0051 決戦計画
臨時大統領。暫定指導者。どう呼ばれていようとも、内閣や政党、議会を持つ民主主義制度のリーダーとしては、これらの別組織との対話や取引、説得や説明を経て、お互いに妥協案を示した末に政策が決定されるのは変わらない。何なら、もし「戦時下」でなければ、「臨時」や「暫定」なんて肩書のリーダーは用済みとなって辞任するのが通常の流れだ。
しかし、その流れは急速に進んでいた。早い話が、厭戦気分が蔓延して、さっさと戦争を終わらせたい、と言う気運が急速に広まっていた。「神田那波決戦」により、総戦力の7割を失ったから? それも大きいが、それに付随する理由として挙げられるのが、お互いに展開している、惑星「テラース」の戦争時代にて展開された通商破壊戦の如き、通称「海賊戦法」と呼ばれる戦法により、各惑星への物流体制がボロボロになり、生活必需品が不足、あるいは高値となって手が届かなくなる、と言う当然の結果が現れていた。
となれば、当然、士気が下がる。「臨時」だろうと「暫定」だろうと、内閣、政党、議会からの協力が得られなければ、その地位を追い出されるのは当然の流れだ。これに逆らうのは、即ち自然の摂理に挑戦する羽目になると言っても不足ではない。
経済はコントロール出来ない。ましてや、戦争をコントロールする事はより深刻な困難が伴う。誰もが圧勝を予見しても、気がつけば泥沼にはまる、そんな事例で歴史の本棚はいっぱいである。
では、軍部はどう思っているのかと言うと、お互いに千日手となっている状況を認めざるを得なくなっていた。先述の「海賊戦法」は、お互いに戦局打開の一打にはなりきれずに、むしろ厭戦気分を急速に醸成しており、どちらがブレーキを踏むかどうかのチキンレースの様相を呈している。戦力の7割喪失は、このチキンレースの発端にもなっており、その時点で戦争を終わらせる必要があったかもしれないが、このままでは軍の組織そのものが消滅しかねない。人的動員、即ち更なる徴兵を行うべきであったが、それはお互いのリーダーが握り潰していた。
そろそろ、お互いに戦争を止める落とし所を探し始めていた。いわゆる、「終戦工作」に手を出し始めていた。誰もがそれを邪魔しようとは思わなかった。これ以上は続けても仕方がない。何でも良いから、こちらが譲歩できるだけ譲歩して、相手が求めている物を可能な限り提供できるだけ提供する。もう戦争を始めた「理由」も「理念」も失われている。これ以上の犠牲を払っても、「赤字」である。
軍としては、もう止めたい。他の行政も、そして他ならぬ市民達も、今の生活に限界を覚えている。条件は揃っていた。後は、指導者を説得するのに、どうやって口説き落とすかである。
「決戦計画」。そんな言葉が、「レイド・サム連邦」と「大日本帝国」の軍上層部から漏れ出している事に、滂沱玲音も阿戸蒜菜も気が付いていなかった。「決戦」と銘打っているが、その実は「終戦計画」であるのは誰もが察する事が出来ていた。残る僅かな戦力で、お互いの指導者にこれ以上の戦争を断念させる一大決戦を行う。無駄だ。結末がわかりきっている無駄死にを、兵隊に強いる事になる。
しかし、この「決戦計画」にて難渋してしまっていたのは、5W1H、「いつ」「どこで」「誰と」「なんで」「何と」「如何にして」、これを纏めるのが困難であった。また有人惑星の、環境が整った星にて行うとしても、お互いに自分の首都星にて「決戦」を行おうとは思わなかった。
その正解が見えない5W1Hに、最初に解答を示したのは、「レイド・サム連邦」の連邦軍であった。連邦軍は、今動かせるだけの宇宙船を動員して、「大日本帝国」の首都星・塔京の近くにある軍用航路にて待機していた。
「こちらの観測によると、敵は残存戦力の全てをこの一戦に投入しており、ワープしてきてから既に数時間経つが、未だに移動していない」
「敵はこちらから動くのを待っていると見える。その意図は我軍との「決戦」にあるのは明確である」
「攻める側は防御側よりも3倍の戦力が必要なのは、今も同じであるが、敵味方の戦力比は現在において互角であり、これを覆すのは容易ではない」
「「帝国軍」としては、これ以上の「連邦軍」との戦争状態には限界を迎えているという認識のもとに、これを持って「決戦計画」を発動させるものとする」
軍・官・民、あらゆる立場の人間が、これ以上の戦争を望まなかった。あるいは、このまま続けていたら、あらゆる立場の人間を不幸にすると分かりきっていた。何処かで落とし所が見えた時点で、なし崩し的に「終戦」と行きたい所であつた。その落とし所を、「連邦軍」から先に示してきたのだ。
この1戦が、最後の1戦となる。お互いに、特に下っ端の兵隊は皆同じ見解を示していたが、指揮官クラスや司令部の長官クラスの人間に対して、双方の13才のギフテッド、天才児が勤めている臨時大統領と暫定指導者は、この1戦を頑として認めようとはしなかった。
「今このタイミングで「決戦」なんてしても、得るものは何もないのに、なんでこんな勝手な行動をしたんだ。この戦争を失う羽目になるんだぞ」
「わざわざ敵に隙を見せて、「決戦計画」等と言って、これを徒に失うのは、完全な無駄死にである」
「今すぐ撤兵するべし」
お互いの指導者が、同じタイミングで、同じ意味の言葉を口にしていた。司令官も、指揮官も、これを馬耳東風にて聞き流していた。明確なサボタージュである。既に身内からも自分が見捨てられている事に、この時ようやく気が付かされていた。
両軍が激突したのは、連邦軍が塔京近くの軍用航路に現れてから1週間も経ってからであった。それもほぼ無断に近い形での出撃であり、既に指導者がその座にふさわしくないと言う事実の証明でもあった。




