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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第3章 「碧伐」篇
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0030 永遠の遺産

 後にファウスト連合と呼ばれる事になる「碧伐」を行う4カ国の内、早くも1国が、ギルスタン同盟がさっさと負けてしまい、次に標的になるとされているベルクト王朝であると予測されていた。一番近く、そして攻めやすい地形であるベルクト王朝は、まだまだ戦備計画がそこまで整っていない。4カ国の包囲網を破るのに、防御に回らずに攻勢に出て、この一角を突き崩した碧国に対して、ファウスト連合は総合司令部のある、ヴィクター大陸にある。アレクトスト帝国の総司令部、別命「ファウスト司令所」と呼ばれる豪勢な建物にて、侃々諤々な議論が為されていた。

 なる程、ギルスタン同盟は敗れた。1カ国では「碧」を打ち倒すのは困難、あるいは不可能である事が証明された。しかし、ベルクト王朝の首都は碧からは遠い。アスラン大陸における双方の国境地帯に、両軍は物量をかき集めている。その動きは、碧の方がより素早い。国土が広いが故に、兵量を集中しようとしたら、時間がかかってしまうのは、この国の致命的な弱点であるが、それでも碧との国境線沿いに集められた戦力は、それだけで碧の総戦力に拮抗する規模だ。

 しかし、この際、最大の敵は「時間」だ。そしてもう1つの敵は、「戦術の変更」である。信頼できる情報筋であれば、碧軍はギルスタン同盟との戦いで、自軍の総戦力の2割を失った。ギルスタン同盟が物量の時点で碧に負けていた事を考えると、かなりの損失である。この100年、戦なんて一度も起きなかった中で、現場での戦い方もまた進歩を止めていた。このまま100年前と同じやり方で戦争をすれば、犠牲が増える続ける一方だ。

 何かしら、戦法を変えるつもりだろう。早くて簡単で、そして確実な方法を考えようとするだろう。ベルクト王朝は、出来れば物量によるゴリ押しで勝つのが望ましい。元々それがお国柄とも言える戦法であったが、ベルクト王朝の人的動員は、本気を出せばアスラン大陸で最強と言われる所以である、

 だからこそ、碧はあの手この手で新戦法を産み出してくるだろう。こちらもある程度は考えなければならない。


 件の碧の軍議は、完全に荒れていた。総兵力の2割を失うと言うのは、今後の碧の戦いの困難さを物語っていた。空いた穴は新兵で埋め合わせるのだが、何処から新兵を引き抜くのか、それは国民からである。

 家業として労役につき、農耕に勤しむ一方で、兵役まで重ねると言うのは、地獄の責め苦である。腕一本、足一本、欠けた状態で戻ってきても、それはもはや労働力として使い物にはならない。

 それで、どうやってこちらの犠牲を抑えつつ敵に最大の出血を強いる事が出来るのか。このままでは、物量に負けて大江帝を吊される未来が目の前にぶら下がっている。

 稼げた貴重な時間の中で、碧軍の大軍師・來汰は、他の軍師や将軍から続々と出されるアイデアを聞きながらも、その中で使えそうなものを幾らかピックアップしていたが、矢張り100年の平和ボケはなかなか抜けきらず、どれもこれも麻雀であれば有効な戦法かも知れないと言う程度の、戦を遊戯の1つだとしか考えていない、机上の空論か、あるいは絵に描いた餅か、そのどちらかだった。

 天鳳は、貴重な時間が浪費されている光景を見ながら、此処で初めて手をあげる。

「ベルクト王朝軍の攻撃を、一度受け流して、反撃を行うのが良いかもと思います」

 それはつまり、どう言う意味か。具体的に述べよ。

「戦に置ける防御優位は、何時でも同じ話です。防御に適した場所に拠点を置き、そこで防御を固めて、敵に対して出血を強いつつ、数的優勢を勝ち得たのと同時にこちらが攻勢に移る、これしかありません」

 異論・反論はなかなか出ない。つまり、これで決まりだ。しかし、次はこ防御の型を実戦にて最大限発揮できる土地を探すのであるが、北アスラン大陸と聖華大陸の間には、ただひたすら平地が広がるのみである。これに対しては、大軍師・來汰はもう1つ、アイデアを付け加える。

「無い物は作ればいい。可能な限り、現時点での残り時間で作れる城を作れば良い。見てくれは悪くても、使い勝手の良い城を作るんだ」

 後に、「北の城塞」と呼ばれて、文化遺産として登録される城が、こうして建造が始まっていた。


 時間が少ないというのは、ベルクト王朝も同じであった。時間が経てば経つほど、敵に有利になるのだ。その短い時間の中で、新戦法を編みだして、最前線にて試さなければならない。

 だが、彼らも碧と同様、なかなか良いプランが浮かばない。その中で、碧が国境線沿いに城を築城していると言う情報が齎されていた。この際、新戦術の考案なんて雲を掴む議論はしないで、純粋に圧倒的物量にて絞め殺す方向で軍議は進み、城が完成していようと未完成だろうと、兎に角時間をかけて多数の物量を用意する事を考えていた。


 大江帝は、その「北の城塞」を見て、暫く声が出なかった。なんと、なんと雄大で、それでいて精巧な城塞なのか。碧がこの100年で果たした経済発展の結晶とも言える巨大城塞である。

 もしかして、勝てるのではないか。大江帝の脳裏にいは、そんな考えも過っていた。や、しかしギルスタン同盟が降伏したとは言え、まだまだ敵は3カ国も居る。ベルクト王朝も、その中では大きい勢力であるのは疑いないが、この100年、宮殿の床が抜けそうになる程貯め込んだ金・銀・銅でもって、贅沢で強力な戦いを行えば、あるいは勝てるかも知れない。

 労役で使える若者を総動員してでの、突貫工事で作られている「北の城塞」は、完成間近になって、斥候の戦姫が北から悠然として、そして高圧的な陣形でもって、国境線を南下していた、最後のレンガをはめ込んだ頃には、「北の城塞」の前には膨大なベルクト王朝軍が、見事な布陣でもって、城塞に配置された碧を包囲していた。


 デカい。そうとしか言えない、あれだけ短い時間の中で、こんなにも御立派な城塞を建築できたのだから、碧の100年の発展が為せる業である。中にいる軍勢も、かなりの数になるに違いない。果たして、この城塞を抜けて、西のヴァーチェス帝国が準備を終えて攻め込んでくるまでに、首都・杯州を攻め落とせるのか。

 ベルクト王朝軍は、その巨大な城壁を見つめながら、自分達が故郷に戻れるかどうか、自信を少し無くし始めていた。



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