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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第1章 メロス・ベクトルスタン戦争篇
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0003 感情の生き物

 ソメリト合衆国同時多動テロ発生!

 惑星「テラース」に住む人々は、等しくこれから起こるであろう大規模な報復措置について、戦々恐々としていた。ソメリト合衆国は、セントラル・イースト地方の反ソメリト合衆国勢力を主犯格としており、これを徹底的に叩くとしている。

 そして、このセントラル・イースト地方は、この惑星「テラース」の文明を支える資源、石油の産地として知られている。これから戦場になる地域にて、原油の輸送が著しく困難になるのは目に見えていた。これから暫くは、様々な形で「対テロ戦争」による影響が出るに違いない。

 であればこそ、慎重な判断が求められる。目には目をでは、世界が盲目になるだけだ。と言う言葉にもある通り、そんな単純な話で兵を動かすわけにはいかない。政治家は狸である前に民衆に選ばれた代表であるが、その主な役割は軍官民の間に立って、物事を調整するが主な役割である。民衆の求めるところを全て実現していたら、軍と官の反発を招く。今の状況が、正にそれであった。


「「自由・博愛」作戦に関する具体的な方針を議論する」

 と言う名目にて行われた、アッシュハウスで最も広い会議室を用いて行われた議論は、この時のソメリト合衆国の混乱ぶりを示す代物であった。議論百出、侃々諤々、喧々囂々、報復派と慎重派にて真っ二つに分かれていた。

 ヴァールトン・カシミリア作戦中佐筆頭とする慎重派は訴える。

「テロ組織「ヘルベルダー」を支援しているのは、ベクトルスタンだけでなく、メロスやダロスも含まれているとされています。これらのセントラル・イースト地方は、周辺国との関係は勿論、国内での問題も複雑な事情を抱えており、今でこそ国家としての体裁を保っていますが、そこへ我が国が報復措置と称して軍を派遣して秩序を崩壊させた場合、これを平定するのに更に軍を派遣しなければならず、それにかかる費用や人的資源の消耗は計り知れず、最悪の場合は国が破産する可能性も無きにしも非ずです。「自由・博愛」作戦を実行に移すより先に、先ずはゴールラインを決めるべきです。でなければ、終わりの見えないマラソンを死ぬまで走らされる羽目になります」

 報復派のギガント・クルス作戦大佐は、これに反論する。

「ゴールラインは決められている。いや、連中が自らそのラインを引いたのだ。即ち、「ヘルベルダー」の殲滅と、これを支援する国々全てを民主化するまで続けるのだ。このまま徒に時をが過ぎていれば、敵がこちらに対処する時間を与えてしまうことになる。そうなる前に即反撃するべきだ」

 ここで言う「民主化」と言うのは、現地政府を根こそぎ裁判にかけて抹殺し、ソメリト合衆国にとって都合の良い選挙でもって政治家を選ばせる。事実上の植民地、あるいは衛星国とすると言う意味であるのは、この場にいる人間全員が承知していた。

 それは、決して100%間違っているわけでは無い。今後の事を考えれば、同じ事を2度、3度起こされる前に、徹底的にこれを叩くのは、博愛主義には反するものの、政策としては間違ってはいない。しかし、だからと言って「その場の勢い」だけで兵を動かすのは危険であると、ヴァールトン・カシミリア作戦中佐は訴えているのだが、ギガント・クルス作戦大佐にはそれが通じていないらしい。

 矢張り、人間は感情の生き物なのだろうか。ギガント作戦大佐の個人的事情を知らない者は1人も居ない。残念だ。不幸だ。遣る瀬ない。しかし、それで政を動かす訳にはいかない。今この場の判断1つで、国が滅びるかどうかが決まるのだ。残念で不幸で遣る瀬ない人間が、より増えていくかも知れないのだ。

 ヴァベル・タチウス大統領は、この終わりの無い議論に、一応の決着をつけなければならないと思い、1つ、根本的かつ重大な問題について確認しておく。

「今回の出兵に必要な兵員数を、今の所の感想みたいな形で良いから答えてくれ」

 ヴァールトン・カシミリア作戦中佐は、即答する。

「ざっと50万です」

 スタッフ達の顔から、血がサァーッと引いていく音が聞こえたようであった。ざっと50万。幾らかは誇張されているだろうが、それでも、数十万と言うのは非現実的な数字では無い。

 ギガント・クルス作戦大佐は、これに対して反発する形で過小な数字を言うのでは無くて、むしろ逆の方向で攻めにかかる。

「70万は必要でしょうが、未来の為の投資です。惜しむべきではありません」

 確かに、今後の未来を考えた場合、幾らでも投資すべきかも知れない。しかし、70万の大軍勢を整えるのにかかる費用と時間を考えると、明らかに「赤字」である。未来の為の投資を行って、かえって未来を失う事になるかもしれない。

 ヴァベル・タチウス大統領の表情が曇る。最近はメディアに露出する度に、「この国難に際して一致団結して戦うべきだ」と威勢良く叫んでいるが、物事はそんなに単純ではない。ソメリト合衆国の命運は、この場に置ける答えにて決まるのだ。その重責、誰か替わってくれる人間が居れば是非そうして欲しい所である。

 自分の支持率は、今の所67%。不支持率は30%。平々凡々である。国民も割れているのだ。報復派と慎重派に。兵隊を右から左に動かすだけでも税金が必要であると言う事実と、この戦争にて失われるだろう人命を思えば、そう簡単に開戦には踏み込めない。


 エミリー・プラス戦姫曹長は、第1戦姫師団の母艦となる強襲揚陸艦「マウイ」に戦友達と共に乗り込んでいた。決まった。戦争だ。テロ組織「ヘルベルダー」を支援するベクトルスタン国が、同組織の指導者の引き渡しに応じ無かった為、ソメリト合衆国は同国に宣戦布告、投入兵力は21万。3個戦姫師団、4個機甲師団、1個巨神師団、そしてこれらを支援する歩兵、戦車、航空機、全て含めると、ソメリト合衆国の歴史の中でも外国に動員された戦力としては2番目に多い。

 世界が終わるハルマゲドンが始まってしまったのか、あるいは100年戦争の始まりなのか。「マウイ」に乗り込む戦姫達の表情も曇っている。同時多動テロは、確かに許し難い「恐怖」と「屈辱」を与えては居たが、末端の兵隊からしても、今回の戦争については「戦意」よりも「不安」が大きいところであった。

 エミリー・プラス戦姫曹長は、「マウイ」に乗り込みつつも、自分があの時にハイジャック犯に対して「愛」と「優しさ」で訴えた自分の決断を間違ったものとは想っていなかった。今後も同じ事が出来るかどうかは分からないが、何時でも何処でも自分の信じるやり方を押し通すだけである。


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