0021 軍靴が響く街
首都・大京を護衛する、と言うよりは外交や式典にて活躍する、儀仗兵に近い「名誉職」、あるいは「左遷先」であるレイド・サム公国陸軍第1角騎兵隊が、春の桜が其処彼処にて咲き誇っている都を行進していた。騎兵仕様の短い銃身のカービン銃を提げて、大京の街を練り歩くその姿は、時代遅れであり時代錯誤であったが、見栄えはなる程、あの不格好な「機甲メカ」よりは画になる光景だ。
「機甲メカ」、盤土戦争に置いて時代の変化をまざまざと見せつけた新時代の機械の獣は、2足歩行から4足歩行になり、図体も大きくなっている。積み込んでいる武器、機関砲や主砲も巨大化しており、もはや世界中の軍隊に機甲軍が組織されていた。
角騎兵は、続々と大京の街に散らばっていく。その後から、機甲軍の「巨牛」と呼ばれる4足歩行メカが、街を練り歩く。はて、今日は軍事演習でもあったのかな。事前に地元住民に何か一言あっても良いのだが、角騎兵だけならば、そこまで疑わないが、まさか「巨牛」が出てくるとなるとは、その筋から「演習です」「訓練です」「儀典です」と言ってくる筈なのに。
海の方でも、何かと騒がしい。このレイド・サム公国海軍にて旧式ではあるが、36㎝砲連装砲6基12門の火力を誇る「ひょうか」「ませ」「ばうす」「めるすと」の4隻が、その巨砲を旋回させて、街の方へと向ける。
空も何かと騒がしくなった。戦姫が飛び交い、それだけでなく戦闘機や爆撃機が編隊を組んで飛んでくる。爆撃機は恐ろしい事に爆装している。
そして、歩兵師団がゾロゾロと大京の中心部、レイド・サム公国の行政の中心部にまで行進していた。この時点で、もう観衆はこれが「演習」でも「訓練」でも、ましてや「儀典」でも無い事を察していた。「実戦」だ。しかし、「敵」は誰なのだ。
「クーデターだっ!」
そう分かった時、4隻の旧式戦艦が一斉に主砲を撃ち放つ。48発の砲弾が、大京の鎮守府、古浦鎮守府のビルを直撃し、これを粉々に粉砕し、地上から姿を消す。
ついで、爆撃機が次々と大京の首都議事堂に爆弾を落としていく。まだ歴史的には出来上がったばかりの首都議事堂は、爆炎をあげて、黒煙をあげて、崩れ去っていく。崩れた瓦礫の中で、議員達が、職員達が、涅槃へと旅立っていく。
最後に、「機甲メカ」が各省庁の本部ビルが並ぶ「霧能美」と呼ばれる地域のビルに向けて、4足にて支えられている箱形の胴体に積み込んでいる主砲を撃ち放つ。
この国に生きている公国臣民の中の7割を占める「低級国民」は、自分達が常日頃悪態をつけて、忌み嫌っている3割の「高級国民」が炎と瓦礫の中で悶えて死んでいくのを見て、「痛快」「愉快」と言う気分にはなれない。幾ら悪態をつけても、それで人が死ぬ訳ではない。平和主義的な抵抗と言えば、これに勝るものはないと思っていたのだが、どうやら間違っていたらしい。
矢張り、軍人は信用してはいけない。鶏冠に来たら、根性棒にて殴って修正するのが、あいつらの本性だ。世が世ならば、パワハラと呼ばれる行為であり、それが常習性になっている様な連中である。娑婆とは違う、住んでいる世界が違う、人間の姿をしているが、娑婆の人間ではないのだ。
今更になって、7割の「低級国民」達は、自分達が火薬庫の隣で火遊びをしていた事実を認めざるを得なかった。
公国海軍旗艦「なぐる」から、「益」鎮守府の司令室へと移動した、後に「反革命軍」と名乗る事になる作戦士官の面々は、ラジオ放送にて流れる「革命軍」の演説を聞いていた。
「我々「革命軍」は、現時点において我が国の政府・官僚・役人・軍人・財閥、即ち「高級国民」による統治が機能していないと判断し、これを正す為には武力による制裁以外有り得ないとして、挙兵したのである。これは、公国臣民の7割を占める「低級国民」を救う為の聖戦である。公国の未来の為に、此処に起とうでは無いか」
演説文の出来の善し悪しは兎も角、伝えられているのは、思っていた以上の「革命軍」の戦力である。旧式戦艦とは言え、4隻も揃っているとは。レイド・サム公国の保有する戦艦の半分に近い数である。制空権は桝沢飛行場の空軍部隊が完全に奪っており、外から取ろうとすれば相応の犠牲が必要になる。陸軍部隊も、「お飾り」である第1角騎兵隊だけではなく、「巨牛」こと機甲軍も含められている。そして、大京の中心部をぐるりと包囲下に置いている多数の歩兵部隊。
「旧式戦艦4隻、1個飛行師団、1個騎兵隊、2個歩兵師団、1個戦姫師団、巨神は未確認であるが、本当に居ないとは限らない」
桐沢之カツミ陸軍作戦中佐は、想定される敵兵力を述べる。
「ソメリト合衆国辺りに、援軍を求めたいところだが、そんなのは悪夢以外の何物でも無い。どさくさ紛れに衛星国化、植民地化されるのは疑いない。そうでなくても、内戦に他国が介入して良い結末を迎えた事は1つも無いからな」
「では」
「ああ、やるしか無い。俺達の手で、「革命軍」を名乗る「英雄気取り」を打ちのめすんだ」
だが、単純な戦力比では、革命軍と反革命軍とでは、そこまで開きは無い。むしろ、首都・大京の都民達を人質にとっている「革命軍」を相手にしている今、完全に不足している。長く、そして苦しい戦いとなる。同じレイド・サム公国にて軍務に就く仲間同士で、殺し合わなければならないのだ。だが、ここで戦わなければ、どうなる。軍事独裁政権が樹立されて、制御の効かない強権政治がこの国に吹き荒れて、民主政治は完全に機能を失い、議会も政府も単なる飾りとなって、破滅への道のりをまっしぐらに突っ走っていく羽目になる。
確かに、「高級国民」の不正・腐敗・怠慢は見るに耐えない。だが、それを正すのに暴力を用いては、それは結局のところは改革・開放路線に反する行いであり、自分の国の国是を否定する行いである。
「兎に角、今は全国に散らばる公国軍全軍に呼びかける。そして、可能な限り早くこの内乱を鎮圧する。兎に角、今すぐ動ける部隊に、片っ端から声をかける。もし連中が少しでも賊軍に媚びを売ってきたら、その場で逮捕だ。良いな、逮捕だ。殺すんじゃない」
「反革命軍」は、遅まきながらも動き出した。これ以上、「賊軍」を調子に乗らせるわけにはいかない。




