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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第1章 メロス・ベクトルスタン戦争篇
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0005 チョコで買った物

 マロニスティラ・ズィークトは、じっとベクトルスタンの夜空を見上げていた。テロ組織「ヘルベルダー」に言われるがままに場所代を支払い続けて麻薬を造り続ける生活に嫌気がさして、1人家を飛びだした戦姫の家系の少女は、家から失敬してきた剣を持って、夜空をジッと見上げていた。

 ベクトルスタンは立派な国であるが、その実状は「ヘルベルダー」だけでなく、他にも数多く存在している反ソメリト合衆国組織に鴨にされているのが実状であり、政府や行政なんてのはあって無きが如し。抵抗しようとすれば、「政敵」として撃ち殺されるのだ。

 戦姫の家系に産まれて、誇り高い戦士の血筋であるが、今は野良犬同然である。追っ手が来ないのは気になるが、一体何があるのだろうか。矢張り、あの噂は本当なのだろうか。「ヘルベルダー」の工作員がデルタ・ビルを破壊したと言うのは。そして、これにソメリト合衆国が報復措置を行うつもりだと言うのは。

 そんなの、当たり前じゃ無いか。約100年前に、当時の列強国が勢揃いで戦い、これに勝利した「唯一の大国」に対して、盛大に喧嘩を売りつけたのだ。しかも、これ以上無いくらいの高値で売りつけて、これにチップまでつけて買ってきた。ベクトルスタン国の歴史もこれまでだ。いや、最初からここには国なんて無かったのかも知れない。

 どうしよう。この剣で、愛国心を示すか。国なんて無い。逃げた以上、今更戻っても処刑されるのがオチだ。自分にはもう義務も誇りも任務も無い。やりたい放題、やらせてもらうか。戦姫とは、元々力無き女を哀れんだ神が与えた超能力である。であれば、力の無い男に従う必要なんてこれっぽっちもない。自分の事さえ如何にも出来ない男の言いなりになる為に、この力を与えられた訳では無い。

 そう思った時、夜空の向こうから轟音が聞こえてくる。目を向けると、PCー3輸送機、世界最大の輸送機が飛んでくるのが見えた。その機体に描かれている識別マークは、ソメリト合衆国の「鷹」のマークだ。どうやら、噂は本当らしい。ソメリト合衆国の報復が始まったのだ。

 さて、どうするか。戦うか? 冗談じゃ無い。勝ち目の無い戦いで無駄死にするよりも、もっと面白い人生が有っても良い。お家が一番? それで搾取され続けるのは御免被る。自分の才覚のみで生きていく人生が有っても良い。貧しい土地で、それでも人間らしく生きていくのには、ここはあまりにも過酷すぎた。


「・・・・・・それで、投降すると? そう言っているのだな」

「はい、もう2度と家に帰りたくないし、こんな国にも未練は無いと言っていますが」

「証明する方法は無いのかしら」

「・・・・・・協力すると言っています。偵察・情報提供・道案内、何でもすると言っています」

「面倒臭い、こんなのを当てにするほど、我が軍は追い詰められていないのに」

「でも、捕虜第一号ですよ」

「テロリストに捕虜なんて居ない。こいつらは犯罪者だからね。エミリー・プラス戦姫曹長に任せましょう。あいつはこう言うの喜びそうなキャラでしょう?」


 そのエミリー・プラス戦姫曹長は、マロニスティラ・ズィークトを前にして、1つ尋ねる。

「お腹空いていない?」

 事前にレクチャーされた簡単な現地語でもって呼びかける。マロニスティラはぎこちなく頷く。無論、半分は演じているのだろうが、この際はそれも評価の内だ。要は翻意さえ無ければ良い。肝心な時に裏切られるのは困るが、そうならない要に気をつけるのも、当然の配慮だ。

 こう言う時、定番なのはレーションの中でも定番である、チョコレートだ。この世に不味いチョコレートなんて存在しない、それはチョコレートではない、と言う声が聞こえてきそうであるが、実際に不味いチョコレートはここに在る。こいつがそのまがい物だ。取り柄はカロリーのみ。それでも、マロニスティラは美味そうに食べる。どうやら、チョコレート自体、初めて食べるらしい。

