0054 迫る戦禍
防軍。レイド・サム国が解放戦争後に発足させた軍隊である。それまで6個軍に分かれていた国防組織を1つに纏めた組織である。これを管轄する防人省が管轄する軍事組織であり、これの中核をなすのは、「打撃部隊」と呼ばれている「双胴強襲艦」3隻を中心とする艦隊を1つにして、全部で4個部隊が整備されている。これを護衛するイージス艦や駆逐艦も配属されており、その総戦力は惑星「テラース」の中でも、トップ5には入る。
ソメリト合衆国の洋上基地建設は、世界中にて軍拡競争を招いており、それに合わせて、次々と新しい洋上基地を世界中の海に建設していた。洋上の城に対して、対抗するには1国では力不足である。圧倒的トップの力の持ち主に対して、バラバラに戦えば各個撃破の憂き目に遭うのみである。
世界が1つになるべきであった。無論、それはソメリト合衆国ではない。呼びかけたのは、アスラン大陸の南にある、近年急成長を続けているハムナム国であった。彼の国は、現状を「侵略の下準備」であるとして、これに対抗するには新しい国際社会の枠組みが必要であるとして、反ソメリト合衆国連合を作るべきだと呼びかけた。
リモート会議にて、一同に介した参加希望国の大使達は、ハムナム国の大使の話を聞き終えると、先ず一番もめそうな問題から取り扱う。
「もしそんな枠組みを作り上げたとして、誰かリーダーが必要ではないか」
参加希望国の大使達は、難しそうな表情を浮かべる。そうだ、そこが問題だ。誰もがやりたいリーダー、なんてものじゃない。リーダーとなったからには、言動や行動について責任が常に伴う。楽な仕事でもなければ、名誉ある仕事でもない。はっきり言うと、面倒事を押し付けられる事になるのだ。
さて、誰が貧乏籤を引くのか。ハムナム国も無理して自分がリーダーをやろうとは思わなかった。結局、参加希望国の中でもっとも「扱いやすそうな国」として、レイド・サム国を議長国とする、「テラース海洋自由圏」が、ここに成立したのである。
「パールハーバー基地が完成してから既に3年、合衆国総軍もこれの運用に慣れ始めたらしく、駐留している打撃部部隊もまた大海洋での動きを活発化させており、大きな脅威となっている」
「アトランティス基地もまた、西海洋での影響力を強めている。3日前には、同基地に駐留している合衆国総軍の戦姫かドローンが領空侵犯を繰り返しており、「V・UNION」は現在ヴィクター大陸の南西の海域に建設中の洋上基地とも合わせて、シーレーンに対する重大な脅威になっている」
「セントラル・イースト地方のマルドウク湾にも、現在ソメリト合衆国の洋上基地は建設中であり、石油の輸送ルートに対する重大な脅威となている。完成してからでは遅すぎる。事前に破壊するべきである」
防人省の担当者は、胃がキリキリと痛むのを感じていた。状況は急速に悪くなり続けている。業田之カツオ海圏大使は、ソメリト合衆国は、一体何のつもりでこんな危なっかしい真似をするのか。まるで自分から戦争を呼び込んでいるようである。
まさか、50年前の借りを返そうというのか。巨大空母を捨てて50年、打撃部隊へと軍隊を改編して50年、その成果をここで試そうというのか。
カツオ海圏大使は、怒るより先に呆れていた。そうまでして自分がナンバーワンになりたいのか。そんなに競争で勝ちたいのか。いや、そうであるからこそ、ソメリト合衆国は惑星「テラース」の頂点にて立てるのだ。
そうであればこそ、あの巨大な洋上基地を、世界中の主な海域に次々と建設しても、「税金の無駄遣い」の誹りは受けないのだ。むしろ建設用の資材や作業員の雇用で、内需拡大により冷え込んでいた景気が、少しばかりではあるが持ち直している。
もしそれが目的で、あんな危なっかしい真似をしているとすれば、まともな発想ではない。いつまで「「テラース」最強」の夢を引きずっているというのか。もうとっくにそんな夢から醒めていると思っていたのに。
カツオ海圏大使は、リモート画面の前であろうと、頭を抱える仕草を見せる。戦争? 冗談じゃない。合衆国暦は既に終わり、「絶対無敵」の神話も終わった。今更になって戦争、それも惑星「テラース」規模の海戦を戦わなければならないのは、世界的な損失である。何処の国にも、海に面している国であれば、「双胴強襲艦」の2,3隻と、これを護衛するミサイル駆逐艦、中にはイージス艦だって保有している国も居る。
戦争なんて、これ以上やってどうするのだ。そもそもの問題、既に世界中でソメリト合衆国に頼らなくても成立する経済システムは既に確立されている。今更またソメリト合衆国が天下を取ったとしても、それが何になる。
カツオ海圏大使は、それでも言わざるを得なかった。議長国としては勿論、この場にてこの宣言を待っている人間が大勢いるのだ。総理は怒り心頭になるだろうが、ここで宣言しなければ、わざわざ国際機関なんて作るべきじゃなかった。
「「テラース海洋自由圏」は、これよりソメリト合衆国の不当な海洋進出に厳重に抗議するのと同時に、建造済みの洋上基地に対しても処分するべきであると宣言する」
和崎之ジロウ総理大臣は、案の定報告を聞いて、完全に頭にきていた。確かに、ソメリト合衆国の一連の動きは危険だ。放っておけば、世界は海を失う事になる。そうなる前に、どうするのか。それを考えるのが、議論するのが「テラース海洋自由圏」ではなかったのか。これは軍事同盟ではないのだ。
「君ねぇ、言いたい事を言うのは結構だがな、自分の発言に責任を取るのが大人だよ。今の我が国の「テラース海洋自由圏」は、その責任ある大人の集団だったと思っていたのだが」
ジロウ総理大臣は、カツオ海圏大使を眼の前に呼び出して、口頭にて注意していた。この場には、防人大臣もう同席しており、懸念を表明していた。
「もう解放戦争の頃の様な圧勝は望むべくもありません。消耗戦になれば、あっと言う間に今ある戦力は全てすり減らされてしまいます。具体的に言うと、全軍を動員して3ヶ月程度で消滅します」
松野之キタ防人大臣は、辛い現実をべらべらと並べる。確かに、防軍は例え大規模な人的動員をしたとしても、ソメリト合衆国には単独では勝てない。かつて後ろにて後ろ盾になってくれた精華大陸の分裂国には、もう頼れない。
「戦争になれば、我々は短い時間で大きな仕事を要求されるでしょう。しかし、もし今すぐ戦争になれば、もう少し時間的猶予のある仕事が出来るでしょう」
「でもねぇ、タニ大臣、全世界に同盟国が居るからと言っても、それが強みになるとは思えんよ。返って他国が背負うべき負担も背負わされる事になりかねないよ」
ジロウ総理大臣に言われて、タニ防人大臣は、暫く考え込んで、妥協案を提案する。
「半年程度の時間を下さい。その間に、同盟国同士の作戦のすり合わせ、いえ、その前に防軍の基本指針、色々と決めなければならない問題が山積しています」
「半年じゃ足りんだろう。1年やる。その間に出来る限りの事をしろ」
それが、後の世に「テラース大海戦」と呼ばれる、全世界のシーレーンを賭けた戦いの始まりであった。




