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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第4章 日本動乱篇
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0039 南の最果てで

 ワープ航法にて次々と惑星「テラース」に送り込まれるのは、2足歩行人型ロボットの機甲軍、戦姫により構成された戦姫軍、装甲を身に纏った巨神により構成された巨神軍である。宇宙空間でビームやミサイルの撃ち合いをしていたら、破片が飛んできて自分も死ぬ。あるいは、太陽風の無い宇宙にて飛び交う宇宙線や放射線にて船がボロボロになる。それらの問題を解決する為にバリアー装置が開発されたが、結果としてそれが戦場の様相を中世に戻していた。

 そんなに強力なバリアーがあったら、一切の飛び道具、ビームやミサイルも防いでしまう。唯一の攻撃手段は、バリアーをバリアーで中和させられるところまで近づいて、剣や槍、矛、斧と言った原始的な武器を用いるしかなくなっていた。それでも、宇宙空間での武力衝突は様々な問題があり、基本的に「戦争は地上でやれ」と言うのが、この開拓暦221年の世界線での軍事的常識となっていた。

 ワープ航法の出現は、これまで戦場での大原則となっている「兵站の確保」にも変革を齎していた。装置さえあれば、座標を正しく入力すれば飛んでいける便利な技術であるワープ航法の実用化は、兵站にて重要な要素になる「距離の概念」を無効化してしまった。後は純粋な「我慢比べ」となってしまう。どちらかの資源が尽きるまで続ける、哀しいボクシングとなる。


 ルマ・ヴァスコールは、惑星「テラース」の空気を胸いっぱいに吸い込んで、吐き出す。阿戸蒜菜の伝手で、ここまで来る事が出来た。毎日屋根のある寝床で眠れて、三食の食事付きの生活が保障されていた。元々道で客を待ちながら生活する日々を送っていただけに、これだけでも蒜菜の女になった御利益に不満はなかった。

 阿戸蒜菜は、「カナリア団」からの勧誘を受けて、これを承認していた。とある条件付きで、である。

「自分の能力に応じて昇進させる事」

 それだけであったが、その能力と言うのが年齢相応であれば、誰も不満も不安も口にはしないのだが、ギフテッドである蒜菜が、13才と言う年齢を問題にしないレベルで昇進していった。天才児は天才児なのだが、それ以上に阿戸蒜菜はハッタリをかますのが得意であった。100点満点の試験で200点と採点させる、カリスマ性があった。

 その主な力というのが、演説であった。そして、自分に求められているキャラクターを演じる事に苦を感じない人柄でもあった。

 この日もまた、求められるままに「カナリア団」に提供された軍隊、通称「カナリア軍」の面々を前にして、暗殺の可能性を感じつつも自ら壇上に上がっての演説を心がけていた。安全な場所から、ラジオなりネットのライブ放送なり、幾らでもやり様はあったが、そう言うキャラクターは求められていないと確信していた。別に彼なりの矜持でも無ければ、格好付けでもない。計算の末での結論である。

 演説のコツも掴んでいた。勉強だって趣味だって、何だってコツさえ掴めれば簡単なのである。相手が求めている物語と登場人物を演じていれば良い。良い演説のコツは、聴衆の求める物語世界の中で、聴衆を登場人物として演じさせる事にある。こうして口八丁手八丁、上手くやって聴衆の自尊心と願望を叶えてやればいい。

「日本は我々から少ない食い扶持を奪おうとしている」

「これ以上の宇宙開発は必要がないどころか、中産階級や下層階級にとっては金にも得にもならない」

「このまま上流階級にしか得に成らない事業に税金を投じる現体制にはご退場頂こう」

「我々の声を、民の声を無視するのであれば、我々は立ち上がる。我々こそが主役なのだ。我々が主権者なのだ。我々の声を無視したらどうなるのか、この地にて証明するのだ」

「「カナリア軍」に栄光あれっ」

 ニュートラルな立場の人間が聞いたら噴飯ものの演説であったが、この場にいる聴衆が求めている要素で塗り固めたらこうなったのであり、阿戸蒜菜はそれを文字に起こして、聴衆にサービスしているに過ぎない。しかし、こう言う瞬間と言うのは、計算の上と雖も、自分自身の気分も高揚してしまうものである。元々、ギフテッドとして生まれて育った彼は、自分自身を特別扱いするのに何の引け目も感じていない。それどころか、他人からの特別扱いを求める癖も否定しきれなかった。


「なぁにを言ってんだか。冗談じゃねぇ」

「宇宙開発で潤うのに上下関係は無い。大体、あいつらが使っている武器は全部上流階級の会社が造ったものばかりじゃないか」

「既得権益を守りたいのは俺達じゃない、あいつらの方だ。その事実を誤魔化して、自分達は悲劇の王子様を演じているつもりでいやがる」

「お前らが民なら、俺達も民だぜ。税金を納税している市民に分け隔てなんて無いんだよ」

 「外征結社」の軍事拠点にも、阿戸蒜菜の演説は聞こえていた。滂沱玲音は、「外征軍」の指揮官として、マリー・サンズライドを、自分の彼女を隣に置いて、その部下達の反応を眺めて、満足していた。

 人間、自分の食い扶持が関わると、ろくでもない理屈でも受け入れるものなのだが、それにしてもこれは酷い。しかし、あの演説が完全にコントロールされて、計算された代物であれば、話は別だ。「カナリア軍」は手強い相手になるだろう。

 少なくとも、こちらの部下はあの演説が心に届いていない。それだけが、今日の収穫だ。

 惑星「テラース」の最南端に位置する最小の大陸、クルサイガス大陸の内陸部の砂漠地帯。それが、今回の戦いのリングである。ここにはもう殆ど住民がいない。街もその少ない住民の生活を維持するのに必要最低限の規模でしかない。

 宇宙規模での問題が、惑星最小の大陸の砂漠地帯にて決められるというのは、何とも皮肉な事態であるが、お互いにギフテッドとは言え、お互いに13才の少年が率いる組織がぶつかり合うと言うのも、また皮肉な構図であった。


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