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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第1章 メロス・ベクトルスタン戦争篇
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0004 10年の代償

 ベクトルスタン国とは、知れば知る程、歴史的に他国の「政」に翻弄され続けていた。この国を握った国がセントラル・イースト地方のみならず、アスラン大陸を制するとされており、時代の節目に置いて様々な勢力が大義名分を掲げて兵を差し向けて、その度に無数の問題を残して兵を引っ込める、これの繰り返しにより、国は疲弊していた。

 かの国が支援するテロ組織「ヘルベルダー」も、元はこの国の出身者が創設したわけでは無く、一説によればソメリト合衆国に訪問した事があるセントラル・イースト諸国の出身であるともされている。

 この複雑な事情を抱えた国に対して、ソメリト合衆国は兵を派遣した。かつてテラース最終戦争にて戦ってこれを下した、現在の同盟国諸国は、申し分程度の兵のみを派遣して、形ばかりの同盟関係を「アピール」してはいたが、本音を言えばこの地域に手を出したくないという意図が丸見えであった。この問題は、ソメリト合衆国1国の問題であり、何故にほぼ関係の無い自分達が巻き込まれなければならないのか。ただでさえ、セントラル・イースト地方の産油国からの石油の輸送に困難が生じるとして、ヴィクター大陸諸国では石油の値段が上がり続けている。関連株も暴落する一方だ。正直な話、同情されたいのはこちらの方だ。

 あの国の大統領は、軍部は、これらの問題点を承知しているのだろうか。した上での出兵であれば、恐らくは苦渋の選択であったのだろう。もしそうでなければ、感情論だけで軍政を動かした事になる。それで戦争をやって勝った国は無い。


 冷静に事態を見ている人々は、今日もアッシュハウスの前にて反戦デモを行っていた。今戦争を始めれば、4200は42000になるかもしれない。下手をすれば、420000にもなるかもしれない。それも、ソメリト合衆国国民のみならず、セントラル・イースト地方の人々も巻き込んでの数字になるかもしれない。現時点にて、ベクトルスタン国を「ヘルベルダー」ごと粉砕したとしても、破片が飛び散るだけで消滅させるのは不可能である。今の内に自制すれば、42000は仮定の数字ですむ。

 彼らの主張の一部はこの通りになっているが、元々移民の国とされており、多種多様な地域の移民で構成されている合衆国特有の問題もある。セントラル・イースト地方出身の市民に対する露骨な差別行為、あるいは殺人事件や傷害事件も頻発しており、政府の方で憎悪を煽る真似はしないで欲しいと言う意見も見受けられた。

 無論、これに反発して積極的な報復措置を求める「報復派」と呼ばれるデモともぶつかり合う。42000が仮定の数字になるとしても、既に4200の数字が確定された今、これを無かった事には出来ない。今後の安全保障を慮れば、4200に数字を抑える為にも、戦うより他に無い。先に手を出したのは「ヘルベルダー」であり、合衆国は一方的に攻撃されただけで、何一つ攻撃はしていない。このまま4200の犠牲を必要な犠牲としてしまえば、次の42000は合衆国にて発生するかも知れない。断固戦うべきである。

 アッシュハウスの外では勿論、中でも、「自由・博愛」作戦について侃々諤々の議論が、未だに続いていた。ヴァールトン・カシミリア作戦中佐を筆頭とする慎重派は、今からでも遅くはないから、と言う理由にて「撤兵」を主張し続けており、ギガント・クルス作戦大佐はこの動きを「既成事実」を残す事で強引に乗り切ろうとしていた。ヴァベル・チウス大統領は、この二派に分断された紛争省の作戦立案科の間にて板挟みにあっている、と言うのが実状であった。

