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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第1章 メロス・ベクトルスタン戦争篇
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0006 根っ子の逃亡

 剥き出しの岩肌が連なる山脈と、その周囲に広がる砂漠の海原。その其処彼処から、巨神と呼ばれる巨人兵器が次々と地下施設の天井をぶち抜いて、次々と地上に現れる。その次に、機甲部隊が、人型ロボット兵器が続く。どうやって地下に隠したのか聞きたい戦車も出て来た。無論、戦姫も歩兵も、これらの支援の為に続々と現れる。

 最初で最後の抵抗である。生き残ったら、この広い土地にて彼方此方に潜んでパルチザン運動に専念する予定であり、その主目的は陽動だ。彼ら、彼女らを地下施設に閉じ込めて、兵糧攻めを行っていたソメリト合衆国軍は、暫くの間、動揺して混乱したものの、それは長くは無かった。


「・・・・・・凄い」

 エミリー・プラス戦姫曹長とマロニスティラ・ズィークトは、その光景を見て、102年ぶりに起きる大規模な戦闘行為を、遅れて見ていた。全く、どいつもこいつも戦争、戦争、戦争である。他にやる事は無いのか。先にテロ行為をしたのは「ヘルベルダー」と、レンヴェル・マニストを筆頭とする指導陣であるが、何故武力以外の、暴力以外のやり方で訴えられなかったのか。

 そこに、エミリーは違和感なり、嫌悪感なり、憎悪感なりを胸に抱く。相手の行動に、思想や感情が込められているとは思えなかった。手段が目的化していると言うのか。クソ、語彙力が足りない。この感情、どう言語化すれば良いのか。

 最も分かり易く言うなれば、こうなる。

「気持ち悪い」

 幼児並の語彙力であるが、直感で出てくる言葉はこれしかなかった。人間味の無い、人情の無い行動である。民間人を平然と殺す、部下を平然と見捨てる、自分の命が最優先。必要なのは忠実である事のみ。自分の感情は不要、むしろ邪魔。同じ人間の発想とは思えない。

 そうか。エミリー・プラス戦姫曹長は、ようやく気が付く。これが戦争なのだ。100年前に行われた、テラース最終戦争以来の戦争が、ここに始まったのだ。


 巨神同士が殴り合い、戦姫同士が剣や槍と言った原始的武器で斬り合い、ロボット同士が重火器で撃ち合い、歩兵同士がお互いに銃やナイフで殺し合う。

「エミリー! 何をしていた。何でいきなり偵察に行ったのだ。現地の協力者と共に」

「兵を引いて下さい。あるいは、降伏を勧告して下さい。「ヘルベルダー」の首領はもうここには居ません。ここで犠牲を払いながら戦うのは無駄です。これは明らかに陽動作戦です」

 論より証拠。と言わんばかりに、エミリーはマロニスティラが撮影してきた無音カメラを差し出す。デジタル化されたそれは、撮影した「絵面」をそのままその場で確認できる。

 驚愕。衝撃。電撃が飛ぶ。現地にて指示を出す本部の作戦士官は、混乱した末に結論を出す。

「出て来ている敵はなるべく叩け。戦闘が終わったら、こちらの指示した地域に急行して、周辺をくまなく探せ。白人の戦姫を、白人の戦姫を探し出せ」

 鉄拳と得物が乱れる戦場では、それはあまりにも困難な任務であった。文字通り、死兵と化して抵抗している。玉砕を前提とした、自殺行為である。武器が無くなったら、その場にて命を断つ程の徹底ぶりである。そんな中で、「殺せ」と「逃げろ」以外の行動は無茶すぎる。


 結局、「ヘルベルダー」の陽動作戦は大成功であった。マロニスティラ・ズィークトは、戦姫上等兵待遇にてエミリー・プラス戦姫曹長の部下として配属されていた。あの画像は、それだけの価値があった。ベクトルスタン国から脱出したであろうテロ組織の指導者、レンヴェル・マニストの正体が、遂に暴かれたのだ。ソメリト合衆国の諜報機関の要注意人物、治安組織の前科持ちの犯罪リスト、これらのデータベースを底から絞り出してみたものの、該当人物は居なかった。