「もっと食べたい? なら、言う事を聞いて。これからは、私があなたの保護者です」

 序盤は自分で言ったのだが、それ以降は全部通訳を通してであった。まだまだ言葉の壁はあるが、それはその内に解消できるだろう。


 「ヘルベルダー」の拠点を虱潰しにするのに、先ずは空爆、然る後に機甲部隊を構成する人型有人操縦ロボットが進撃、戦車や歩兵の援護の元に、巨神と戦姫を先頭に進撃する。住民は全員家に籠もったまま出てこない。「ヘルベルダー」の構成員も地下施設に潜ったまま、出てこない。

 こう言う時、どう対処すればいいのか。地下施設への出入り口は硬く守られているが、これを爆破して中に突入、なんてお上品な手段には訴えない。完全に地下施設と地上とのアクセスを遮断して、兵糧攻めを行う。水攻めを行っても良いのだが、そんな手間は必要ない。

 その間にも、地上に残された「ヘルベルダー」の設備や施設、物資は全て壊すなり没収するなり、好きにしていた。ベクトルスタン国の指導者は、突然の「侵略」に対して抗議をするより先に、自分の家族類縁を全部連れて、他国に脱出していた。別に怒る国民は居ない。以前からこの機会を窺っていたと見える。

 「ヘルベルダー」ヘの兵糧攻めは、時間はかかるだろうし、金もかかるだろうが、人的資源を消耗しないで済むのであれば、この上ない上策であった。今の所、ソメリト合衆国軍最大の目標は、「ヘルベルダー」の指導者とされる、レンヴェル・マニストの命である。生きたまま連れて行ければ理想的だが、この際、生死は問わない。


 エミリー・プラス戦姫曹長は、マロニスティラ・ズィークトと共にベクトルスタン国の空を飛んでいた。マロニスティラは身振り手振りで、「こっちに来い」と伝えてきて、上には「偵察」と言い訳をして、敵地の空を飛んでいた。

 エミリーは、何処へ連れて行くのか。よく分からないままについていったが、途中でマロニスティラは岩陰に隠れて、身を潜める様にジェスチャーで伝えてくる。その隣に身を潜めると、マロニスティラは目配せしてみせる。その方向に目を向けて、エミリーは驚愕で、時が止まる。

 そこに居たのは、セントラル・イースト地方出身者とは思えない、肌の白い、美しく長い金髪を靡かせている女がいた。その隣には、識別マークを消された戦闘ヘリが1機、それに護衛と思しき人型ロボットが3機居る。

 間違いない。あれが、「ヘルベルダー」の指導者であろう。レンヴェル・マニスト、その人なのだ。女性で、しかも白人である。そして、恐らく、いや、絶対に戦姫だ。その得物は、常識外の大きさの大剣だ。あれは剣と言うより鈍器と言うべきかも知れない。斬る前に潰れてしまう。

 どうする。あのレンヴェル・マニストは、ここから脱出するつもりだ。最初からここでの抵抗は諦めていたのだろう。世界中を飛び回って逃げ回っても、惑星「テラース」は1つだけだ。いずれは捕まえられる。

 クソ、こんな時に狙撃銃があれば、いや、カメラでも良い、何かしら物的証拠があれば、この衝撃の事実について根拠が示せる。口先だけの証言では駄目だ。

 と思っていたら、無音で撮影可能な偵察用カメラにて、マロニスティラが現場の映像を抑えていた。このまま攻め込もう、脱出を阻止しようとは思わなかった。こっちは二人きりの戦姫。敵はメロス国製人型ロボット兵器が3機。勝負にならない。

 一部始終を全部撮影した後で、地下施設からの秘密の出入り口が閉じるのを見届けた上で、エミリー・プラスとマロニスティラ・ズィークトもまたその場を飛び去っていく。その途中、エミリーの動揺は収まる事は無かった。二重、三重の衝撃で、胸が押し潰されそうになっていた。

 兵糧攻めが裏目に出たとは思わない。いや、この指導者脱出を手助けする為に、最大限の抵抗を試みるだろう。その意味では、マロニスティラがこのタイミングであの秘密の出入り口を教えてくれたのは、ベストなタイミングであった。

 自分達の拠点に戻る最中に、無線機から悲鳴にも似た援護要請が出ていた。思った通り、「ヘルベルダー」の陽動作戦が始まったのだ。エミリーは今後について、見通しが見えない心境になっていた。このペースでは、戦線はセントラル・イースト地方全体に飛び火する。

 あの大剣の持ち主が、最後に立ち塞がってきた時、自分は何が出来るのだろうか。だとしても、死ぬ訳にはいかない。


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