0024 大京決戦
革命軍の水上戦姫部隊が、最初の発見者であった。大京湾の空は、轟々たる発動機の駆動音に支配されてしまった。ようやく正式採用されたばかりの単葉機である九九式戦闘機、複葉機の九六式艦上爆撃機、魚雷を積んだ九五式艦上攻撃機、それだけではなく別方向からも空軍の九八式戦闘機、双発爆撃機の八八式爆撃機。それが積んでいるのは、爆弾では無く魚雷だ。これらの機体は、水上戦姫部隊の誘導、あるいは爆装していない嚮導機の誘導により、ただ一途、大京湾に向かっていた。
その意図する所は明々白々、賊軍が制海権を握っている大京湾に浮かんでいる、4隻の旧式戦艦を沈める為だ。こいつら、本気だ。本気で航空機で戦艦を沈めようとしている。そんな非常識的な事が、有り得るのだろうか。もし沈められたら、世界的な、歴史的な快挙だ。もうあと10年もすれば練習艦扱いされる旧式戦艦を、4隻纏めて沈めたら。
いや、そんな事を考えている暇はない。飛行師団が配置についている桝沢飛行場へと報告を飛ばす。
「こちら雀。鷹へ。敵機発見。空を埋め尽くす物量にて、目下進撃中。至急迎撃されたし」
革命軍指揮所では、幹部達の顔が真っ青になる。地上からも観測できる距離まで詰めた時点で、その数を確認すると、戦爆雷全部合わせて100機以上だと言う。観艦式でだって、こんなに飛ばさない。それも海軍艦載機は勿論、空軍機も総動員の、大規模な数だ。
こいつは参った。どうやら、反革命軍はこの首都・大京を燃やし尽くすつもりで戦うつもりらしい。これは軽い一撃目ではない。最初から「キメ」にかかっている。ここで1本取られたら、今後の戦いの行く末は決まっている。武力制圧・逮捕・軍事法廷・極刑の流れだ。
何を今更、迷うのだ。元よりこの武装蜂起を始めると決めた時から、失敗した場合はこの流れになると分かっていたではないか。しかし、戦爆雷合わせて100機以上なんて、1個飛行師団に配備されている戦闘機だけで対処しきれる数では無い。
「こちら鮫。桜花へ。戦艦「ひょうか」「ませ」「ばうす」「めるすと」を確認。他に革命軍のものと思しき艦艇無し」
「こちら桜花。鮫へ。「敵」の邀撃はないか」
「こちら鮫。今はまだ、いや、来た、来た来た。ざっと40機って所だ。こちらとほぼ互角だ。これより戦闘に入る」
何と言うことだ。反革命軍の頭はネジが幾らか弾け飛んでいるに違いない。戦艦に航空機をぶつけるとは。想定の範囲外の出来事だ。戦艦を沈められるのは、魚雷攻撃だけだ。砲戦により傷ついた戦艦に、駆逐艦でもって接近、一撃必殺の雷撃により沈めるのが、この時代の海戦に置ける原則である。
それをなんだ。あいつらは、航空機なんて使いやがって。こちらには、対空装備なんて殆ど無い。あっても数は少ない。最初からそういう事態を想定していない。訓練すら「ついでに」やっているのだ。こんな状況に置かれるなんて、これがこの惑星「テラース」の歴史では初めてであろう。
兎に角、撃ち落とさなければ。いやいや、それより回避が重要だ。しかし、ここでまた大事な事を思い出す。航空機による爆撃や雷撃の回避運動なんて訓練した事が無い。ぶっつけ本番だ。出来るのか、この狭い大京湾にて、同時に4隻の戦艦が、排水量3万5千トンのデカい鉄の塊が右へ左へ這いずり回るのは、危険すぎる。想像だってしたくはない。
「っぃよし! どうにか8割は戦闘機の邀撃を振り切ったな! さぁて、ここからが大変だっ!」
「どいつから狙いますか!」
「先ずは先頭を走る「ひょうか」を狙うぞ! 俺達が初めてだぞ、戦艦に爆撃を行う搭乗員はよぉっ!」
「有り難き幸せ!」
