0032 消耗戦
この世界の攻城戦は、以下の通りである。戦姫軍で制空権を制圧、敵の城を歩兵軍や野獣軍でもって包囲下に置いて、最後は巨神兵により取り壊させるのだ。理にかなっている、常識的なやり方であるが、それはお互いに百も承知である。もし立場が逆であったとしても、お互いに同じ手を使った筈だ。
こちらに突っ込んでくるベルクト王朝軍に対して、弓兵が次々と矢を放つ、闘獅子軍は城門のところで近寄る兵士や、普通の熊のサイズよりも2倍程度の紅熊を食らっていく。空から来る戦姫軍に対しては、巨神軍と連携してこれを叩く。既に出来上がっているセオリー通りである。
ベルクト王朝軍も、その通りに攻めてみたが、大国「碧」が莫大な予算と人手で作らせた名城、第1次攻撃は悲惨な形で終わりを告げた。
ベルクト王朝軍は、碧軍が総戦力の半分しか城に置いていない事に気が付いて、今度の攻城戦は圧勝であると早とちりしてしまったのが運の尽き。碧軍も必死だ。これで負ければ、聖華大陸は文字通り不毛の土地と化す。土地には塩を撒かれて、建物は1つ残らずぶち壊されて、歴史書は全て燃やされて、生き残った民は奴隷として売り飛ばされる。
「北の城塞」は、矢で斃れた人間、闘獅子に喉笛に食らい付いて窒息死させる紅熊、自分達と同等の力を持つ戦姫同士の戦いに、巨神兵も加わって、次々と潰されていく。
攻城戦のノウハウは、確かに揃っている、しかし、こんな見事な城を相手にするのは想定外であった。幾ら戦時急造したものとはいえ、この場ではまるで1000年の間、敵軍を持ち堪えた歴戦の城を思い起こさせていた。
天鳳は、巨神の拳を避けた敵の戦姫の背中を斜めに一閃、切り裂く。なる程、戦況はこちらが有利である。矢を射まくっている歩兵軍、一門しか無い城門にて奮戦する闘獅子軍、そして空の安全を担保している自分達戦姫軍と巨神軍。
しかし、「戦況が優位」程度では、敵は攻撃を緩めない。むしろ、次の攻撃は総戦力を投じての決戦となるはずだ。
同じ事は、西の城塞でも起きているはずだ。いや、あそこは2カ国の敵軍を担当しているのだから、負担も2倍になっている筈だ。このペースで戦っていたら、消耗戦でこちらが負ける。
そして何よりも、碧は援軍を期待出来ない。このまま消耗戦を続けていたら、こちらの負けだ。
敵も味方も、「西の城塞」が最後まで持ち越えられるかどうかは、あまり自信が無かった。それでも、碧軍は1歩も引かずにヴァーチェス帝国軍と戦い抜いた。
疲れた天鳳が、片膝を落とす。そこを3人の戦姫が同時に襲いかかる。天鳳は、全力を振り絞って矛を大きく横に一薙ぎ振るう。3人の戦姫は、身体のパーツがベキベキになって、城の上に転がる。
既に敵の死体は勿論、味方の死体も視界を埋め尽くし始めていた。もうそろそろ限界か。そう思われた時、ヴァーチェス帝国軍は一旦軍を退いた。
生き延びた碧軍は、城に用意された大型の食料庫や貯水庫から持ち出された水と食料に貪りついた。これで酒でもあれば完璧だったのだが、仮にも戦中に飲酒をするのは憚られてた。もし勝てれば、その時は戦勝祝いで死ぬまで飲めるのだ。もし勝てれば、の話であるが。
戦局を聞いている大江帝は、難しい表情を浮かべる。我が軍有利、とは到底言えない状況である。援軍を送れたら良いのであるが、人的動員はまだ目処も立っていない。
「北も西も大苦戦中か。しかし、戦力を二分にしたのは本当によろしかったのでしょうか」
家臣の一人が、ボロリと口から本音が出てくる。それは誰もが感じた事である。しかし、西を手薄にする理由は1つも無いのだ。唯一の慰めは、敵であるベルクト王朝軍もカーディアス帝国軍も、かなりの損失を被っている事実である。そうなると、アレクトスト帝国との戦いがラストマッチだ。それまでは、犠牲上等で戦い抜くしか無い。
「この戦、果たして勝てるのか」
大江帝は、肩を落としながら呟く。それは、この場にいる数十人の家臣達も同じ心境であった。負けなければ良いのだが、その場合は同じ事が後世にて何度でも起こる。その連続の中で、碧は経済力と国力を削り取られていき、気が付けばスッテンテンにされているかもしれないが、それでもやっぱり自分達の負けだ。
「この戦、果たして勝てるのか」
もう一度、同じ言葉が大江帝の口から出て来ていた。これから、どれだけの犠牲が出るか。その軍部を再建するのに、どれだけ予算と人員が必要となるのか。
否、それも可能だ。国土を荒らされなければ、それくらいは出来る。1日や1週間、1か月では無理であろうが、その為に莫大な予算をかけて、あんな豪勢な城を西と北の入り口に建設したのだ。未だに援軍の要請は出ていないが、それは単純にこちらの台所事情を知り尽くしているからに過ぎない。しかし、切羽詰まれば、当然無茶を承知で援軍の要請が出されるだろう。そうなった時、言い訳なんて口から出てこない。
「北の城塞」に居る、闘獅子総大将・馬濡禹は、その状況についてかなり悲観的であった、闘獅子もまた餌と水を飲ませて休ませているのだが、人間にせよ闘獅子にせよ、生きものである以上、フィジカルでの面では勿論、メンタルの面でも限界があるのだ。それを酷使して戦って勝った軍隊は1つだって無い。このままでは、「碧伐」は成功裡に終わってしまうだろう。
刃備剣総大将は、頭を抱えていた。こんな日々が続いていたら、いずれはこの城は燃えて砕けて、跡形も無くなる。
しかし、それはカーディアス帝国軍とベルクト王朝軍も同じであった。突撃の度に膨大な犠牲を強いられており、このままでは敵より先にこちらの戦力が払底してしまう。後にアレクトスト帝国軍が控えているカーディアス帝国軍はまだしも、単独で攻め込んでいるベルクト王朝軍の損害は深刻であった。
兵は猛烈なスピードで消耗する。その教訓を、彼らは強かに教わっていた。それでも、攻める側にはそれだけの犠牲を払う理由があり、そう言う意味では自分達に言い訳をすることが出来ていた。




