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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第2章 大京反乱事件篇
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0023 桜が散る前に

 これが現実か。どうやら、自分達は現実を少しばかり甘く見ていたらしい。矢張り、暴力と言うのは信用には繋がらないと言う事実を突きつけられたのみであった。

 革命軍を名乗り、「低級国民の味方」を標榜して、武装蜂起したのだが、その肝心の「低級国民」からはあまり良い反応は返ってきていない。政治不信のみならず、軍部不信も広がっていたというのだから、軍中枢も叩いたのであるが、矢張り暴力は良くなかったのかも知れない。

 しかし、他にどんな方法があると言うのか。このレイド・サム公国を蝕む政治不信・軍部不信を挽回するのに、武力以外の何を使えば良かったのか。いや、そもそもそんな事を考えたのが間違いだったのかも知れない。軍人は公僕であり、私人として振る舞ってはいけない。個人的な動機を仕事に持ち込んではいけない。食っている飯も、飲んでいる水も、支払われている給料も、全部国民からの税金で賄われている。

 幾ら武器を持って、知識を会得し、技術を持っていたとしても、軍人は公務員の一員に過ぎない。軍人が一番偉い国なんて、それだけでも最悪な国家体勢だ。時期が来れば、選挙を行って議会を開いて政府を組閣させて、と言う所まで考えていたが、そうなったとしても、後を継いだ議員や閣僚は常に軍の力に怯え続けることになる。それでも、同じ気持ちで起ってくれた「仲間達」の士気はまだまだ高い。それだけが、革命軍の軍律を支えていた。

 松前之テルユキ少将は、革命軍としてやるべき事は全部やった。金権政治の祖と呼ばれる前総理大臣を公開処刑し、3割の「高級国民」御用達の銀行・高級ホテル・デパートを次々と占拠。そして「高級国民」に迎合する新聞社も次々と封鎖させた。これまで散々怠慢・放漫・傲慢にて庶民を甚振り続けた連中が、次々と「天誅」の言葉と共に成敗されていくのは、劇でも見ている様な快感を齎していたが、その直後に、岩隅県の「益」軍港に集結した「反革命軍」の演説が全国にラジオ放送、新聞にて報道され、人々はその演説内容にて締めに使われた言葉、「信用」という言葉に心が揺れていた。

 7割の「低級国民」の胸には、この「信用」という言葉が刺さっていたが、「革命軍」は「賊軍」という言葉に怒り心頭であった。このままでは、自分達が「悪」にされてしまう。

 だが、今の所、戦局は自分達にとって有利だ。大京湾の制海権は4隻の旧式戦艦で抑えており、制空権は桝沢飛行場を拠点としている第6飛行師団がこれを抑えている。陸地は2個師団の歩兵と1個師団の機甲軍、それに1個師団の戦姫軍が制圧している。これを力で無理矢理こじ開けようとすれば、大京の街は火の海と化す。連中だってそれについては同じ認識の筈だ。

 首都・大京の街を燃やしてはならないのだ。もしこれを燃やしてしまえば、レイド・サム公国は国際社会にて内乱さえ鎮圧できない国として、2等国扱いされるに違いない。


 同じ事は、反革命軍の指揮官、桐沢之カツミ少将も考えていた。一体どうやって革命軍を大京から引き摺り出して、決戦可能な立地、早い話が田園地帯や空き地の広がる平地へと誘き寄せるか。何度も旗艦「なぐる」の会議室にて様々な案が提出されていたが、満足のいく答えは出てこなかった。

 鞍馬之マスオ作戦中佐は、海軍に籍を置く身として、制海権の奪取から作戦を立ててきたが、地上の桝沢飛行場からの航空機の攻撃を受けたら、手酷い被害を蒙るとする図上演習の結果から、この案は没になった。

 寺瀬之エイキチ作戦中佐は、その結果を受けて、先ずは制空権からと言うアイデアを出したが、空軍のみの力では革命軍を打ち負かせない、あるいは犠牲が大きすぎると言う結論が、矢張り出されていた。

 あれも駄目、これも駄目、さてどうすればいいのか。南之ナミコ戦姫少佐は、この硬直する会議に一石を投じる発言を告げる。

「順番にやりましょう」

 順番に? それはどう言う意味か。

「ここで各部署が主導権争いなんてして、時間だけ過ぎていくのであれば、これ程無駄な事はありません。戦術なんてじゃんけんなんです。グーにはパー、パーにはチョキ、チョキにはグー」

「とすると、海には空、空には陸、陸には海、となるが」

「4隻も揃えたとしても、あと10年経てば練習艦に指定されるオンボロ戦艦ですから、空母「いかじ」「がぶ」「まおしゅう」から戦爆雷連合を、それに近隣の飛行場からも援軍を頼んで、この4隻を沈めます。空軍はその間、海軍の支援に忙しいでしょうから、その隙に陸軍が飛行場を制圧。残った陸軍は沿岸部にて砲列を並べれば、それだけで敵は降伏するでしょう」

「机上の空論じゃないのか。特に陸軍による飛行場制圧は、時間がかかれば画餅となる」

「「盤土戦争」でも、機甲軍の存在が勝利を呼び込みました。今回も、それにあやかるべきです。いざと言う時は、制海権を確保した上で、「敵」飛行場に砲撃を行っても構いません」

「臨機応変に、か」

 麻夫之タツト巨神大佐が、この議論に割って入る。

「我々も飛行場への攻撃に参加します。図体がデカい故に、大京での戦いには苦戦が予測されますが、必要とあらばその一部を犠牲にするのであれば、その役、喜んで買ってみせます」

 ここまで話が進んだ上で、桐沢之カツミ少将は、1つ懸念を口にする。

「しかし、航空機で戦艦が沈むかね。幾ら旧式戦艦とは言え、一度に4隻も始末できるか?」

「もし航空機だけでは不安であるのならば、公国海軍が保有する全戦艦を動員するべきです。この「なぐる」と「むぬ」は勿論、他にある4隻の巡洋戦艦も動員するべきです。水雷戦隊だって、巡洋艦だって、幾らでもあります」

「……総力戦だな。被害がどれだけ出るのか。陸も海も空も、それに戦姫も巨神も機甲も酷くやられるぞ」

「ここで時間を空費するよりマシです。大京は生産拠点を持たない大都市圏です。都民が飢えるより先に決着をつけなければなりません。まさかクーデターなんて起こる可能性も議論されてこなかったので、食糧や生活必需品の備蓄もない筈です」

 南之ナミコ戦姫少佐は、もう一声、付け加える。

「我々は兎も角、都民の犠牲は可能な限り抑えるべきです。状況の長期化も無論、避けなければなりません。お上品な作戦では相手が力頼みで強引に攻め込んできた時、あっさりと食い破られます」

 どうする。もう図上演習だって、やる暇が惜しい。この作戦に、賭けてみるか。恐らく、公国の持つ軍事力全てを賭けた一大作戦になるに違いない。犠牲も大きいだろう。しかし、「信用」を取り戻すのには、1日でも早く状況を打開するべきだ。クーデター部隊を鎮圧し、首謀者を逮捕して、軍事法廷にて裁くのみだ。

「猶予は一刻も無い。細かい調整と打ち合わせは、各隊急ぎでやってくれ。尚、以後この作戦名は、「桜花」とする」

 これで決まりだ。物資の積み込み、部下との打ち合わせと意志統一、やるべき事は幾らでもある。全部やるべきだ。寝る間も惜しんで、握り飯だけで堪えつつ、やり通すのみだ。


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