0047 2つの才能
気がついたら、昨日までの日常は終わっていた。首都星・塔京の中心街にて働いている官僚達は、自分達の日常が完全に変わってしまった事に、愕然としつつも、その事実を受け入れざるを得なかった。
宇宙統一機構・日本の首都星・塔京の中心部にある、国家の中枢となる大統領府にて、2つの勢力が殺し合っていたのだ。間違いなく、これはクーデターだ。いや、単なるクーデターではない。2つの勢力が、1つしかない椅子を取り合っている。どちらかと言うと、何処のスポークスマンが思いついたのかわからないが、「日本動乱」と呼ぶのに相応しい状況にあった。
もう日本は、宇宙統一機構としての機能を失った。これまでは、形式上とはいえ「権威」と「機能」を持っていたが、これでもうお仕舞いだ。今後は、戦国時代の幕開けだ。
「外征軍」と「カナリア軍」、2つの勢力が同時期に「クーデター」目的で、この首都星にやってきて、今はその1つしか無い席を巡って争っている。惑星「テラース」でしか見られない筈の戦争が、あろう事かこの塔京の中心部にて繰り広げられている。
なんと言う事だ。2つのクーデター軍は、全く同じタイミングにて首都星に殴り込んでしまったのだ。こんな事になった現実を恨み続けていたが、今はこの大統領府を、この宇宙に1つしかない席を巡って斬り合う始末である。
お互いに、「外征結社」と「カナリア団」には相談も連絡もしていない。クーデターを起こして、この宇宙の統治機能を奪うつもりだった。どちらも自分が最初に考えたと思っていたクーデターは、全く同じタイミングで同じ事を考えていた「敵」との争いになってしまった。それで、こんな無様な格好になってしまったが、これでもう、この宇宙の運命は決せられた。
長らく続き、今後宇宙が消滅するまで続くと思っていた統一機構・日本による統治時代の終わりが来たのだ。もう元の日常は戻らない。これから、動乱の時代だ。
「外征軍」と「カナリア軍」、双方共に大統領府にて戦姫、機甲、巨神が剣や矛、槍や斧で斬り合っていたが、双方ともになかなか決着がつかない。お互いに切歯扼腕となっている中で、どちらかの巨神がよろめいて転び、黒い大統領府に倒れ込む。その倒れた先には、日本の大統領以下閣僚全員が、一番丈夫な部屋に詰めていた会議室があったのだが、身長20メートルの巨神の体重には耐えられなかった。
それを見て、「外征軍」と「カナリア軍」は、その場を去っていった。クーデターは成功したのやら失敗したのやら、よくわからない結果となってしまった。時期大統領がたてられるだろうが、もう二度と以前の様な権勢は振るえないだろう。
「外征軍」の滂沱玲音と「カナリア軍」の阿戸蒜菜。2人の思惑は大きくハズレていた。いや、それどころか、ただでさえ深刻なレベルにまで混乱していた状況を、更にエスカレーションさせる羽目になっていた。お互いに13才の天才児という鳴り物入りで総司令の座に居たが、旧弊とした上層部に愛想を尽かせて、今回の挙に出たのであるが、まさかこんなオチになるとは思わなかった。
こうなったら、もう後には引けない。玉砕覚悟で、この動乱を乗り切るしか無い。もう地域紛争は終わりだ。全宇宙を巻き込んだ動乱の時代の幕開けだ。
ルナ・ヴァスコールは、阿戸蒜菜と共に、惑星「テラース」を脱出する準備を進めていた。向かう先は、首都星・塔京である。
「人間、意外と同じ事考えるものなのね。それにしたって笑えないジョークだわ。同じタイミングでクーデターの為に軍を派遣したら、敵も同じ事を考えていて、現地で大統領の椅子を巡って戦うなんて、長い歴史の中でも1度か2度か、あるいかどうかの珍事件よ」
ルナは自分の分の少ない荷物を纏めて、言いたい放題していた。元々道に立って客を待つ商売をしていた少女であり、日本の凋落を嘆く義理も人情もない。むしろ、この状況を楽しんでいるかのようである。
「それで、指導者の居ない首都星を分捕ってどうするのかしら」
「形式とはいえ、あそこは統一機構・日本の首都星だからな。今は混乱の極致にあり、今こそ乗っ取るのに丁度いい状況だ」
「で、あなたはそこでどうするの? この間まで雇われ指揮官だった13才の子どもが、例え天才児とはいえ、何をしようと言うのよ」
ルナ・ヴァスコールの問いかけに、滂沱玲音は答える。
「「敵」と言う「敵」を軒並み叩き潰していって、この宇宙をいただく。もう自分より能力に欠く大人の言いなりにはならない」
ルナは笑う。笑ってしまう。幾らこいつがギフテッド、天才児といえども、こんな偉そうなセリフが口から出てくるとは、余程今まで「能力に欠く大人」に苛々させられてきたのだろう。戦争の天才にしか言えないセリフだ。
しかし、大きく出たものだ。この宇宙は俺が頂く。成る程、男児たるものかくあるべきだ。勿論、失敗した場合の事も考えている筈だ。
一方、こちらはあえて惑星「テラース」に残る道を選んでいた。滂沱玲音は、この星に、人類発祥の星にて、ここを新しい首都星として、新国家の樹立を考えていた。
マリー・サンズライドは、その様子を見て不安に思っていた。上手くいくのか。新国家の建設なんて、度を過ぎた行いではないのか。
「もう後戻り出来ない。日本の統治機能は失われた。これからは、自分達でどうにかするしかない」
「でも、新国家の樹立なんて、出来るの?」
「出来るかどうかじゃない、上手くやるんだ」
「それで、新しい国の名前、考えたの?」
「ご先祖様の国に由来して、レイド・サム国と名乗るつもりだ。名前だけ奇をてらっても仕方がない」
「相手は、どんな名前をつけるかしら」
「名前なんてどうでもいい。それよりも、うちの国にどれだけの人間が集まってきてくれるかどうかだ。今後は、条件の良い国に人が集まってくる。次に考えるべきなのは、如何にして人が集まる条件をつけられるかどうかだ」
これを聞いて、マリーは悟っていた。もう後戻りはできない。この星の地上だけが戦場になる時代は終わった。これからは、全宇宙の有人惑星の地上が、戦場になるのだ。生きるか死ぬかの宇宙で、何処まで生きながらえるのか。終わった頃に、自分達がまだ生きているのか。
でも、まぁ、いいか。心配しても仕方がない。自分にはそんな心配をする権利も資格もないのだ。あの時、あの道で、彼に声をかけられて、ついていくと決めたあの時から、もうそんな日々は終わったのだ。
あとは、この戦争の天才についていくだけだ。そう決めたのだ。何なら、もう一度道に立って客を待つ商売に戻っても良い。元々自分の命の価値について、安く見立てているマリー・サンズライドは、そう考える事で、自分野中の不安を打ち消そうとしていた。
それから数日後、首都星・塔京にて阿戸蒜菜が、自らを指導者とする「大日本帝国」の建国を宣言し、全宇宙に対して帝国への忠誠と帰順を求めていた。本来ならば、全体の2割か3割でも味方に付けば良いところを、そこはハッタリの天才。口八丁手八丁で、半分を丸め込んでしまった。
残った半分は、四分五裂する事も出来たが、その通りにすれば、このまま帝国に呑み込まれてしまう。そうなる前に、見込みのあるレイド・サム国に協力を求めていた。
「日本動乱」は、2人の天才児の内、どちらが本物の天才なのかを決める為に戦われようとしていた。