艦上爆撃機39機は、事前の打ち合わせ通り、4隻に満遍なく爆弾を降らせようとする。やられる方も初めてならば、やる方も初めてである。回避運動をする様子は、不思議な事に一切見られない。対空砲火もそんなに激しくない。むしろ殆ど飛んでこない。正しく、独壇場だ。軍事政権の樹立による国政改革なんて許しはしない。それなら選挙にでも出れば良いのに、軍事クーデターなんて反則技を使うのは筋が通らない。
こいつらは、既に古浦鎮守府をその主砲で地上から消し飛ばした。今更説得なんて野暮ったい真似はしない。鉄拳制裁あるのみだ。
投下された250キロ爆弾は、全弾命中した。やる方は、実を言うと内心冷や冷やしていた。やる方とて初めての体験である。対艦爆撃なんて、訓練した事は無いのだ。2,3発命中して恩の字程度の気持ちで居たら、吃驚全弾命中である。
4隻の旧式戦艦が、艦上構造物を半ば破壊されて、狭い湾内にてのたうち回っている。1隻は速度が極端に落ちている。恐らく、弾薬庫近くに命中して、誘爆を避ける為の措置だ。
「……爆撃隊め、派手にやっているな。こっちは10機は散華したな。第6飛行師団の奴等、腕が立つ。敵にするのは惜しい奴等だった」
「隊長、それよりも、こちらはどうするのですか」
「4隻も標的が居るんだ。陸攻隊には申し訳ないが、こちらが全部頂く」
「し、しかし、こんなの、訓練した事が無いので」
「海面すれすれを飛んで、出来る限り接近して魚雷を投下すればいい。大京湾はそんなに浅い海じゃ無いから、海底に突き刺さるなんて無様な事にはならない。奴等に暴力の代償を教えてやる」
「古浦鎮守府で大勢の仲間を殺した、裏切り者には制裁を、ですな」
「……逝け! 賊軍!」
魚雷も全弾命中であった。特に弾薬庫に注水して速力が落ちていた「めるすと」には攻撃が集中、大量の浸水に耐えかねて、沈み始めていた。他の戦艦もまた、大きく傷ついて、這いずり回っている。ここで白旗でもあげれば良いのだが、まだまだ空軍の双発爆撃機が残っている。爆弾ではなく魚雷を積み込んでいる陸攻隊は、図体が大きい分、対空砲火が当たりやすい、的が大きすぎると言う欠点があったが、こちらが制空権をほぼ握っており、標的が半分沈みかけの旧式戦艦とあらば、図体がデカいのは問題にはならない。
「7機撃墜、か。第6飛行師団の連中、腕は良いんだろうがな。同胞同士で殺し合うのなんて、経験しない方が良いなぁ」
「で、どうします? 対艦雷撃訓練なんて、これが初めてですよぉ?」
「大丈夫、大丈夫、さっき艦攻隊がやった様に低空飛行で接近して、魚雷を投下するんだ相手はオンボロに付け加えて、攻撃でボロボロの戦艦だ。これが訓練だと思えば楽なものだ」
「どのくらい、低空で行きましょうか」
「可能な限りだな。お前の腕に任せる」
今度こそ、4隻の旧式戦艦は大京湾の底へと沈んでいく。1隻につき250キロ爆弾が9発と10発が命中、魚雷に至っては1隻につき6本が命中、旧式戦艦どころか、新型のピカピカの巨大戦艦だろうと、耐えきらない攻撃である。公国海軍最強戦艦の「なぐる」「むぬ」の介錯も必要としない。一方的な展開であった。
さて、これで制海権は奪取した。後は陸軍部隊が、桝沢飛行場を制圧してくれたら、この大京湾にて「なぐる」以下5隻の計6隻の戦艦が、41㎝砲と36㎝砲で革命軍司令部に砲口を向ければ、その時点でこの反乱事件は解決だ。
頼む。上手く行ってくれ。制海権はこんなに上手く奪還できたのだ。第6飛行師団は、こちらの航空機への対応に手一杯だろうから、その隙に飛行場を狙う。悪い作戦ではない。だが、2個歩兵師団、1個機甲師団、1個騎兵隊、これを突破するのは、桐沢之カツミ少将がかき集めた陸軍部隊が、飛行場に向かって直進中だ。
頼む。上手くやってくれ。鞍馬之マスオ作戦中佐は、戦艦「なぐる」の昼戦艦橋にて、そう願わずにはいられなかった。一部の犠牲だって払いたくない。これは内戦なのだ。勝っても虚しいだけだ。




