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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第3章 「碧伐」篇
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0031 最初の山場

 何と美しい城だろうか。とてもではないが、急拵えで作った城とは思えない。立地条件も見事なもので、そこを避けて迂回路を探そうにも、大軍が通れる道は1つだって無い。この城1つ作るのに、どれだけ金をばら撒いたか知らないが、人も物も動員できるだけ動員したのであろう。矢張り「金持ち」の国はやる事のスケールがデカい。

 ベルクト王朝軍大元帥。カリュキラス・マンシュは、戦姫軍、紅熊軍、巨神軍、歩兵軍の大将達と共に、碧国軍が立て籠もる「北の城塞」を遠目に眺めていた。ここから見ても、その姿は美しかった。あの城をこれから燃やさなければならないのかと思うと、心苦しさすら覚えるくらいだ。

「何処からどう攻めるべきか、何か意見が聞きたい」

「陸路だけでは敵の思う壺です。かと言って、戦姫のみで空から襲っても同じです」

「こんなに短い間にあんな見事な城を建てられた事が、想定外の事態であります故に、そう簡単に落城させられる方法は思いつきません」

「かと言って、馬鹿正直に正面から落としにかかるのは、犠牲が大きすぎます。西のヴァーチェスやアレクトストが攻め込むまで待ち続けるしかありませんな。その方が確実です」

 将軍達の意見が出尽くしたところで、カリュキラス総大将は結論を出す。

「全軍をもって総攻撃を行う。西の同盟国が来るのを待つ方が確かに確実だが、それでは時間がかかりすぎる。碧に対して行動の選択肢を与えないで、身動きがとれない様にするのには、あの城に立て籠もっている碧軍を我が軍が引き止める必要がある」

「あの城に敵の全軍が立て籠もっていると言う確証はありません」

 そう言うのは、紅熊軍の将軍、ローディストラ・ファネルである。カリュキラス総大将の沈黙を、「説明を求める」沈黙であると受け止めたローディストラ将軍は、先を続ける。

「敵の全軍があの城に居るという情報は、まだありません。城は確かに立派なものです。ですが、あの城を落城させれば、この戦に勝てると言う訳ではありません。こうなれば、多少時間はかかっても、迂回路を通って、あの城を避けるべきです。でなければ、我が軍は血と時間を無駄に失う事になります」

「ギルスタン同盟との戦いで、碧軍は総戦力の2割を失った。単純な合戦を繰り返せば、碧軍はその主力を失って敗北する。それを避ける為に、北の要衝に城を築いたのだ」

「それも解せません。南のギルスタン同盟を打ち負かしたとは言え、まだ北の我が国、それに西からも敵が来るという状況で、北だけに備えて城を作るでしょうか」

「まさか、西にもう1つ城を作ったとでも言うのか」

「充分に有り得ます。その為の資金も労力も、碧にはあります。碧がどれだけあくどい形で商売をして、次々と世界の富を吸い上げたか。城を2つ同時に建てるくらいでは、ビクともしない程だと思います。労力についても、農務を休ませて農民を駆り出せば、この国の人口ならば確保できます」

「では、どうする?」

「あの城、ここから見ても実に良く出来ています。攻城戦のノウハウは我が国にはタップリありますが、あんな立派な城を落とすのには苦労すると言うのは、そのノウハウから理解出来ます。追加で援軍と攻城専用の武器を要請した上での総攻撃で無ければ、犠牲ばかり大きくて、得る物が少ない結果になります。下手を打てば、負けます」

 負けます。断言された総大将は、沈黙する。今度は、「苦悩」の沈黙である。


 ローディストラ将軍の予測は、完璧なまでに当たっていた。同じタイミングにて、西方の大陸から侵攻していたヴァーチェス帝国とアレクトスト帝国の大軍は、巨大で見事な城塞を見つけて、度肝を抜かれていた。この短期間で、これだけ立派な城を造り上げるとは、碧国の財力と労力はここまで発展していたとは、富を搾取される側であった両帝国の兵隊達は、その規模を前にして圧倒されていた。

 攻城戦になるとは思って居らず、その為の武器も装備も用意していない両国の軍は、一旦撤退するか、あるいは本国からそれらの武器や装備が届けられるまで、待機しているべきか、もしくは時間を惜しんで戦いを挑むか。悩みどころであった。

 そこでも、ベルクト王朝軍の現場指揮官と同じ議論が行われていた。結局、時間だけが過ぎていく中で、遥々北から大きく迂回してやってきた戦姫の伝令が飛んできて、「北の城塞」の存在を告げてきた。それを聞いて、彼らは決断を下す。

「全軍総攻撃にかかる」


 バレたか。「西の城塞」に陣取る碧戦姫軍総大将の天鳳は、見事な陣形で進軍してくるカーディアス帝国軍を見て、覚悟を決める。「北の城塞」でも、同じ様に総攻撃が始まっているだろう。

 こちらは、総戦力を半分ずつ北と西に振り分けた。本当は3分割して、北に1個軍と、西に2個軍と言う形で振り分けたいところであったが、西にはこちらの首都・杯州がある事を考えると、民を安心させる為には、一兵でも多く西に配置させなければならなかった。

 城塞は立派なものだが、中にいる軍勢は当初の総戦力の半分。だとすれば、真っ正面からの総攻撃でも充分に攻め落とせる。そう確信していた。攻城戦のノウハウは、過去に何度も戦ってきて、たっぷりと積んでいる。あの無敵の城が血と炎の中に消えていく光景が、彼らにはハッキリと見えていた。

 西はこれから暫く血が流れる事態になる。北もそろそろ流血沙汰になる。こうなったら、後は野となれ山となれ。やるべき事は全てやった。後は天に全てを任せるより他ない。


 「北の城塞」に配置された軍師・叛明は、ベルクト王朝軍が南下してくる光景を見て、どうやらこちらの台所事情を察したらしいと踏んでいた。城は立派だが、中にいる兵隊は半分ずつに振り分けられている。兵力の分散。用兵家にとって最悪の悪手であるが、大元帥・來汰はこれしか手が無いとして押し通していた。短い時間の中で、可能な限り議論した末に導き出された結論であった。

 この城の力を信じるしか無い。人知を尽くして天命を待つ。この城を2つ同時に造っただけで、かなりの金を散財してしまったが、1日や2日で落城する事は無い。徹底的に守りに入り、敵の攻撃力が限界に来た際に城を出て決戦を行い、これに勝利する。それが、この戦にて碧が考えた青写真である。その通りに戦況が動いてくれるかどうかは賭けであるが、大金をかけて築城した2つの城は、そう簡単には落城しない造りである。それだけが頼りだ。

 「西の城塞」と「北の城塞」、2つの城にて、「碧伐」は最初の山場を迎える。最期に血の海に沈むのか、あるいは敵の侵攻を食い止めてはね除けるのか。この瞬間、碧の帝、大江帝はその命運を2つの城に賭けていた。


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