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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
最終章 「テラース」大海戦篇
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0056 本当の主役

 デカい。強い。高い。

 この三拍子が揃っている「戦艦」を運用している国は、惑星「テラース」だけでも、ただ1国、ソメリト合衆国だけであり、その合衆国でも4隻の運用が限界だ。排水量は破格の3万5千トン、ネット通信が可能で、レーザー砲は間に合わなかったが、各種ミサイル兵器を、核兵器を含めた全ての武器を扱える。

 バリアウト級駆逐艦の失敗が尾を引いている中で、当時の大統領が半ばハッタリで建造をスタートさせた戦艦であるが、予算オーバーにより4隻で打ち切られていた。それでも、その巨体を維持するのに必要な高出力機関を搭載し、それでこの巨体を30ノット以上で走らせて、世界最大級のイージス・システムを動かせられる。唯一欠点があるとすれば、「運用に金がかかりすぎてしまう」という点だ。

 マキシリア・ダイス元大統領。又の名を「史上最低の大統領」と呼ばれている大統領の名を関した戦艦は、当初20隻が発注されていたが、大統領が満期で退任してからは、4隻で建造はストップしていた。

 その1番艦「マキシリア・ダイス」が、洋上基地パールハーバーに常駐していた。他の3隻も惑星「テラース」の各海域に建造した洋上基地に分散配置されている。それで、彼らは50年前に失ったものをお大急ぎで取り戻そうとしていた。衆愚政治家の総本山とされる大統領が、唯一残した資産が、この4隻の戦艦であるというのは、なんとも皮肉な話であった。


 コリンゴリン・マキシム作戦中佐は、パールハーバーの最も堅牢な作りになっている会議室に呼びつけられて、大海洋艦隊司令官から重大な一言を告げられていた。

「レイド・サムを筆頭とする「テラース海洋自由圏」は、戦争の準備を始めている。これに対する対抗策を考えてほしい。人手を使っても良い、君が中心になってな」

 コリンゴリン作戦中佐は、最初耳を疑っていたが、司令官からのこの一言で全てを察知していた。

「軍内部でも、洋上基地計画には反対派が多い。君は中立派だったな。奇譚のない意見が出てきそうだからな。曇り無きレンズで、この状況を判断してほしい」

 やれやれ、ここでも「分断」か。確かに、洋上基地計画には賛成派と反対派に分かれているのは知っている。コリンゴリン作戦中佐は、ルーツはアブスタ大陸系の黒人であり、差別的な扱いを受けた事も何度かある。ソメリト・ドリームを追いかけて移民してきた訳では無い。元々奴隷の末裔として、この国にて軍人として働いている。

 「使命感」はある。無論、「愛国心」だって負けないつもりだ。だからこそ、コリンゴリン・マキシム作戦中佐は快く引き受けていた。自分の職務に忠実であれ。コリンゴリン・マキシム作戦中佐は、すぐさま必要な人材のリストをその日の内に作成して、司令官に提出していた。

「コリンゴリン作戦中佐、これは少し難しい人事だぞ。合衆国総軍だけではなくて、テック長者まで呼びつけて、一体何をするつもりだ」

「無論、戦争計画の準備であります」

「ちょっと待て、待て。まだ戦争になったと決まったわけではないのだぞ。それはアッシュハウスが決める事だ」

 それでも、コリンゴリン作戦中佐は一歩も引かずにやり合う。

「ここより先は私見ですが、この洋上基地の大規模建設事業は、全世界に対する宣戦布告も同様です。グレイス諸島の代用であれば、パールハーバー基地だけで済ませられたのに、これの運用実績が高いと知るや否や、世界中の海にこれを建設するのは、重大な挑発行為です」

「だから、戦争になると?」

「「テラース海洋自由圏」は、軍事同盟ではありませんが、既に惑星「テラース」の国々の内の7割が参画しています。残り3割は武装中立といった状態です」

「……また、解放戦争か。3度目の世界大戦だと言うのか」

「我々に残された選択肢は2つに1つです。今すぐ洋上基地を解体するか、あるいはこれを拠点として戦争に勝つか。そのどちらかです」

 司令官は、今一度コリンゴリン・マキシム作戦中佐の顔を見る。相手に表情を伺わせない、軍人の目だ。こいつは使えそうだ。

「必要な人材は勿論、作戦立案についても時間を与えよう。もう戦争は始まっている。対レイド・サム国の戦略だけではなく、世界中の海に散らばっている洋上基地での戦闘も、全世界との戦争に備えろ」

 この時、初めてコリンゴリン作戦中佐の表情が凍りつく。この司令官は本気だ。本気で世界大戦が起きると思っている。「テラース大海戦」は、既に既定路線なのだ。

 50年、半世紀もの間、この大海洋は平和の海だった。いや、大海洋だけじゃない。世界中の主なシーレーンを脅かす海域に、大統領は次々と洋上基地を建設している。

 その理由は、国防体勢の強化、ではない。供給過多になっている鉄鋼産業に、巨大な需要を用意するためだ。軍に対しても、人事面に置いて新しいポストが増えるので、大歓迎と言ったところである。軍艦も今後作り続けるから、総軍は笑いが止まらない、と言ったところだろう。

 つまり、この洋上基地建設ラッシュの本当の目的は、製鉄業と総軍のポスト拡大であったのだ。最初から戦争になるなんて思ってもいなかった。洋上基地そのものは、ソメリト合衆国の技術の粋を集めた拠点であるが、世界の7割を敵にまわして勝てるかどうかは未知数だ。

 それでも、やるしか無い。自分以外に、誰が出来るというのか。この50年間、祖国は「世界唯一の超大国」という肩書を失い、単なる地方大国へと凋落し続けている。現在進行系で進む凋落を阻止するのには、この「世界大戦」で負けるわけには行かない。


 コリンゴリン・マキシム作戦中佐が長官室を去るのと同時に、司令官は「戦争計画」の立案の為に集めてほしいと言う人物のリストを見て、顔が真っ青になっていた。

 まともな奴らが居ない。いや、まともな軍人が1人も居ない。唯一、兵站部門のフェリスタ・クルーゼ少将が居るだけで、後は漁業組合、海運会社、それに運輸大臣、物流連盟、IT企業組合、どいつもこいつも民間企業の代表ばかりである。実際に戦闘になったら、絶対に勝てると踏んでいるのだろうか。だとすれば、かなり危険な兆候である。

 しかし、わからないでもない。傍でドンパチ戦争している中を、タンカーやコンテナ船を航行させるわけには行かない。海運事業は特に犠牲が大きくなる。先ずはそこから説明して、説得しなければ、ソメリト合衆国はまたもや黒星をつけることになる。

 世界中の海運事業が、数ヶ月は、あるいは1年、もしかすればそれ以上はストップする。それが如何なる意味を持つのか、コリンゴリン・マキシム作戦中佐は、理解できているらしい。矢張り、あの男を選んで正解だった。戦闘に勝っても、戦争に勝てるとは限らない。戦闘に勝っていて、最終的に戦争に負けた事例は歴史を紐解けばいくらでも出てくる。


 長官室を出てきたコリンゴリン・マキシム作戦中佐は、部屋にこもりきりになり、資料の作成に取り掛かっていた。基地のライブラリから使えそうなデータを集めて、それを元にプレゼン用の資料を急ぎ作成する。これから数日は徹夜だな。コリンゴリン作戦中佐は、パソコンで延々と作業をしながら、これから1年と少しは退屈しないですむと、罰当たりな事を考えていた。


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