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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第3章 「碧伐」篇
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0036 普通こそ最強

 雷剛将軍の前進は、サルスト・カーヴァイン総大将の前進も促していた。お互いに今の所は互角の戦いをしていたが、時間が経てば経つほど、サルスト総大将率いるアレクトスト帝国軍の優勢は揺るがなくなる。短期決戦に持ち込みたい一心で、雷剛将軍は自身の姿を最前線に晒していた。思っていた以上に、こちらの兵の骸が多い。互角だとは言え、確かにこの勢いでお互いに戦っていたら、いずれはこちらの兵が尽きる。

 こちらの大軍師・來汰は、この様な状況であればどんな風に乗り切るのか。いや、軍師って言うのは戦の事は何でも分かる、と言う人間では無い。せいぜい、戦う前の下準備程度の事しか出来ない。ピンからキリまで、そんな事が出来る軍師は1人も居ない。

 雷剛は、覚悟を固めた。ここで死んでも、悔いは無い。勝っても負けても、悔いは無い。人知を尽くして天命を待つ。自分はもうやれる事は精一杯やった。後のことは、部下達に任せれば良い。雷剛将軍は、この「碧伐」の第一戦目、ギルスタン同盟にて戦った総司令官の詠璧と同じ様に、猛将でも無ければ知将でも無い、矢張り凡将と呼べる性質である。だからこそ、本陣を引き連れての前線行きとはいえ、自分が正に「生きるか死ぬか」の現場に出張ったと言う緊張感は、胸を締め上げていた。

 まさか、これで本当に将軍同士の一騎打ちになんて、なるんじゃないだろうな。そんな予感もしていたが、それも良い、と思い直していた。実際に矛を交えて、勝てるかどうかなんて、いや、絶対負ける。矛は清栄がうった渾身の出来栄えであるが、この一振りでどうにかなるとは思えない。もっと、衝撃的で、過激で、相手が完全にこちらに脅える様な、そんな戦いで無ければ駄目だ。泥仕合をみせても、勝っても負けても、アレクトスト帝国軍の戦意は挫けない。

 その時は、それで良い。もしこの一戦で死ぬのであれば、俺は笑って死んでやる。やるべき事は全部やった。ここで死んでも、文句を言われる謂れは無い。良いんだ。やるんだ。なけなしの勇気を全部注ぎ込んで、アレクトスト帝国軍の本陣へと突っ込んでいく。


 一方のサルスト・カーヴァイン総大将は、最初からやる気満々であった。サルスト総大将の家系は、代々将軍の家系であり、言うなればぼんぼんのお坊ちゃんである。常勝無敗のサルスト家の末裔である自分が負けるなんて、有り得ない。現に今まで調練にて負けた事は一度も無い。将軍同士の一騎打ちなんて、上等だ。やってやるよ。こちらが負けるなんて、これっぽっちも思わない。

 サルスト総大将は、堂々とした姿で碧軍の本陣へとぶつかっていく。


 戦姫総大将の天鳳は、空で矛を振るいながら、地上での戦いの流れを見下ろす。そうだ、敵の総大将を誘き寄せろ。もしアレクトスト帝国軍に知将あらば、敵に隙を見せるとして止めるところであるが、敵はむしろ堂々とした布陣でこちらに迫ってきている。これを油断と言わずして何と言おう。


 お互いに相対する将軍・雷剛と、サルスト・カーヴァイン総大将。遂にここまで来てしまった。雷剛将軍は、言葉も文化も異なる土地からやってきた人間を前にして、矛を構え直す。それを見たサルスト総大将は、剣を抜く。

 さぁ、一騎打ちだ。ここから先、お互いに卑怯な真似は出来ない。後世に汚名を残すだけでなく、敵軍は完全に怒り狂ってこちらに全面的な攻勢に出るだろう。

 この雷剛、これが初陣、矛を振るったのはこの戦が初めて、それでも調練だけは欠かさず行い、将としての心得も何度も教えられてきた。これが最初で最期の一戦になろうとも、これが運命なれば致し方なし。我に天佑無きと悟るのみ。

 お互いに将軍用に用意された馬上から、真っ正面から突っ込んでいく。凡人対秀才。サルスト総大将の剣に、雷剛の矛の一閃がぶつかる。軽くいなされるとと思っていたが、かなり姿勢を崩している。

 まだまだ、やってやる。やってやるんだ。矛を何度も振るって、サルスト総大将の身体を切り裂かんとするが、相手はその全てを防いでくる。決して弱くない。むしろ、こちらより巧い。

 駄目だ。どうしても、この剣の壁を越えられない。どうすればいい、どうすればこの剣の防壁を越えられるのだ。もっと早く、もっと強く、矛をふるうのだ。

 駄目だ駄目だ。もっと早く、もっと強く、まだ自分の力の7割だって使ってやしない。全力全開出して、出して、出し切って、空っぽになるまで戦うんだ。


 こいつ、戦慣れしていないな。サルスト・カーヴァイン総大将は、すぐに敵の力量を見抜いていた。攻めれば攻める程、疲れるのは自分自身だ。こう言う時は、闇雲に攻撃を加えるのでは無く、防御に徹して、相手が疲れるのを待つのが正解だ。

 いや、こんな理屈倒れな戦法にしても、こちらが理屈通りに戦えなければ無意味だ。如何するべきか。敵は疲れ知らずで矛を振り回している。その動きは、拙いと言う事は無いが、それでも天賦の才があるとは言えない。凡将だ。

 しかし、凡将と言うのは欠点を探す方が難しい。ある意味、猛将や知将の方が、特徴があるだけ、弱点が見えやすい。「普通」というのは、それだけで大きな武器となる。総合力で上回らなければ、これには勝てないのだ。自分は凡将でこそ無いと思いたいが、かと言って猛将では無い。クソ、やっぱり俺も、凡将か。戦に家系は関係ない。ただ、どっちが生き延びたかで、全部決まるのだ。

 生き延びた方が正しい。であれば、こんな安い陽動に、挑発に引っかかるなんて、そんなの有り得ない。俺はなんて馬鹿なんだ。こんな見え透いた罠に引っかかるとは。しかし、今更逃げる訳には行かない。今逃げれば、汚名どうのこうの以前に、味方の士気を大きく削ぐ。

 どんどん、敵の矛の動きが鋭くなっていく。ヤバい。このままでは、防ぎきれない。どうする、逃げるか。いや、もう逃げられない。駄目だ、何とかしなければ。目の前に、見事にうたれた矛の刃が迫る。どうやら、愚将だったのは俺の方らしい。


 敵軍は、肩を落として引き上げていた。雷剛将軍は、これに対して生き延びた味方と共に鬨の声をあげていた。勝った。俺達は勝ったんだ。もう凡将なんて言わせない。「碧」の軍隊は世界一だ。

 しかし、雷剛将軍には1つだけ、分かっている事があった。これが最後の「碧伐」ではない。次の出兵の準備が出来たら、2度目の「碧伐」が行われるだろう。それまでの準備期間は、少しは稼げた。でも、今はもう全力出し切った。次の事は、あんまり考えたくなかった。


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