 しかし、その顔、その得物は、1度見た人間が2度と忘れないくらいの強烈な印象を相手に与えるのに充分な代物であった。何処へ逃げようとも、誰も忘れられない、誰も見間違えないレベルまで、全世界に拡散させていた。国際警察連合にも照会したが、該当人物は矢張り居なかった。

 存在しない筈の人間だと言うのか。それとも、忘れられた人間なのか。あるいは、何かしらの偽装なのか。掘っても掘っても水源に辿り着けない、「渇き」と「疲れ」が、関係者の心を蝕み続けていた。

 幽霊なのか。それこそデジタルが産み出した幻影なのか。どちらもすぐに否定できた。心霊写真は大概が偽物か、あるいは目の錯覚である。デジタルの技術では、まだまだここまで高いレベルで人間を再現は出来ない。


「「自由・博愛」作戦は、完全な失敗に終わりました。「ヘルベルダー」の戦力は叩けましたが、組織を根こそぎ削ぐ事は出来ませんでした。主要幹部は戦闘のどさくさに紛れて逃げて散り散りになりました。これは雑草を刈るだけで根っ子まで枯らせなかったのと同じです。こちらは無駄な税金と人的資源を浪費させられたのです。結果としてみれば、我々の負けです」

 ヴァールトン・カシミリア作戦中佐は、沈痛な表情を浮かべるヴァベル・タチウス大統領を筆頭とする政府閣僚を前にして、熱弁を振るう。そもそもの話、出兵自体が失敗だったと言いたげである。

「ベクトルスタン国に民主主義は根付きません。いや、選挙をさせて投票させて政府を創らせたとしても、彼の地が民主的であった歴史は殆どありません。むしろ、甘い汁を吸いたい連中に隙を見せる事になります。この戦争、対テロ戦争に銃後はありません。逃げ出した幹部達は、彼方此方にて同じ様な組織を次々と立ち上げて、破壊活動を展開するでしょう」

「つまり、完全な無駄だったと言うのか」

「無駄ではありません。失敗です。止めましょう」

 ヴァベル・タチウス大統領は、ハッキリと言い放つヴァールトン・カシミリア作戦中佐に対して、睨みもせず、暴言で耳を叩かず、ギガント・クルス作戦大佐へと目を向ける。

「確かに、失敗しました。それは認めます。しかし、これで我々は口実を得られたものが、1つだけ有ります。メロス国に対する攻撃の口実です」

 ヴァールトン・カシミリア作戦中佐は、あえて黙ったままである。どうしてそうなのか、承知の上で黙ったままなのだ。

「かの国の大統領は、反ソメリト合衆国勢力の急先鋒です。「ヘルベルダー」の逃げる先は、ここしか有りません。ダロス国は現実主義ですから、適当な所で手を引く筈です。適当な口実を作って、メロス国も民主化すべきです」

 ギガント・クルス作戦大佐はのこの時の表情は、後世に長らく言い伝えられるものとなった。見えない敵、見えない終わり、これらの理不尽な状況に対する憎悪が、空回りしている状態だ。もっと分かり易い「敵」であれば、自分に対するのは勿論、大衆も納得しただろう。

 もう支持率なんて考えていない。1期しか選出されなかった数少ない不人気大統領の中の1人にされるのか。議会の支持だって永遠では無い。しかし、今回の出兵が失敗であった事は認めさせない。その為には、メロス国を叩き潰さなければならない。

 良い面の皮だったのは、ベクトルスタン国の市民、そしてソメリト合衆国の市民である。民主化出来るまでどれだけの時間が必要なのかは分からないが、逃げ延びた「根っ子」が、再び戦力をかき集めて、ベクトルスタン国の民主主義を攻撃するだろう。その間、ずっとソメリト合衆国が面倒を看なければならない。えらい投資になる。大したものだ。

 もう4200では済まされない。


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