↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第4章 日本動乱篇
42/62

0042 深海魚

 ルマ・ヴァスコールには、記憶の限りでは親もいなければ家族もいない。産まれた頃から1人きり、偶に「祖母」を名乗る中年と老年の間の大人の女性がやってくるだけで、しかもそれは「会いたいわけ」ではなくて、「確認」の為であった。そして、3歳の頃になるとこの「祖母」もまた、ルマの前から去っていった。ルマは一人ぼっちになったが、代わりに彼女は手に入れていた。「強さ」とか「優しさ」とか「愛」とか、そんな前向きな感情ではない。

 それはさながら、「深海魚」の如き感性と表情、ルマ・ヴァスコールには「光」も「仲間」も必要ない。彼女が欲しいのは、「獲物」だけで、いや、それが無理なら「餌」でも何でも良い、腹を満たせさえすれば。

 その為ならば、この「女嫌い」とだって同じ空気を吸っているのだ。阿戸蒜菜。13才のギフテッド。産まれた頃から「家」も「両親」も「良識」も、何でもあった。もしこんなご時世でなければ順風満帆な人生を送れたに違いなく、この「日本動乱」と呼ばれる騒乱にて狂った人生を送らされているこの天才児は、9才で世の中に放り込まれて、道端に立って客を待つ仕事で食いつないでいたルマにとって、「大事な人」で無ければ、「友達」でも勿論無い。単なる「食い扶持」でしかない。

 阿戸蒜菜は、確かに天才児である。コツさえ掴めれば何でもできる。これは天才であれば比較的簡単に実行に移せる。だが、凡百の民草であれば、それが言う程簡単ではなく、実は達人の域であるのか、理解していた。ハッタリの天才。蒜菜は、他人をけしかけて、その道のプロを次々と適材適所で就任させていたが、その際の態度たるや、まさしく「ギフテッド」と呼ぶべき演者であった。しかもこいつは、自分で「脚本」は勿論、「振り付け」から「演出」に至るまで、すべて自分一人で作り上げているのだ。

「君の持っている能力を、俺は誰よりも認めている」

「君に相応しい地位を与える。勿論、名誉もだ」

「成功すれば、君は一生食うに困らない生活を保証しよう」

「これから先、戦って勝てば、君は普通の人間が一生かけても手に入れられない名誉が手に入る」

「汝は戦え、俺の言う通りに戦えば、次からはもっと大きく、もっと高い位にいる。約束しよう」

 まるでハッタリの展覧会であり、見本市である。阿戸蒜菜は、13才とは思えない舌先三寸にて、自分よりはるか年上の部下達の「感情」や「本能」に訴えかけて、自分の思い通りに動かしていく。13才とは思えない「語彙力」と「演技」にて、相手を口説いていくその姿は、成る程「天才児」のそれである。蒜菜の言葉は、次々と年上の部下達を死地に赴くかせている。

 戦争になれば、これも必要な才能であろう。カリスマ、と呼んでも良い領域に達している。惑星「テラース」の最南端にある最も小さい大陸クルサイダスの荒野にて、睨み合う「カナリア軍」と「外征軍」は、いつか来るかもしれない「決戦日」に備えている。

 これ以上、ここでにらめっこして、あっぷっぷしても意味がない。それでも、睨み合いを続ける必要があった。こちらから攻め込もうにも戦力が足りないからだ。「カナリア団」が必死になって金策や人員募集に務めているが、「外征結社」の有形無形の妨害にあっており、今のところ、「カナリア団」よりも「外征結社」の主張の方が、世間よりも人気を博しているのが実状だ。

 宇宙開発による経済発展なんて、もう特別な「考え」でも「アイデア」でも無い。しかし、このまま暖かい母親の懐から抜け出すのがそんなに嫌なのか。いや、もうとっくの昔に抜けているのではないのか。それでどうして「成長」が出来ないのか。どうして「格差」が産まれるのか。問題はそこからではないのか。

 「カナリア団」の主張も、「外征結社」の主張も、凸凹を合わせて見せれば、あわせ鏡に映した様にあべこべであるが、どちらも根っこは同じ。「景気問題」である。

 こいつは、阿戸蒜菜はそこをなんと心得るか。一度聞いてみたら、面白いというよりは、何の面白みのない一言が返って来る。

「それは俺の仕事じゃない。他の担当だ」

 思わず笑ってしまうルマ・ヴァスコール。なんだこいつ、13才らしくない。しかし、その笑いは決してポジティブな「意味」での笑いではない。13才らしい「感性」や「気持ち」は無い。もっと「歪」で、言ってよければ「邪悪」な「意味」である。

 そこまでルマが考えた時、連絡が年齢が分不相応なデスクの上に置いてある連絡用の端末から呼び出し音がなる。それを手にした13才の天才は、動画付きの報告を見て、聞いて、慄いていた。

「「外征軍」の大規模な増援を確認」

「このままでは戦力的に不利」

「今の内に攻め込むべし」

 誰も彼もが、阿戸蒜菜に対して決断を強いていた。皆、無能ではない。それどころか、誰よりも適材適所を考えて前線勤務に配置した逸材揃いである。それが、「戦え」と急き立てている。どうする、やるべきか。やらずに逃げるのか。どの道、待っているのは困難な道程である。

 幾らか考えて、阿戸蒜菜は、13才の「ハッタリ」の天才は、演技でもなく誤魔化しでもなく、本心から叫ぶ。

「臨戦態勢を敷く。こちらから打って出るぞ」

 クソ、なんでこんなタイミングで。一頻り、上層部への罵りを胸の内にてやった後で、阿戸蒜菜はルマ・ヴァスコールの顔を見る。

 彼女は苦しむ蒜菜の顔を見て、やはり笑っていたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。