは、1人の男であった。
宝田之カミキ作戦少佐は、防海軍の現場を預かる水兵に命令を下す現場指揮官達、打撃部隊指揮官から艦長クラスに至るまで、全員勢揃いである。あの別名「鈍器レポート」は、この場にいる人間達は全員読んでいる。であれば、話も早くすむ。
「我々の標的は、パールハーバー基地1つだけです。他の洋上基地は全てスルーします。他の洋上基地に関しては、アトランティス基地は「V・UNION」にまかせてもらうとして、我々はパールハーバー基地に駐留している敵打撃部隊のみを目標とします。ついでに、出来ればパールハーバー基地も破壊できれば良いなぁ、と思っています」
「パールハーバーとその駐留打撃部隊が、最大の攻撃目標、という事ですか」
「……と言うよりは、他の相手まで引き受けるわけには行かない。アトランティス基地は、西海洋にまで打撃部隊を派遣するのなんて無理だから、あそこは現地の同盟国にどうにかしてもらうしかない」
「そういう事で、よろしいでしょうか。作戦少佐殿」
「……まぁ、現場での戦闘指揮はそちらの領分なので、口を出すつもりはありません」
「では、今更何の為にここへ来たのですか」
「問題意識の共有の為です。我が防軍の前線と後方の意思疎通は大事です」
「信用の問題ですか。それとも信頼の問題ですか」
「そんな子供じみた問題ではなくて、今回の戦争の目標というのでしょうか、兎に角、我々が何のために戦うのか、それをはっきりさせる為の会議でして」
その場にいる全員が、このスポーツ談義が唯一の問題となっている幕僚団のホープの言葉に耳を傾ける。
この戦争の最終的な目標は、ソメリト合衆国の洋上基地の破壊には無い。最終的な目標は、合衆国の経済破綻である。洋上基地の建設の為に、莫大な予算と物資を投じている。維持費だけでも、かつての原子力空母に匹敵するか、あるいはそれ以上の予算が突っ込まれている。恐らく、一度破壊されたらもう二度と修復できる財力は残されていない。打撃部隊についても、あんまりにも深刻な損失を被れば、もう2度と復旧は出来ないだろう。
今でこそ、洋上基地を全世界の主要海域に建設しているが、全部完成させるまでにはあと5年か10年はかかる。その間に、合衆国の経済を破綻させるのが、我々の最終目標である。打撃部隊と戦うのも良い、パールハーバー基地への攻撃も良い、だが、こちらが先に経済破綻してしまったら、意味がない。少ない犠牲で大きな仕事をしてもらいたい。我が国の防軍だけでは、5年も10年も、戦い抜ける財力はない。もってせいぜい1年。この1年で、合衆国総軍に回復不能なダメージ、否、回復困難なダメージを与えて、その経済を破綻させるのだ。
打撃部隊の現場指揮官、中堅指揮官、前線指揮官、それに各艦の艦長達は、話を聞き終えて、苦悶の表情を浮かべる。思っていた以上に困難な戦争に、難しい仕事になりそうだ。戦いに勝つだけでは、経済破綻なんて起こりそうには無い。第一、経済は生き物である。コントロールしようとしても、狙って破綻させる事は出来ない。第ニに、レイド・サム国の経済だって、自力で回していけるかどうか、わからない。
「それで、具体的に我々にどうしろと?」
「だから、そこは現場を預かる指揮官に任せます。後方にてあなた達に目的と目標を与えるのが、我々の責務です。現場の指揮にまで後方の人間が干渉するのはいい傾向ではありませんな」
「現場での判断は全て、我々が決めても良いのだな。そういう意味で受け止めても良いのだな」
「ええ、どうぞ。旗艦機能のある「おうみ」に乗り込んで、横槍を入れるつもりはありません。図上演習、AIでのシュミレーション、何でもやって下さって結構です」
「それは放任主義ではないのか、作戦少佐殿」
「なんていうか、ベンチやセコンド、コーチが必要以上に選手に指示を出すのは、士気は勿論、判断力も削ぐのが通例ですからな」
「……よろしい! 言いたい事は分かった。少ない犠牲で大きな仕事、だな。やった事がない、困難な仕事になるだろうが、やりきってみせよう」
「では、生きてまた会いましょう」
「おうみ」から内火艇で移動した後で、宝田之カミキ作戦少佐は、これから先に待っている防軍の困難を思いながら、胸の内にて思ってしまう。頑張れよ、生きて帰れよ、任務に忠実で、それでも適度に戦えよ。




