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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第4章 日本動乱篇
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0046 共通の決意

 これは戦争ではない。

 現場を見た地元の消防士が放った言葉である。銃後無き戦争とは、即ち日常の崩壊であり、英雄無き戦いである事を、彼は思い知らされていた。モニターの向こうに戦場を押し込めて、自分達はあくまでも「税金」と「多少の不便」を受け入れてほしいと、プロパガンダを見せられ、聞かされながらも、基本的に自分達がそこに参加する事はない。そんな暗黙の了解が残されていた。

 ここは、「外征結社」のパトロンとなっている投資家が起業した会社である。首都星・塔京にある物流会社の本社ビルであり、業界でも大きな規模の会社であった。そのビルは、今や見る影もなく崩れ落ちている。中にいた社員も含めて、瓦礫の下敷きにされており、生存者は1人も居ない。

 事件現場を調べた結果、爆薬を使用した爆弾テロではなく、複数人の戦姫がビルに時間差で体当たりして破壊したものであると結論が出ていた。これも、例の「斬首作戦」の一つである。今月に入って、「外征結社」と「カナリア団」の「斬首作戦」で起きたテロ事件は18件にものぼる。これを取り締まるべき統一機構・日本はもう機能していない。しかし、「斬首作戦」と名乗りつつも、標的はいつも民間人である。敵対勢力の後援者・支持者・投資家ばかりを狙い、何の関係もない民間人が巻き込まれたのも一再ではない。

 「斬首作戦」であれば、政治的指導者を狙うのだろうが、宇宙に広がるあらゆる有人惑星を統治する統一機構・日本が、既にその存在自体が形骸化されている今、「外征結社」と「カナリア団」の標的の幅は横にも縦にも広がっており、今現在も広がり続けていた。

 これは戦争ではない。その消防士の言葉は、この「日本動乱」の現状を余す事なく示していた。これは戦争ではない。単なるテロの応酬である。まさか宇宙にまで生活圏を広げた今になって、こんな事態に陥ると、誰が想像し得ただろうか。こうまでして戦う理由が、何処にあるというのか。税金の使い道に対する議論の分断にて始まったこのいざこざが、何時しかテロの応酬を許す所まで発展するとは。

 人間、何時まで経っても進歩しないものだな。なんて、事態を諦観出来る者は希少であった。誰もが、明日は我が身と恐れ慄く中で、この「日本動乱」を止めるべきだとする動きが、急速に醸成されつつあった。

 もう暗黙の了解なんて通らない。法により、このテロの応酬を取り締まるべきだ。戦争は惑星「テラース」のみで行われるべきである。宇宙規模にまで広がったテロの応酬の中で、平穏な日々を送りたい、最期はベッドの上でと言う理想の為に、「斬首作戦」に対する反対運動は激化していった。

 「日本動乱」は、まだまだ終わりを迎えようとはしていなかった。そして、戦争を前にして法によるコントロールが効くのかどうか、正しく理解している人間は殆ど居なかった。


 毎日、次々と届けられる抗議のメールを示されて、滂沱玲音総司令は表情一つ変えないままに答える。

「勝つ為です。他に理由はありません。ここでダラダラと戦っていたとしても、決着はつきません」

 いやいや、それは理解できている。問題は、勝つ為にやっている行動自体だ。このまま「斬首作戦」を続ける様ならば、指揮官の変更も考えなければならないが、どうなのか。

「そんな事をしても、ここで戦っていれば、同じ結論に至ります。この星で人気のない荒野にて戦っていても、決着はつきませんし、徒に人を死なせるだけです。辺境の惑星でちまちまと戦争をするのは、あまりにも効率が悪すぎます」

