↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第4章 日本動乱篇
45/62

0045 エスカレーション

 最初、そのアイデアを聞いた時、作戦士官達は驚きを隠す事が出来なかった。「斬首作戦」と名付けられた滂沱玲音総司令が考えた、敵の中枢に一撃を加えてこれを完全に機能停止に追い込む。理屈としては、かなり危険な賭けであった。

 中枢を一撃で撃破して、それで戦争が終われば良い。だが、相手の戦意に火をつけて、油を注ぐ結果になりはしないのか。出来れば、戦争はこの惑星「テラース」の地上のみで行われたいものだ。これが全宇宙に広がれば、その過程で失われる「人・物・金」は膨大な数になる。今は地域紛争程度で自重しているが、これが「日本動乱」と呼べるレベルにまで発展すれば、どんな大惨事となるか。

 そこまで考えているのか、今一度確認をしてみると、とんでもない返答が戻ってきた。

「全ての戦争の目的は、敵軍の撃破にあるが、現時点ではそれは甚だ困難であると言う他無い。であれば、敵軍を支援する中枢を攻撃するしか無い」

 それでは、テロリズムではないのか。そう言う作戦士官に対して、13才の天才児は答える。

「ここでひたすらお互いに数を減らし合うよりは、余程効率がいい」

 これも、理屈としては合っている。だが、相手がもし報復に出たら、どうするのか。それこそ、報復合戦にて統一機構・日本全体を巻き込んでの動乱になるのではないのか。

「では、我々はここで最初から終わる見込みのない消耗戦をダラダラと続けていくべきだと、そう言うのか。そんな事をするくらいならば、「斬首作戦」にて敵中枢を叩いた方がマシだ」

 結局、議論は平行線になったまま、まとまらない。「外征軍」は、終わらない議論をダラダラと続けるのみになっていた。


 阿戸蒜菜の陣営は、より早く同じ発想に辿り着いていた。

「「斬首作戦」しかない。このままでは、お互いに不経済な戦況のまま、勝ち目のない、そして終わりのない紛争を繰り返すだけだ。今後の事を考えれば、報復を恐れずに敵の中枢を叩くべきだ。方法は幾らでもある」

 作戦士官、中堅指揮官、現場指揮官、全ての参列者が、苦虫を噛みしめる表情を浮かべる。「電撃戦」では勝てないのは、この間の戦いにて証明された。しかし、全宇宙を、統一機構・日本全てを巻き込む事になる動乱にまで発展するのは、如何なものか。そんな事をしてまで、勝つ必要のある戦争なのか。

 それを口に出して言う者は1人もいない。誰もが同じ事を考えていたからだ。「戦争は地上でやれ」と言うのは、この開拓歴221年での世界線の共通認識であるが、それを破った場合、全有人惑星の地上全てが戦場となる可能性だってある。

 そもそも、この戦争は「宇宙開発」か、「福祉充実」か、どちらに税金を使うべきかと言う議論を発端としている。「日本動乱」と呼べるレベルにまで規模を拡大して戦う様な理由であろうか。「斬首作戦」は、その残された薄皮一枚の理性を破る事になるかもしれない。いや、絶対に理性が働かなくなるに違いない。

 後世の歴史家のどうたらこうたらは、この際、脇に置いといて、自分達から先に手を出すべきなのか、そこが問題である。同じ議論を、敵の中枢も行っている筈だ。同数同士で叩き合っていても、何時迄も泥沼の殺し合いを続けるのは、コスパは勿論、タイパも悪い。このままここでダラダラ、ウダウダと戦争を続けていたら、勝ち負けなんてある訳がない。「敵」も同じ結論に至る筈だ。

 そして、「敵」もまた同じ発想を持つに至るだろう。もう議論しても仕方がない。歴史上の悪名なんて、今更気にしても仕方がない。致し方なく、全員が同じ言葉を口にする。

「あくまでも、臨時の措置として同意する」


 統一機構・日本の首都星「塔京」にある「カナリア団」の本部ビルは、騒然となっていた。最前線となっている惑星「テラース」にて送り込んだ軍からの提案に、幹部全員が動揺していた。

「この全宇宙を動乱の渦の中に巻き込むつもりなのか」

「明らかに度を過ぎた提案だ。現場の連中は何を考えているのか」

「無謀すぎる。あの天才児を呼び戻せ。新しい指揮官を赴任させよう」

 次々と出てくる異論・反論を添えて、取り敢えずパトロンとなっている投資家達に「斬首作戦」のアイデアを提出したが、その反応は「カナリア団」の予想を超えていた。

「優れたアイデアである。一刻も早く実行するべし」

 あの連中は、何を考えているのか。阿鼻叫喚の地獄絵図となる「カナリア団」の会議室。投資家はボランティアで金を出している訳ではない。何なら、人の命と金を秤にかけられたら、金を取るタイプの人間である。それがどうして、「日本動乱」にまで事態をエスカレーションさせる真似をするのか。一刻も早く、と言うのは、当然「外征結社」に先んじて行動に出るべし、と言う意味だ。

 つまり、敵もまた同じ事を考えていると見込んでいるのだ。狂っている。どいつもこいつも、こうまでして戦争して、税金の使い道を決める為に戦って、「日本動乱」に至るまで殺し合って、それが終わった時にまだ税金が残っているのかどうか、投資する力が残されているとかどうか、これは危険すぎる賭けだ。いや、「賭け」と言うのは興行側が必ず儲かる様に出来ている。何かしらの腹案あっての賛成なのだろうか。

 どちらにせよ、これで未来は確定した。銃後なき宇宙戦争、「日本動乱」の始まりである。誰がこれを責められようか。


 「外征結社」もまた、同じ立場に立たされていた。遅ればせながら、「斬首作戦」にGOサインを出していたが、この決断は敵に先手を打たれた上での判断であった。

 首都・塔京に住んでいる「外征結社」の投資家の自宅にて、爆破事件が発生、「カナリア団」は例え首都星だろうと、敵対勢力は殺すという意志表示でもあった。

 この際、議論は不要であった。本来、惑星「テラース」の地上のみにて展開される予定であった戦争は、全宇宙、統一機構・日本が統治しているあらゆる惑星を全て巻き込んだテロの応酬へと発展する運命にあった。

 「税金」の使い道を決める戦争は、いつの間にか「生きるか死ぬか」の「動乱」へと拡大していく羽目になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。