 民意と軍の意見はこの通りだ。では、民主主義の根幹を成すもう1つの機関、議会はどうであるのか。3分の2が「報復派」、残りが「慎重派」である。普通だ。普通の数字だ。どっちによればいいのだ、どっちに振ればいいのだ。自分に何を求めているのだ。もうこれ以上悩ませないでくれ。結局、物事の全ての責任を取るのが「上」の立場の人間であると言うのは、万国共通である。これが機能しなくなった国が存続した例は1つだって無い。

 そんなヴァベル・タチウス大統領の「正直な感想」を言語化すれば、彼は完全な「慎重派」であった。セントラル・イースト地方は諸民族・宗教諸派・民族間での問題が複雑に絡んでいる地方である。そこに武器を持って乗り込んでいけば、彼らは「共通の敵」としてソメリト合衆国を認識するだろう。ギガント・クルス作戦大佐の言う通り、70万の兵士をかき集めて派遣しなければならない事態も充分に有り得る。無論、報復派はそのつもりで出兵を主張しているのだろうが、1年や2年で済まさせる戦争ではなくなる。10年か20年は戦わされるに違いない。

 しかし、民意も軍も議会も、反応は「普通」だ。常識通りのリアクションで、このまま自分の意志を貫けば、次期選挙にて自分は落選するだろう。いや、別に長くて8年しか務まらない大統領職にはそこまで未練は無い。問題はもっと先の未来だ。一寸先は闇の向こうとは言え、こんな大博打を打って負けたら、10年か20年経てばこれまでの儲けを全て溶かす事になる。

 4200? それどころでは無い話になるだろう。42000か、あるいは420000か、そのどちらも有り得る数字なのだ。決して仮定だけの数字ではない。驕れる者は久しからず。この戦争を切っ掛けにして、ソメリト合衆国は今後の10年か20年を失うかも知れないのだ。それが現実になったら、政治不信にも繋がれば、軍への信頼も失われる、民衆にも癒えない傷を多く負わせる事になる。

 どうする、ヴァベル・タチウス。「正義」か「悪」ではない、「損」か「得」でもない。「生きる」か「死ぬ」か、その選択だ。


 同じ事は、強襲揚陸艦「マウイ」から大型輸送機にてベクトルスタン国に空輸中の第1戦姫師団の戦姫達も感じていた。あの「愛のヒーロー」として宣伝されているエミリー・プラス戦姫曹長は、もう既に覚悟を決めていた。この戦争、終わりの見えない10年戦争になるだろう。死者も戦災者もとんでもない規模になるに違いない。

 しかし、それでもソメリト合衆国は戦争を止められないだろう。あの時、エミリー・プラスが見たのは、「後悔」と「恐怖」、それに「罪悪感」に満ちたハイジャック犯の表情だけではない。デルタ・ビルの中にて火と煙の中で悶えながら、瓦礫の山と共に潰れていった人々の「絶望」と「抗議」の悲鳴も聞こえていたのだ。あの時点で、戦争への道は避けられなかったのだ。この先、10年以上は戦わされるだろう。その中で、足や腕を失う兵隊、命を失う兵隊、そして兵器を動かす度に発生する多額の軍事費、これらの負債が合衆国に重くのし掛かる。

 そうなった時、「愛」や「優しさ」に出来る事はあるだろうか。まぁいい、自分は自分だ、エミリー・プラスはエミリー・プラスなのだ。自分に出来る事を全力でやる。彼女個人で出来る事には限度がある。エミリー・プラスは全知全能の神様では無いし、絶対善のヒロインでもない。しかし、同時に「悲劇のヒロイン」でもない。あくまでも人間であるのだ。それさえ守れていれば、どんな時でも間違える事が無いような気がする。

 そこまで想いを巡らせた時、機内のランプが非常灯の赤に切り替わる。非常灯。即ち、これから余分な電力を使えない状態、「戦闘状態」に入ると言う事だ。もう逃げようが無い。「開戦」だ。今後の10年以上、どんな地獄がセントラル・イースト地方にて展開されるか、あるいはソメリト合衆国の混乱と分断が深まるのか。どちらにせよ、すぐには終わらない。タダではすまない。


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