 だが、現段階にて行われているのは、戦争ではない。テロの応酬だ。民間人を巻き添えにして、戦争とは関係のない人間すら殺していくのは、やりすぎではないか。

「これ以上に合理的なやり方はありません。もしこれを否定するのであれば、別の方法をそちらで提案してもらいたい」

 玲音の言葉に、「音声のみ」の通信にて話し合う上層部は、それでも顔色一つ変えないままに言い放つ。

「とにかく、もう君の言う「斬首作戦」を続ける事は許可出来ない。これから先は、幾ら金と人命を消耗しようとも、地上での、惑星「テラース」での戦いに専念してほしい。いや、専念しろ。これは命令だ、良いな。もしこれを破ったら、指揮官を交代させてもらう」

 ……なんでかな。なんで誰も、もっとスッキリ生きていけないのかな。ここには戦略的要衝も無ければ、殺すべきVIPも居ない。つまり、ここで戦っても数を減らすだけの消耗戦を延々と続けなければならないのだ。それが目的だとすれば、これ以上無駄な事はない。

 戦争の是非は今更問わない。だが、無駄な戦争であれば、それはやる意味も無ければ、続ける意味もない。やるのであれば、もっと徹底的にやるしかないではないか。それがわかっていないのか、いや、わかっている上で、あんな指示を出したのだ。

 もううんざりだ。こんな理由で、中途半端な争いを続けるのは。こんな連中の為に、戦ってきた訳では無い。では、どうするべきか。そんなの、決まっているではないか。もし成功しても、または失敗しても、この「日本動乱」は更に混迷を深めるに違いない。だが、このまま泥仕合を続けるよりも、余程少ない犠牲にて、この戦争は終わる。

 やるしかない。大勢の人間が犠牲になるだろうが、それでもやるしかない。ここでやらねば、更に大勢の人間が死ぬ。


 阿戸蒜菜は、司令部の通信室にて、1人弁舌を駆使していた。

「「斬首作戦」は現時点で最も効率的かつ効果的な作戦であり、古来より戦われた戦争に置いて重要視されてきた「兵站」の戦いをこの開拓歴の世界にて持ち込んだものであります。現に効果は現れています。敵の動きも、増援も、鈍くなってきています。ここでこのまま荒野にて睨み合っている訳にはいかないのです。「斬首作戦」は我々に残された唯一の戦法ですっ!」

 わかった。わかったが、世論や大衆受けを考えたら、今回は完全に悪手だったと認めざるを得ない。君がよくやっているとは分かっている。だが、「斬首作戦」は失敗だった。それは事実だ。違うと言うのか。

「では、この辺境の星にて、延々と消耗戦を続けろというのですか。それこそ悪手でありますっ! 「斬首作戦」こそが我々に残された唯一の攻撃手段です」

 そこを上手くまとめるんだ。その為に我々は君達を雇ったのだが。

「では、代わりましょう。私がそちらから指示を出します。あなた方はここで実際に現場で血を流す兵隊に指示を出してください」

 無茶を言うな。そして、落ち着け。

「無茶を言うのはそちらです。自分達で戦場に出て実態を見れば、消耗戦を戦うのに何もかもが不足していると理解できるでしょう」

 どうにも、本日は落ち着いた議論には出来ないな。話はまた明日も続けよう。それまでは、自重してくれよ。


 ……なんだかな、こんなにも「正論」を展開しているのに、一向に相手にされないというのは、これが初めてではないが、今回は酷い。酷すぎる。確かに、「斬首作戦」は近隣の民間人を犠牲にするものであるのを前提として立案された。そちらは最初から理解していた上で、これに賛成したのではないか。

 では、やるしかない。こんな辺鄙な惑星の荒野にてひたすら殺し合いを延々と続けるのが賢いのであれば、その程度の頭しか無いのであれば、連中にはご退場していただこう。統一機構・日本は残しておいても良い。いや、「これから」を考えたら、日本には残ってもらわなければ困る。

 消えるべきは、あいつらだ。


 開拓歴222年もまだ始まったばかりの年の瀬に、惑星「テラース」から、無数の宇宙船が飛び立っていた。中には、戦姫、機甲、巨神が少数ではあるが積み込まれていた。


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